株式会社KRE Appraisal

後継者のいない不動産鑑定会社に、廃業以外の道はあるか?若手比率7%の業界で考える第三者承継(M&A)

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
士業事務所の入口の前で立ち止まるスーツ姿の年配の男性

はじめに

「自分が引退したら、この事務所は閉めるしかない」

長年地域で不動産鑑定業を営んできた先輩鑑定士から、こうした言葉を聞く機会が増えました。子は別の道に進み、勤務鑑定士は独立した。依頼はまだ続いているが、体力的にあと何年続けられるかは分からない。そして「鑑定事務所を買う人などいない」という思い込みが、選択肢を最初から一つに絞ってしまっています。

私たち鑑定士の立場から、まず断言します。不動産鑑定会社には、廃業以外の道があります。継続している顧客、地域の取引事例の蓄積、経験を積んだ職員、そして鑑定業者としての登録そのもの。これらは、廃業すればゼロになりますが、第三者に引き継げば価値として残ります。

この記事では、業界の高齢化を公的データで確認したうえで、廃業と第三者承継(M&A)の違い、鑑定会社の値段の考え方、そして同業の鑑定士が仲介すべき理由を解説し、あわせて当事務所が開設した不動産鑑定会社専門のM&A・事業承継サポートサイト「KRE Appraisal M&A」をご案内します。

第1章:数字で見る、不動産鑑定業界の高齢化

1-1. 登録者8,789人、業者3,398社という現状

国土交通省「不動産の鑑定評価に係る登録状況」によると、令和7年1月1日現在の不動産鑑定士登録者は8,789人、不動産鑑定士補は1,187人、不動産鑑定業者は3,398業者です。鑑定業者の多くは鑑定士1〜2名の小規模事務所であり、代表者個人の力量と人脈で成り立っています。

1-2. 13年で約11%減った、実務の担い手

国土交通省地価調査課がまとめた「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて〜論点整理〜」(令和7年3月24日)には、より踏み込んだ数字が示されています。

鑑定業者に所属して実務を担う鑑定士等は、平成23年の5,057名から令和6年には4,496名へと、約11%減少しました。都道府県知事登録の業者、つまり地域に根ざした小規模事務所に所属する鑑定士等に限ると、減少幅は約13%に広がります。

年齢構成の変化はさらに顕著です。令和5年時点で、鑑定業者所属の鑑定士等のうち40〜60歳代が74%を占め、30歳代以下はわずか7%です。平成15年には25%でしたから、20年で若手の比率は約4分の1に縮みました。「後継者を事務所内で育てる」という従来の承継モデルが、構造的に成り立ちにくくなっているのです。

1-3. 地価公示評価員にも及ぶ高齢化

同じ論点整理によれば、地価公示の鑑定評価員は令和6年に2,264名で、平成29年から約8.6%減少しました。年齢別では50歳代が43.4%と最多です。地価公示(国土交通省が毎年1月1日時点の標準地の正常な価格を公表する制度)は地域の鑑定士が支える公的評価の中核であり、その担い手の高齢化は業界全体の縮図です。

第2章:「廃業」と「第三者承継(M&A)」で何が違うのか

2-1. 手取り、顧客、職員の行き先

廃業とM&A(合併・買収の総称。ここでは会社や事業を第三者に引き継ぐこと全般を指します)の違いは、「何が手元に残り、何が消えるか」に集約されます。

廃業の場合。会社に残った現預金と、備品の処分代金が手元に残ります。一方、長年の顧客との関係、地域の取引事例や評価先例の蓄積、職員の雇用は、すべて消滅します。

第三者承継の場合。会社(または事業)そのものが対価となります。現預金や純資産に加えて、将来の収益力が「のれん(営業権。帳簿に載らない超過収益力の対価)」として評価され、譲渡代金に反映されます。顧客は買い手が引き継ぎ、職員は雇用を継続できます。あなたが積み上げた信用は、消えるのではなく次の担い手に渡ります。

なお、廃業時の清算所得と、株式譲渡・事業譲渡の課税は、方式によって手取りが大きく変わります。具体的な税額については税理士にご確認ください。

2-2. 公的評価の委嘱と「登録」はどうなるか

鑑定業者ならではの論点が、公的評価と業法上の登録です。

不動産の鑑定評価に関する法律第22条は、不動産鑑定業を営もうとする者に国土交通大臣または都道府県知事の登録を義務づけています。株式譲渡(会社の株式を買い手に譲る方式)であれば、法人格は変わらないため、この登録は継続します。一方、事業譲渡(会社は残し、事業だけを譲る方式)や個人事業の承継では、買い手側で新たに登録を受ける必要があります。

また同法第35条は、鑑定業者に対し事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置くことを求めています。引退する代表者が唯一の専任鑑定士である場合、買い手が専任鑑定士を配置できるかどうかが、承継の成否を左右します。

そして見落とされがちなのが、地価公示や地価調査の評価員です。これらは鑑定士個人への委嘱であり、会社を譲渡しても承継されません。「公示の枠があるから高く売れる」という期待は成り立たないことを、正直にお伝えしておきます。

なお廃業を選ぶ場合も、同法第29条により30日以内の届出が必要です。手続の詳細は登録行政庁(国土交通省地方整備局または都道府県)にご確認ください。

2-3. 想定されるケースで比べてみる

以下は実際の案件ではなく、想定されるケースです。

地方都市で30年営業してきた鑑定会社。代表70歳、勤務鑑定士1名、事務職員1名。年間売上3,000万円、役員報酬を差し引いた後の営業利益は400万円、純資産は2,000万円。

廃業すれば、手元に残るのは純資産2,000万円から清算費用と税金を差し引いた金額で、勤務鑑定士と職員は職を失い、継続依頼は他社に流れます。

第三者承継なら、純資産に営業利益の1〜3年分を加えた2,400万〜3,200万円程度が、価格交渉の出発点になります(算定の考え方は第3章)。勤務鑑定士が専任鑑定士として残れば登録の継続に支障はなく、買い手にとっての魅力も高まります。

第3章:不動産鑑定会社の値段はどう考えるか

3-1. 「年買法」という目安

不動産鑑定会社のような小規模事業のM&Aでは、年買法(時価純資産に、営業利益の数年分を「のれん」として加算する簡便な算定方法)が実務上よく用いられます。

企業価値の目安 = 時価純資産 + 営業利益 × 1〜3年

「1〜3年」の幅は、顧客基盤の安定性、代表者への依存度、職員の定着状況などで決まります。これは鑑定評価における「正常価格」のような厳密な概念ではなく、売り手と買い手が交渉を始めるための目安です。鑑定士として、この点は明確に区別しておきます。

3-2. 何が価格を上げ、何が下げるのか

鑑定会社の価格を左右する要素は、私たち鑑定士が不動産の収益性を見る視点とよく似ています。

価格を押し上げる要素は、金融機関や自治体、税理士・弁護士事務所からの継続的な依頼ルート、代表者以外に実務を回せる鑑定士・補助者の存在、地域の取引事例や評価先例の整理されたデータベースです。

逆に価格を下げるのは、売上の大半が代表者個人の人脈に依存している状態、評価員委嘱への過度な依存(前述のとおり承継されません)、過去の鑑定評価書に関する未解決のクレームや訴訟リスクです。

3-3. まず自社の目安を知る

「うちの会社に値段がつくのか」を確かめる第一歩として、専門サイトには企業価値シミュレーターを用意しました。純資産と営業利益などを入力すると、年買法に基づく目安のレンジが表示されます。あくまで初期的な目安ですが、廃業か承継かを考える出発点として活用いただけます。

第4章:鑑定会社のM&Aは、なぜ同業の鑑定士が仲介すべきなのか

4-1. 「中身」を読めるのは鑑定士だけ

一般のM&A仲介会社が鑑定会社を扱う場合、財務諸表は読めても、その会社の本当の資産である評価実務の質は読めません。過去の鑑定評価書を見て、収益還元法の適用や取引事例の選択が妥当か、受任範囲が適切に管理されているかを判断できるのは、同じ資格を持つ鑑定士です。これは買い手のリスク把握と、売り手が正当な評価を受けることに直結します。

4-2. 小規模案件を、業法を理解したうえで、守秘を守って

鑑定会社のM&Aは、譲渡価格が数千万円規模のものが中心です。大手仲介会社の多くは最低手数料が数百万〜1,000万円以上に設定されており、小規模案件は事実上、扉が閉ざされています。当事務所の手数料は完全成功報酬制、最低報酬150万円としています。詳細は手数料のご案内をご覧ください。

さらに、登録や専任鑑定士、評価員委嘱といった業法上の論点を前提として理解していること。狭い業界だからこそ「あの事務所が売りに出ている」という情報が漏れないよう、守秘の重みを理解していること。この2点も、同業の鑑定士が仲介する意味です。

4-3. 専門サイト「不動産鑑定会社のM&A・事業承継サポート」を開設しました

以上の考えから、当事務所は不動産鑑定会社に特化したM&A・事業承継サポートサイト「KRE Appraisal M&A」を開設しました。主な内容は次のとおりです。

  • 会社を売却したい方へ:引退・後継者不在を理由とする譲渡の流れ、準備すべき資料、譲渡方式の選び方
  • 会社を買収したい方へ:独立を考える鑑定士や、拠点拡大を目指す鑑定会社向けの、買収による事業展開の考え方
  • 事業承継:親族・従業員・第三者の各承継方式の比較と、鑑定業ならではの注意点
  • 企業価値シミュレーター:年買法に基づく目安の算定
  • 手数料:完全成功報酬制・最低報酬150万円
  • コラム25本:登録の承継、専任鑑定士の要件、評価員委嘱の扱い、のれんの考え方など、鑑定業のM&A固有の論点

当事務所は2025年9月創業の若い鑑定事務所であり、M&A仲介の実績を誇れる段階ではありません。それでも同じ鑑定士として、担い手が減り続ける現状を他人事にはできないと考え、このサービスを立ち上げました。

まとめ

不動産鑑定会社の承継は、廃業か否かの二択ではありません。業界の構造変化を数字で確認したうえで、第三者承継という選択肢を具体的に検討する時期に入っています。

要点を振り返ります。

  • 30歳代以下が7%、実務の担い手は13年で約11%減。事務所内で後継者を育てるモデルは構造的に難しくなっています(出典:国土交通省 地価調査課 論点整理、令和7年3月)
  • 廃業では顧客・職員・信用がすべて消えますが、第三者承継ならそれらが対価となって残ります
  • 株式譲渡なら鑑定業者の登録は継続し、事業譲渡や個人事業では買い手側で新規登録が必要です。評価員委嘱は個人へのものであり承継されません
  • 鑑定会社の値段は「時価純資産+営業利益の1〜3年分」が交渉の目安になります
  • 評価実務の中身を読め、小規模案件を扱い、業法と守秘を理解している同業の鑑定士が仲介することに意味があります

引退を考え始めた鑑定会社の代表者様、後継者の不在に悩む経営者様、そして独立や拠点拡大を考える鑑定士の皆様。「うちには値段がつかない」と決めてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。

▶ 不動産鑑定会社のM&A・事業承継サポート:https://ma.kre-appraisal.com/

(本記事の税務・法務に関する記載は一般的な説明であり、個別の判断は税理士・弁護士にご確認ください。)

電話で相談無料相談フォーム