株式会社KRE Appraisal

新築マンションはなぜ1億円を超えたのか?用地費・建築費・利益率に分解して不動産鑑定士が検証

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
曇り空の下、足場とタワークレーンに囲まれた建設中のマンションと、手前に積まれた鉄筋・型枠材

はじめに

「デベロッパーが儲けすぎているのではないか」――新築マンションの価格が話題になるたび、こうした声を耳にします。

不動産経済研究所の調査によれば、2026年上半期(1〜6月)の首都圏における新築分譲マンションの平均価格は1億135万円となり、前年同期比13.1%の上昇で、はじめて1億円台に乗りました。東京23区に限れば平均1億4,249万円です。一方で同期の発売戸数は7,989戸と前年同期比0.8%の減少にとどまり、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の年間発売戸数2万1,659戸は1973年度の調査開始以降で最少を記録しています。

年収の10倍を超える価格を前に、「何かおかしい」と感じるのは当然の感覚でしょう。しかし、その「おかしさ」の正体を、価格を構成する要素に分解して確かめた議論は多くありません。

分譲マンションの価格は、用地費・建築費・販売経費・事業者利益の積み上げで決まります。であれば、どの要素がどれだけ増えたのかを見れば、値上がりの主因がわかるはずです。

この記事では、私たち鑑定士が開発法で用いる原価の分解構造を使って、新築マンション価格の内訳を検証します。なお、本記事は市場構造の分析であり、特定の不動産の購入や投資を推奨するものではありません。

第1章:分譲価格はどう組み立てられるか

1-1. 開発法という考え方

不動産鑑定評価では、マンション用地の価格を求める際に開発法という手法を用います。

考え方は単純です。完成した分譲マンションの総売上(分譲総収入)から、建築費・販売経費・事業者利益といったコストを順に差し引いていけば、その用地にいくらまで出せるかがわかる、という逆算の発想です。デベロッパーが用地を仕入れるときの思考を、そのまま計算式にしたものと言えます。

この逆算を、反対向きに読み替えてみましょう。すると、分譲価格は次の要素の積み上げとして理解できます。

分譲価格 = 用地費 + 建築費 + 販売経費 + 金利・その他諸経費 + 事業者利益

1-2. 都心分譲マンションの内訳の目安

事業者や立地によって差は大きいものの、都心の分譲マンションにおける構成比は、おおむね次のような水準が目安とされます。

費目構成比の目安内容
用地費25〜35%土地の取得費、仲介手数料、不動産取得税等
建築費40〜50%本体工事、外構、設計監理料
販売経費8〜12%広告宣伝費、モデルルーム、販売委託手数料
金利・その他2〜3%プロジェクトファイナンスの金利、各種諸経費
事業者利益10〜15%事業リスクに対する報酬

ここで押さえておきたいのは、用地費と建築費の合計が全体の7割前後を占めるという構造です。この2つが動けば、分譲価格は必然的に動きます。

1-3. 「利益率を下げれば安くなる」は成り立つか

仮に事業者利益をゼロにできたとしましょう。1億円の住戸であれば、利益12%として1,200万円。それでも価格は8,800万円にしかなりません。

分譲事業は、用地取得から引渡しまで数年を要し、その間の市況変動リスクを事業者が負います。完成後に売れ残れば在庫を抱えます。このリスクに対する報酬をゼロにすれば、そもそも事業を行う者がいなくなります。

値上がりの主因を利益率に求めるのは、算術的に無理があるということです。では、何が動いたのでしょうか。

第2章:10年でどこが増えたのかを分解する

2-1. 試算モデルの設定

ここで、具体的なモデルを設定して検証します。都心近郊の分譲マンション、専有面積70㎡の住戸を想定します。

【2015年時点の想定】分譲価格6,500万円

費目金額構成比
用地費1,950万円30%
建築費3,000万円46%
販売経費650万円10%
事業者利益・その他900万円14%

この10年あまりに何が起きたか。まず建築費です。建設物価調査会の建築費指数(2015年を100とする集合住宅・鉄筋コンクリート造)は、2026年2月時点で143.2。資材価格の高騰と労務費の上昇により、4割を超える上昇となっています。当事務所の過去記事「なぜ中古不動産の価値は急騰しているのか?建設費4割上昇が生む構造変化を解説」でも、この4割前後の上昇を軸に市場構造の変化を分析しました。

用地費については、東京23区の地価が継続的に上昇しています。公示地価(全用途平均)で見ると、2015年から2026年までの11年間で累積約7割の上昇です。2026年地価公示における都道府県別変動率でも、東京都が8.43%と全国最高を記録しました。

2-2. 建築費+43%、用地費+70%で計算すると

これらを前提に、現時点の内訳を試算します。

【現時点の試算】

費目金額2015年比
用地費3,315万円+1,365万円(+70%)
建築費4,290万円+1,290万円(+43%)
原価小計7,605万円+2,655万円

販売経費10%・事業者利益等14%という構成比を2015年から一切変えずに逆算すると、分譲価格は次のようになります。

7,605万円 ÷ (1 - 0.24) = 約1億円

冒頭に挙げた2026年上半期の首都圏平均価格1億135万円と、ほぼ一致します。

なお、このモデルは用地費の上昇率に東京23区の地価推移を用いているため、首都圏平均との比較はあくまで概括的な整合性の確認です。首都圏平均を押し上げているのが23区や神奈川県の高額物件である以上、水準感の検証としては意味を持ちますが、両者を厳密に同一のものとして扱っているわけではありません。

2-3. この試算が示すこと

結果を読み解きましょう。

6,500万円から約1億円への3,500万円の上昇のうち、用地費の増加が1,365万円、建築費の増加が1,290万円。この2つで2,655万円、上昇分の約76%を説明できます。残りは、原価に比例して増える販売経費と事業者利益です。

つまり、利益率を一切引き上げていなくても、原価が上がれば価格はこれだけ上がるということです。「デベロッパーが利益を厚く取るようになった」という説明では、この価格上昇の大半を説明できません。

もちろん、これは一つの試算モデルであり、実際の内訳は事業者・物件ごとに大きく異なります。上昇率の前提を変えれば結果も変わります。それでも、価格上昇の主因が原価にあるという構造そのものは、前提を多少動かしても崩れません。

第3章:この構造は今後どう動くか

3-1. 建築費は下がりにくい

建築費の上昇要因は、資材価格だけではありません。

2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。労働時間を短縮しながら同じ工期を維持するには人員を増やす必要があり、これは工事費に転嫁されます。技能労働者の高齢化と担い手不足という構造問題も、短期間で解消するものではありません。

資材価格は為替や国際市況によって上下しますが、労務費は下方硬直的です。一度上がった賃金水準が下がることは、通常は起こりません。この点を踏まえると、建築費が2015年水準に戻るシナリオは考えにくいと言えます。

3-2. 用地費は金利の影響を受ける

一方、用地費はより市況に敏感です。

デベロッパーは借入によって用地を取得します。金利が上昇すれば資金調達コストが増え、用地に出せる金額は圧縮されます。開発法の計算式において、投下資本収益率が上がれば素地価格が下がるという関係です。

金利と不動産価格の関係については、過去記事「金利上昇は不動産価格を暴落させるのか?購入希望者が知るべき『金利と価格』の深い関係」で詳しく分析しています。

また、都心のマンション用地には海外投資家や外資系デベロッパーも参入しており、需給の逼迫が価格を押し上げている面があります。この点は過去記事「なぜ世界のマネーは日本の不動産に向かうのか?海外投資家の視点と国内市場への影響を不動産鑑定士が解説」もご参照ください。

3-3. 「原価が支える価格」と「需要が支える価格」を分けて考える

ここまでの分析から言えるのは、現在の新築マンション価格は、その相当部分が原価によって支えられているということです。

この点は、価格の持続可能性を考えるうえで重要です。需要の過熱だけで押し上げられた価格は、需要が引けば下がります。しかし原価が支えている部分は、原価が下がらない限り下がりません。建築費が下方硬直的であるならば、新築価格が大幅に下落するには、事業者利益の圧縮か、用地費の下落が必要になります。

供給側の動きも、この見方を裏づけます。2025年度の首都圏の発売戸数は調査開始以来の最少水準まで落ち込みました。原価が上がっても売れる価格に乗せられない案件は、そもそも着工されないということです。供給が絞られる以上、価格が原価を下回る水準まで押し戻される力は働きにくくなります。

もっとも、これは新築価格の話です。中古市場は新築とは別の需給で動きますし、立地による二極化も進んでいます。「マンション価格は今後どうなるのか」という問いへの見方は、過去記事「2026年、マンション価格は本当に暴落するのか?噂の『マンションバブル崩壊説』を専門家が徹底分析」で整理しています。

購入をご検討中の方には、提示された価格が原価構造から見て合理的な水準にあるのかを、一度確かめてみることをおすすめします。

まとめ

新築マンションの価格上昇は、事業者の利益拡大ではなく、用地費と建築費という原価の上昇によって、その大半が説明できます。

要点を振り返ります。

  • 不動産経済研究所によれば、2026年上半期の首都圏新築分譲マンション平均価格は1億135万円ではじめて1億円台に乗り、東京23区は平均1億4,249万円に達した
  • 分譲価格は用地費・建築費・販売経費・金利等・事業者利益の積み上げで構成され、用地費と建築費の合計が全体の7割前後を占める
  • 2015年に6,500万円だった住戸について、建築費+43%・用地費+70%を前提に構成比を変えずに試算すると約1億円となり、実際の平均価格とほぼ一致する
  • 上昇分約3,500万円のうち約76%が用地費と建築費の増加で説明され、利益率を引き上げなくても原価上昇だけでこの水準に達する
  • 建築費は労務費の下方硬直性により下がりにくく、用地費は金利上昇局面では圧縮される方向に働く

マンションの購入をご検討中で、提示された価格が妥当な水準なのか判断に迷っておられる方、また投資用不動産の取得価格を検証したい投資家の方へ。

マイホームや投資用不動産の本当の価値を知りたい方は、お気軽にご相談ください。初回の無料相談も承っております。

関連する記事

電話で相談無料相談フォーム