外国人でも日本の不動産は自由に買える?法規制・税務リスクと鑑定評価の活用法

はじめに
「外国人が日本の不動産を購入する際、何か制限はあるのか」「海外居住の売主から物件を購入するとき、源泉徴収はどうなるのか」――近年、外国人投資家による日本不動産への関心が高まる中、こうしたお問い合わせが増えています。
日本は、外国人による不動産取得に対して原則として法的制限を設けていない、世界的にも珍しい先進国です。国土交通省の調査によれば、外国資本による森林取得の届出面積は2023年に約2,376ヘクタールに達し、過去10年間で増加傾向にあります。都市部のマンション・商業ビルへの投資も活発であり、円安の進行がこの流れを加速させています。
しかし、制限が少ないからこそ、取引の透明性と適正価格の把握が一層重要になります。非居住者特有の税務処理、2022年に施行された重要土地等調査法による届出義務、さらに2026年以降に予定される規制強化など、関係者が把握すべき論点は多岐にわたります。
この記事では、外国人の日本不動産取得に関する法的枠組みと税務上の注意点を整理したうえで、不動産鑑定評価がどのような場面で活用できるかを解説します。外国人投資家の方はもちろん、国際税務に携わる税理士の方、クロスボーダー取引を扱う仲介会社の方にもお役立ていただける内容です。
第1章:外国人の日本不動産取得の現状と法的枠組み
1-1. 日本は原則制限なしの数少ない先進国
日本では、外国人(個人・法人を問わず)が日本国内の不動産を自由に取得できます。居住資格の有無や国籍による取得制限は、原則として存在しません。これは国際的に見ても極めて開放的な制度です。
比較のために主要国の規制状況を整理します。
| 国 | 外国人の不動産取得制限 |
|---|---|
| 日本 | 原則制限なし |
| オーストラリア | 外国投資審査委員会(FIRB)の事前承認が必要。新築物件のみ取得可能 |
| シンガポール | 土地付き住宅の取得に政府許可が必要 |
| タイ | 外国人の土地所有は原則不可。コンドミニアムは外国人割合49%まで |
| 中国 | 外国人は居住用1戸のみ取得可能。就学・就労ビザが条件 |
| 韓国 | 取得可能だが、事後届出と外国人土地法に基づく規制あり |
このように、日本は先進国の中でも取得障壁が低く、外国人投資家にとってアクセスしやすい市場といえます。ただし、「制限がない」ことと「手続きが不要」であることは異なります。次項以降で述べる届出義務や規制強化の動きを正確に把握しておく必要があります。
1-2. 重要土地等調査法(2022年施行)による届出義務
2022年9月に全面施行された「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(重要土地等調査法)は、安全保障の観点から特定の区域内の土地取引を規制する法律です。
この法律により、自衛隊基地・海上保安庁施設・原子力発電所などの重要施設の周囲おおむね1キロメートルを「注視区域」、特に重要な区域を「特別注視区域」に指定しています。内閣府の公表資料によれば、2024年12月時点で注視区域は約394か所、特別注視区域は約183か所が指定されています。
特別注視区域内の土地・建物について、一定面積(市街化区域で200平方メートル)以上の売買契約を締結する場合、買主は契約締結前に内閣総理大臣へ届出を行う義務があります(届出義務違反には6か月以下の懲役または100万円以下の罰金)。この届出義務は国籍を問わず適用されますが、外国資本による取得に対する国の関心が立法の背景にあることは明らかです。
外国人投資家が日本の不動産を検討する際は、対象物件が注視区域・特別注視区域に含まれていないかを事前に確認することが不可欠です。
1-3. 2026年の規制強化動向
外国人の不動産取得に関する制度は、さらなる強化が進んでいます。
2024年4月に施行された改正不動産登記法では、相続登記の義務化に加え、所有権の登記名義人が国内に住所を持たない場合、国内連絡先となる者(国内連絡先事項)の登記が求められるようになりました。これにより、海外居住の所有者への連絡手段を確保し、「所有者不明土地」問題の解消を図っています。
さらに政府は、不動産登記の際に外国人の国籍情報の提供を義務化する方向で検討を進めています。国土審議会土地政策分科会の議論では、外国人・外国法人による土地取得の実態を正確に把握するための仕組みづくりが課題として挙げられています。
加えて、重要土地等調査法に基づく注視区域・特別注視区域の指定は段階的に拡大されており、今後も対象区域が追加される見込みです。外国人投資家および関係する専門家は、最新の指定状況を継続的にモニタリングする必要があります。
第2章:外国人の不動産取得で注意すべき税務・法務
2-1. 非居住者の譲渡所得課税と源泉徴収義務
外国人が日本の不動産を売却した場合の課税は、その者が「居住者」か「非居住者」かによって大きく異なります。所得税法上、日本国内に住所を有するか、または1年以上居所を有する個人は「居住者」、それ以外は「非居住者」として扱われます。
非居住者が日本国内の不動産を譲渡して得た所得は、「国内源泉所得」として日本で課税されます(所得税法第161条第1項第5号)。ここで注意が必要なのは、非居住者への対価支払い時に、買主側に源泉徴収義務が生じる場合があるという点です。
具体的には、非居住者から不動産を取得する際、買主(個人・法人を問わず)は、支払対価の10.21%を源泉徴収し、翌月10日までに税務署へ納付する義務があります(所得税法第212条、第213条)。ただし、買主が個人であり、自己またはその親族の居住用として取得する場合で、対価が1億円以下のときは源泉徴収が不要です。
この源泉徴収義務は取引実務に大きな影響を与えます。仲介会社は買主に源泉徴収の必要性を事前に説明し、決済時の資金計画に組み込む必要があります。
| 区分 | 源泉徴収の要否 | 税率 |
|---|---|---|
| 法人が非居住者から取得 | 必要 | 10.21% |
| 個人が事業用として取得 | 必要 | 10.21% |
| 個人が居住用として取得(1億円超) | 必要 | 10.21% |
| 個人が居住用として取得(1億円以下) | 不要 | ― |
2-2. 不動産取得税・固定資産税と外国人特有の留意点
不動産取得税と固定資産税は、所有者の国籍に関わらず同一の基準で課税されます。外国人であるという理由で税率が変わることはありません。
不動産取得税は、土地・建物を取得した時に都道府県が課す地方税です。標準税率は原則4%ですが、住宅用の土地・建物については2027年3月31日まで軽減税率3%が適用されます(地方税法第73条の15等)。固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に対して市区町村が課す税で、標準税率は1.4%です。
外国人投資家にとって注意すべきは、納税管理人の届出です。日本国内に住所を持たない外国人が日本の不動産を所有する場合、地方税法第300条に基づき、固定資産税の賦課徴収に関して「納税管理人」を定め、市区町村に届け出なければなりません。納税管理人は、納税通知書の受領や税金の納付を本人に代わって行う者です。
この届出を怠ると、納税通知が届かず延滞金が発生するリスクがあります。取得時点で司法書士や税理士と連携し、納税管理人の選任手続きを確実に行うことが重要です。
2-3. 本国への報告義務と二重課税防止
外国人投資家は、日本での不動産取得・保有・譲渡について、本国での申告義務も負う場合があります。
例えば、米国市民・永住権保持者は全世界所得に対して米国で課税されるため、日本で得た不動産所得(賃料収入・譲渡益)も米国のIRS(内国歳入庁)に申告する義務があります。同様に、多くの国が居住者に対して全世界所得課税を採用しており、日本での不動産取引が本国での申告対象となります。
二重課税を防止するために、日本は80か国以上と租税条約を締結しています(財務省公表、2024年時点)。租税条約の一般的な規定では、不動産の譲渡所得はその不動産の所在地国(日本)が第一次的に課税権を有し、居住地国は外国税額控除等により二重課税を排除する仕組みとなっています。
ただし、租税条約の具体的な規定は相手国によって異なり、また条約が存在しない国との取引では二重課税のリスクが高まります。国際税務に精通した税理士との連携は不可欠であり、取引の計画段階から税務構造を検討することが求められます。
第3章:不動産鑑定評価が必要な場面と活用法
3-1. デューデリジェンス(経済DD)としての鑑定評価
外国人投資家が日本の不動産を取得する際、物件の適正な市場価値を把握するためにデューデリジェンス(投資対象の資産に対する詳細な調査・分析)が行われます。デューデリジェンスには法務DD・建物DD(エンジニアリングレポート)・環境DDなどが含まれますが、経済DD(不動産鑑定評価)は投資判断の核となる手続きです。
クロスボーダー取引の鑑定評価では、以下の点が特に重視されます。
- 市場賃料と契約賃料の乖離分析:テナント構成が外資系企業中心の物件では、賃料改定条項やブレークオプション(中途解約権)の分析が重要になります
- 為替変動リスクの考慮:投資家が外貨建てで投資判断を行う場合、円建てのキャッシュフロー予測に加えて為替前提の開示が求められることがあります
- 日本固有の商慣習の説明:敷金・保証金の償却慣行、礼金、更新料など、海外にはない取引慣行について鑑定評価書上で補足説明することが有用です
私たち鑑定士は、数値の算定にとどまらず、日本の不動産市場特有の制度・慣行を海外投資家に対してわかりやすく伝える役割も担っています。
3-2. クロスボーダー取引における適正価格の立証
外国人投資家と日本法人(または日本の個人)との間の不動産取引では、取引価格の公正性が税務当局から厳しく注視されます。
特に、関連者間取引(例:海外親会社と日本子会社の間での不動産売買)では、移転価格税制(租税特別措置法第66条の4)の適用可能性があります。移転価格税制は、関連者間の取引価格が独立企業間価格(第三者間で成立するであろう価格)と異なる場合に、課税所得を調整する制度です。不動産の売買価格が独立企業間価格から乖離していると認定されれば、追徴課税の対象となります。
不動産鑑定評価書は、取引価格が独立企業間価格と整合的であることを立証するための客観的な根拠資料として機能します。鑑定評価基準に基づき、収益還元法・取引事例比較法・原価法の3手法を適用して算出された鑑定評価額は、税務申告における価格の合理性を裏付ける有力な証拠となります。
また、非関連者間の取引であっても、売買価格が時価と著しく乖離する場合には「低額譲渡」「高額譲受」として課税上の問題が生じ得ます(法人税法第37条、所得税法第59条等)。鑑定評価書を取得しておくことで、取引価格の妥当性を事前に確認し、税務リスクを軽減できます。
3-3. 本国への報告・税務申告用の時価証明
外国人投資家は、本国の税務当局や金融規制当局に対して、保有する日本不動産の時価を報告する必要が生じることがあります。
代表的な場面は以下のとおりです。
- 本国での確定申告:不動産所得や譲渡所得を本国で申告する際、取得原価や売却時の時価の根拠資料として鑑定評価書が求められることがあります
- 相続・贈与税の申告:日本の不動産を保有する外国人が死亡した場合、日本での相続税申告に加え、本国でも遺産税(Estate Tax)の申告が必要になる場合があります。このとき、日本の不動産の時価を本国の課税当局が受け入れ可能な形式で証明する必要があります
- 外国為替規制への対応:一部の国では、海外不動産の取得・保有・売却について中央銀行や外為管理当局への報告義務があり、時価情報の提出が求められます
日本の不動産鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準という国の定める統一基準に基づいて作成されるため、国際的にも信頼性の高い価格証明として活用できます。必要に応じて英文の鑑定評価書(または英文要約)を作成することも可能です。当事務所では、英文での対応についてもご相談を承っております。
まとめ
日本は外国人の不動産取得に原則として制限を設けていない一方で、非居住者特有の税務処理、重要土地等調査法に基づく届出義務、そして適正価格の立証という複合的な課題が取引の随所に潜んでいます。法律・税務・鑑定評価の各分野を包括的に把握したうえで取引に臨むことが、成功する国際不動産取引の第一歩です。
要点を振り返ります。
- 日本は外国人の不動産取得に原則制限がない先進国だが、重要土地等調査法による届出義務や規制強化の動きには注意が必要
- 非居住者からの不動産取得時には源泉徴収義務(10.21%)が生じる場合があるため、決済時の資金計画に事前に組み込むことが不可欠
- 納税管理人の届出や租税条約の適用確認など、国内取引にはない手続きが必要であり、国際税務に精通した専門家との連携が重要
- クロスボーダー取引・関連者間取引では、鑑定評価書が適正価格の立証資料として税務リスクの軽減に直結する
- 本国への報告・相続税申告・外為規制対応など、鑑定評価書の活用場面は多岐にわたるため、取引の計画段階から鑑定士への相談を推奨する
外国人の日本不動産取得は、法的には開放的であるがゆえに、適正価格の把握と税務処理の正確性が取引の成否を左右します。取引開始前の段階から専門家チーム(鑑定士・税理士・司法書士・弁護士)を組成し、包括的にリスクを管理することが、成功する国際不動産取引の鍵です。
クロスボーダー取引をご検討中の外国人投資家の方、または取引をサポートする国際税理士・仲介会社の方は、取引の計画段階からぜひご相談ください。初回の無料相談も承っております。
外国人投資家による日本不動産の取得をご検討中の方、またクロスボーダー取引の適正価格把握についてお悩みの国際税理士・仲介会社の方は、ぜひ一度ご相談ください。取引の計画段階から、適正価格の算定と税務リスクの検証をサポートいたします。初回の無料相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
