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査定と鑑定の違いとは?マイホーム売却で損しない価格判断術

公開日:更新日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
桜並木のある日本の住宅街と戸建て住宅

はじめに

「自宅を売りたいけれど、いくらが適正なのか分からない」――マイホームの売却を考え始めたとき、多くの方がまず直面する悩みではないでしょうか。

インターネットで「不動産 査定」と検索すれば、無料の一括査定サイトがずらりと並びます。複数の不動産会社から査定額が届き、「うちなら○○万円で売れます」という提案を受ける。一見、便利な仕組みに見えます。しかし、その査定額の根拠を正確に理解している方は、どれほどいらっしゃるでしょうか?

実は、不動産会社が提示する「査定価格」と、不動産鑑定士が算出する「鑑定評価額」は、まったく異なるものです。この違いを知らないまま売却を進めると、本来得られるはずの利益を逃したり、逆に不必要なコストをかけたりする可能性があります。

私たち鑑定士は、日々「不動産の適正な価値とは何か」と向き合っています。本記事では、マイホームの売却を検討中のあなたに向けて、「適正価格」を正しく知るための方法を体系的にお伝えします。査定と鑑定の違い、不動産の「一物多価」の仕組み、そして鑑定が本当に必要になるケースまで、具体的な数値を交えながら解説していきます。

第1章:そもそも不動産の「価格」とは何か

不動産は「一物多価」――4つの価格が併存する仕組み

不動産には、ひとつの物件に対して複数の「価格」が存在します。これを「一物多価」と呼びます。マイホームの売却を考えるうえで、まず押さえておくべき4つの価格を整理しましょう。

1. 公示価格(公示地価)
国土交通省が毎年1月1日時点で公表する土地の価格です。2026年3月に発表された最新データでは、全国の全用途平均が前年比2.8%上昇し、5年連続のプラスとなりました(国土交通省「令和8年地価公示」)。自由な取引が行われた場合の正常な価格を示すもので、土地取引の指標として機能しています。

2. 相続税路線価
国税庁が毎年7月に公表する、相続税・贈与税の算定基礎となる価格です。一般に公示価格の約80%の水準に設定されています。

3. 固定資産税評価額
市区町村が3年ごとに評価替えを行い、固定資産税の課税基準とする価格です。公示価格の約70%が目安とされています。ただし、マンションの場合は実勢価格との乖離が大きく、50%程度にとどまるケースも珍しくありません。

4. 実勢価格(時価・市場価格)
実際の取引で成立する価格です。需要と供給、個別の事情、交渉力などによって変動し、上記3つの公的価格とは異なる水準になることが一般的です。

あなたのマイホームの「適正価格」を知るには、これら4つの価格の性質を理解したうえで、目的に応じた正しいアプローチを選ぶ必要があります。

「査定価格」と「鑑定評価額」はまったくの別物

不動産の価格を知る方法として、一般的に「査定」と「鑑定」の2つがあります。これらは似ているようで本質がまったく異なります。

不動産査定は、不動産会社の営業担当者が行うものです。周辺の取引事例や市場動向をもとに「この価格なら売れそうだ」という見込み価格を算出します。無料で行われる理由は明快で、売却の仲介契約を獲得するための営業活動の一環だからです。法的な根拠はなく、不動産会社ごとに異なる査定額が出ることも珍しくありません。

一方、不動産鑑定は、国家資格を持つ不動産鑑定士のみが行える独占業務です。「不動産鑑定評価基準」(国土交通省制定)に基づき、原価法・取引事例比較法・収益還元法といった複数の手法を用いて、客観的・合理的に不動産の価値を判定します。その結果は「不動産鑑定評価書」として発行され、裁判所や税務署においても高い証拠力を持ちます。

査定は「営業ツール」、鑑定は「価値の証明」

端的に言えば、査定は「いくらで売れそうか」を示す営業ツールであり、鑑定は「いくらの価値があるか」を証明する専門的な意見書です。

たとえば、不動産会社A社が「5,000万円で売れます」と査定し、B社は「4,500万円です」と出す。このとき、A社の査定が高いからといって、あなたの家が本当に5,000万円の価値を持つとは限りません。A社は仲介契約を取りたいがために、やや高めの数字を提示している可能性もあります。実際に売り出してみると、結局4,300万円でしか売れなかった――こうした事例は決して珍しくありません。

不動産鑑定は、こうした利害関係から独立した立場で、不動産の「適正な価値」を客観的に判定するものです。

第2章:査定と鑑定、あなたに必要なのはどちら?

ケース1:通常の住み替え売却なら「査定」で十分

結論から申し上げると、マイホームを市場で売却し、住み替えたいだけであれば、不動産会社の査定で十分なケースがほとんどです。

信頼できる不動産会社を2〜3社選び、訪問査定(実際に物件を見て査定する方法)を依頼し、その査定額と根拠を比較検討する。そのうえで媒介契約を締結し、市場に売り出す。これが一般的な住宅売却の流れであり、わざわざ費用をかけて鑑定を取る必要はありません。

ただし、複数社の査定額に大きな開きがある場合は注意が必要です。最も高い査定額に飛びつくのではなく、「なぜこの価格になるのか」という根拠をしっかり確認してください。

ケース2:離婚の財産分与――鑑定が力を発揮する場面

離婚に伴う財産分与では、不動産の評価額をめぐって夫婦間で意見が対立することがあります。不動産を取得する側はできるだけ評価額を低くしたい。取得しない側はできるだけ高く評価してほしい。こうした利害の対立がある場面で、不動産会社の無料査定では十分な説得力を持ちません。

裁判や調停の実務では、双方からそれぞれ査定資料が提出され、裁判所がその平均値や中央値を評価額として認定するケースがあります。しかし、不動産鑑定士による鑑定評価書が提出された場合、その信用性は不動産会社の査定書よりも格段に高く評価されます。

具体例で見てみましょう。 東京23区内にある築15年のマンション(70平米・3LDK)について、夫側の不動産会社は「4,800万円」、妻側は「5,500万円」と査定しました。700万円もの差があり、合意に至りません。こうした場面で、不動産鑑定士が中立的な立場から「5,100万円」と鑑定評価を出せば、これが財産分与の基礎となり得ます。この場合、片方が不動産を取得するなら、もう一方への分与額は約2,550万円が基準値となるわけです。

ケース3:相続・親族間売買――税務リスクを回避する

相続した不動産を遺産分割する場合や、親子間・兄弟間で不動産を売買する場合にも、鑑定の出番があります。

親族間売買において注意すべきは、「みなし贈与」のリスクです。たとえば、時価5,000万円の不動産を親から子へ2,000万円で売却した場合、差額の3,000万円が贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります(相続税法第7条)。このリスクを回避するには、「時価」の根拠を明確にする必要があり、不動産鑑定評価書はその最も有力な根拠となります。

なお、税務に関する具体的な判断は、税理士にご確認ください。

ケース4:固定資産税評価額をそのまま使う危険性

「固定資産税の通知書に書いてある評価額をそのまま使えばいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは大きな落とし穴です。

前述のとおり、固定資産税評価額は公示価格の約70%が目安です。たとえば、市場で5,000万円の価値がある土地の固定資産税評価額は3,500万円程度にとどまります。この価格を財産分与や親族間売買の基準にしてしまうと、一方に著しく不利な結果となるか、税務上の問題が生じかねません。

マンションの場合はさらに乖離が大きくなる傾向があり、実勢価格の50%程度しか固定資産税評価額が付いていないケースもあります。

第3章:不動産鑑定の実際――費用・流れ・活用法

鑑定にかかる費用の目安

不動産鑑定は有料です。物件の種類や評価額によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

物件種別鑑定費用の目安
一戸建て(土地・建物)30万円〜
マンション(1戸)40万円〜
土地のみ30万円〜

「高い」と感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、数千万円の不動産取引において、数十万円の鑑定費用で適正価格の根拠を得られるなら、それは十分に合理的な投資です。

たとえば、離婚の財産分与で700万円の評価額の差があった先ほどの例では、鑑定費用30万円を支払っても、適正な評価に基づく分与額の確定によって、数百万円単位の不利益を避けられる可能性があります。

また、正式な鑑定評価書ほどの証明力は不要だが、一定の根拠が欲しいという場合には、「価格等調査報告書」(簡易鑑定とも呼ばれます)という選択肢もあります。費用は15万円〜(税別)と正式な鑑定評価書のおおむね半額で作成できるため、用途に応じた使い分けが可能です。

鑑定の流れ――依頼から完了まで

不動産鑑定の一般的な流れは以下のとおりです。

ステップ1:相談・見積もり
まず鑑定事務所に連絡し、物件の概要と鑑定の目的を伝えます。この段階で概算費用と所要期間の見積もりを受けます。

ステップ2:正式依頼・資料の準備
登記簿謄本、公図、建物図面、固定資産税の課税明細書など、必要書類を準備します。多くの資料は鑑定士側で取得することも可能です。

ステップ3:現地調査
鑑定士が実際に物件を訪問し、建物の状態、周辺環境、接道状況などを詳細に調査します。

ステップ4:分析・評価
収集した資料と現地調査の結果をもとに、複数の鑑定手法を適用して評価額を算出します。

ステップ5:鑑定評価書の交付
正式な鑑定評価書が交付されます。通常、依頼から交付まで2〜4週間程度を要します。

鑑定が必要になるシーン一覧

最後に、不動産鑑定が必要になる、あるいは鑑定を取得しておくべき典型的なシーンを整理します。

  • 離婚の財産分与:夫婦間で不動産の評価額に合意できない場合
  • 相続の遺産分割:相続人間で不動産の評価をめぐり争いがある場合
  • 親族間売買:適正な時価での取引を証明し、みなし贈与のリスクを回避する場合
  • 法人と役員間の売買:法人税法上の適正な時価を立証する必要がある場合
  • 裁判・調停:不動産の価値が争点となっている場合
  • 金融機関への担保評価:融資に際して不動産の価値を証明する場合

逆に言えば、これらに該当しない通常の売却であれば、不動産会社の査定を活用するのが合理的です。

まとめ

本記事のポイントを改めて整理します。

1. 不動産には複数の「価格」がある。 公示価格、路線価、固定資産税評価額、実勢価格――目的に応じて正しい価格を選ぶことが重要です。

2. 査定と鑑定は目的が異なる。 査定は「いくらで売れそうか」を示す営業ツール。鑑定は「いくらの価値があるか」を証明する専門家の意見書です。

3. 通常の売却なら査定で十分。 市場で売却するだけなら、信頼できる不動産会社の査定を比較検討すれば問題ありません。

4. 利害が対立する場面では鑑定が必要。 離婚の財産分与、相続の遺産分割、親族間売買など、当事者間で評価額に争いが生じうる場面では、鑑定評価書が強力な根拠となります。

ひとことで言えば、「高く売りたいなら鑑定は不要。正しく売りたい・正しく分けたいなら鑑定が必要」――これが私たち鑑定士からのメッセージです。

マイホームの売却を検討されている方、離婚や相続に伴い不動産の適正な価値を知りたい方は、お気軽にご相談ください。当事務所では、お客様の状況を丁寧にヒアリングしたうえで、鑑定が本当に必要なのか、査定で十分なのかも含めて率直にアドバイスいたします。初回のご相談は無料で承っておりますので、まずはお問い合わせいただければ幸いです。

マイホームの本当の価値を知ることが、後悔のない売却の第一歩です。

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