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なぜ中古不動産の価値は急騰しているのか?建設費4割上昇が生む構造変化を解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
建設費高騰時代における中古不動産の資産価値変化 - 日本の商店街に建つ建設足場のゴールデンアワー

はじめに

「新築マンションの価格が高すぎて手が出ない」「建替えを検討していたが、見積もりが想定の1.5倍になった」。ここ数年、不動産に関わるあらゆる場面で、建設費の急騰を実感されている方が増えています。

この感覚は正しいものです。国土交通省が公表する建設工事費デフレーターによれば、2019年度から2024年度にかけて建設コストは約4割上昇しました。鉄骨造の事務所ビルでは上昇率が5割に迫るケースもあります。これは、バブル期以来の異常な上昇ペースです。

一方で、この建設費高騰が「中古不動産の資産価値」にどう影響するかを正確に理解している方は、まだ多くありません。新築の供給コストが上がれば、既存建物の相対的な価値は上がるのか。上がるとすれば、その価値はどう測定すればよいのか。

この記事では、私たち鑑定士の視点から、建設費高騰の実態を整理し、中古不動産の資産価値への影響と、鑑定評価が果たす役割を解説します。不動産を保有する方、投資を検討している方にとって、今後の判断材料になれば幸いです。

第1章:建設費高騰の実態

1-1. 建設工事費デフレーターの推移 ― 2019年から2024年で約4割上昇

建設コストの変動を客観的に示す指標として、国土交通省が毎月公表する「建設工事費デフレーター」があります。

この指標の推移を見ると、2019年度を100とした場合、2024年度の数値は以下のとおりです。

  • 住宅総合:約137(約37%上昇)
  • 非住宅総合(事務所・店舗等):約142(約42%上昇)
  • 鉄骨造(事務所):約147(約47%上昇)

わずか5年間で建設コストが4割前後も上昇したことになります。特に注目すべきは、この上昇が2022年以降に加速している点です。2019年から2021年までの上昇率は年率2〜3%程度でしたが、2022年以降は年率7〜10%に跳ね上がりました。

国土交通省「建設工事費デフレーター」は2015年度基準で算出されており、資材費・労務費の両方を反映した総合指標です。個別の工事では、立地条件や工法、発注時期によって上昇率がさらに大きくなるケースもあります。

1-2. 資材費・人件費・2024年問題の三重苦

建設費高騰の要因は、大きく3つに分解できます。

資材費の高騰

鉄鋼価格は、2020年のコロナ禍による一時的な下落を経て、2021年後半から急騰しました。日本鉄鋼連盟の統計によれば、H形鋼の価格は2019年比で約60%上昇しています。セメント、生コンクリートも同様に15〜25%の上昇を記録しました。木材については、2021年のウッドショック時に価格が2倍以上に跳ね上がり、その後落ち着いたものの、2019年比では依然として20〜30%高い水準にあります。

人件費の上昇

国土交通省が毎年改定する公共工事設計労務単価は、2024年度に全国全職種平均で前年比5.9%増となり、12年連続の引き上げとなりました。2013年度の水準と比較すると、約64%の上昇です。熟練工の不足は深刻で、特に型枠工や鉄筋工などの専門職種では人手不足が常態化しています。

2024年問題の影響

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、一人あたりの労働時間が制限されるため、工期の長期化や追加人員の確保が必要になります。日本建設業連合会は、2024年問題によって建設業の生産性が5〜10%低下し、コスト上昇要因になると試算しています。

資材費・人件費・労働時間規制、この三重苦が同時に建設業界を直撃しているのが現在の状況です。

1-3. 新築マンション・戸建ての価格上昇と供給減少

建設費高騰は、新築住宅市場に明確な影響を与えています。

不動産経済研究所『首都圏マンション市場動向』によれば、首都圏の新築マンション平均価格は以下のとおり推移しています。

  • 2019年:5,980万円
  • 2022年:6,288万円
  • 2024年:8,198万円

5年間で約37%の上昇です。23区に限れば2024年の平均価格は1億1,062万円に達し、「億ション」が平均値になりました。

同時に、供給戸数は減少傾向にあります。首都圏の新築マンション供給戸数は2019年の約3.1万戸から2024年には約2.7万戸に減少しました。デベロッパーは建設コストの上昇を販売価格に転嫁しきれない物件の着工を見送る傾向にあり、「高くても売れる立地」に供給が集中しています。

戸建て住宅も同様です。住宅金融支援機構のフラット35利用者調査によれば、注文住宅の建設費は2019年の3,454万円から2023年には3,861万円に上昇しました。これに土地代を加えると、都市部での一次取得は一層困難になっています。

新築が「高嶺の花」になりつつある中で、市場の目は必然的に中古不動産に向かっています。

第2章:建設費高騰が不動産評価に与える影響

2-1. 中古物件の相対的な価値上昇 ― 新築との価格差縮小

建設費が高騰すると、新築物件と中古物件の価格差は縮小します。この現象は「再調達コストの上昇による中古物件の相対的価値上昇」と呼ばれ、不動産市場では古くから認識されているメカニズムです。

具体例で考えてみましょう。

2019年時点

  • 新築マンション(70m²):6,000万円
  • 築15年の同等マンション:4,200万円(新築比70%、差額1,800万円)

2024年時点

  • 新築マンション(70m²):8,200万円
  • 築15年の同等マンション:6,300万円(新築比77%、差額1,900万円)

この例では、中古マンションの価格は2019年から2024年にかけて約50%(2,100万円)上昇しています。新築価格の上昇率(約37%)を上回る上昇率です。

なぜこうなるのでしょうか。理由は明快です。新築の供給コスト(=建設費+土地代+デベロッパー利益)が上がると、新築を購入できない層が中古市場に流入します。中古の需要が増えれば価格は上がります。加えて、「同じ建物を今建てたらいくらかかるか」という再調達原価(現在同等の建物を改めて建築した場合に要する費用)の視点でも、中古物件の評価額は押し上げられます。

この傾向は、特に建物比率が高い物件(マンション、事業用ビル)で顕著に表れます。

2-2. 原価法における再調達原価の上昇と評価額への影響

不動産鑑定評価基準では、建物の評価手法の一つとして「原価法」を定めています。原価法は、対象不動産を仮に新たに建築した場合のコスト(再調達原価)を算出し、そこから経年による減価(減価修正)を差し引いて価格を求める手法です。

原価法の基本式

積算価格 = 再調達原価 − 減価修正額

建設費が上昇すれば、再調達原価は当然に上がります。一方、減価修正の計算では「観察減価法」や「耐用年数に基づく方法」を用いますが、建物の物理的状態が変わらなければ減価修正の「率」は大きく変わりません。

つまり、分母(再調達原価)が大きくなる一方で減価率が一定であれば、積算価格は上昇します。

シミュレーション:築20年・RC造マンション(延床面積500m²)

項目2019年評価2024年評価
再調達原価(単価 × 面積)30万円/m² × 500m² = 1.5億円42万円/m² × 500m² = 2.1億円
減価修正率35%(築20年/耐用年数47年等を勘案)35%
減価修正額5,250万円7,350万円
積算価格(建物)9,750万円1億3,650万円

建物の状態が同じでも、再調達原価の上昇により積算価格は約40%上昇する計算です。

この「原価法による評価額の上昇」は、帳簿価額との乖離拡大や、担保評価の見直し、固定資産の時価評価など、さまざまな場面で実務上の影響を生じさせます。

2-3. 投資判断への影響 ― 新築vs中古の損益分岐点が変化

不動産投資の観点では、建設費高騰は「新築開発」と「中古取得」の損益分岐点を大きく変えます。

新築開発の利回り低下

建設費が上昇しても、賃料はそれに比例しては上がりません。総務省「消費者物価指数」の家賃指数を見ると、2019年から2024年にかけての家賃上昇率は約5〜8%にとどまっています。建設費が4割上がっても賃料が1割も上がらないのですから、新築開発の投資利回りは構造的に低下します。

仮に、2019年時点で表面利回り6.0%だった新築賃貸マンション開発を、2024年に同じ条件で行った場合、建設費40%上昇・賃料5%上昇とすると、表面利回りは約4.5%に低下します。

中古物件の相対的な投資妙味

一方、中古物件は「既に建っている」ため、建設費高騰の直接的な影響を受けません。取得価格が市場連動で上昇したとしても、新築開発ほどの利回り低下にはなりにくい構造です。

投資家にとっての実務的な示唆は以下のとおりです。

  • 中古物件の取得→リノベーションという投資手法の相対的な優位性が高まっている
  • ただし、リノベーション費用自体も建設費高騰の影響を受けるため、工事費の精査が不可欠
  • 中古取得の際には、将来の修繕費・建替え費用を現在の建設コスト水準で見積もる必要がある

建設費高騰は、不動産投資の意思決定において「中古」への注目を高めると同時に、より精緻なコスト分析を求めるようになっています。

第3章:建設費高騰時代に鑑定評価が果たす役割

3-1. 原価法の再調達原価を最新の建設コストで算定する意義

不動産鑑定評価において、原価法は建物評価の基礎となる手法です。しかし、建設費が年率7〜10%で変動する現在の環境では、「いつ時点の建設コストを採用するか」が評価額に大きな影響を与えます。

私たち鑑定士は、再調達原価の算定にあたって、以下の情報を総合的に勘案します。

  • 国土交通省「建設工事費デフレーター」の最新値
  • 一般財団法人建設物価調査会「建設物価」「建築コスト情報」の最新データ
  • 対象建物と同種・同等の建物の実際の建設事例(施工単価)
  • 地域別・構造別・用途別の補正

重要なのは、市販の建設コスト情報はあくまで統計的な平均値であり、個別の建物に適用する際には、規模・仕様・立地条件に応じた補正が必要だということです。鑑定評価では、これらの補正を適切に行ったうえで、価格時点における再調達原価を算定します。

建設費が安定していた時代には、数年前のデータを用いても大きな誤差は生じませんでした。しかし、年率10%近い変動がある現在は、価格時点を厳密に反映した再調達原価の算定が、評価の信頼性を左右します。

3-2. 「建替え vs 大規模修繕」判断における鑑定評価の活用

築古建物の所有者にとって、建設費高騰は「建替え」と「大規模修繕」の判断を一層難しくしています。

建替え費用が5年前の1.4倍になったとすれば、修繕で延命する経済合理性は相対的に高まります。しかし、修繕費用も同様に上昇しているため、単純に「修繕のほうが安い」とは言えません。

この判断には、不動産鑑定評価基準に基づく「経済的残耐用年数」(建物が市場で競争力を維持できる残りの期間を、物理的劣化・機能的陳腐化・経済的要因の3つの観点から総合的に判定したもの)の判定が有効です。

鑑定評価では、以下のような分析を行います。

  • 大規模修繕を行った場合:修繕費用に対して、延命期間中に得られるキャッシュフローの現在価値はいくらか
  • 建替えを行った場合:解体費用+建設費用(現在の建設コスト水準)に対して、新築後のキャッシュフローの現在価値はいくらか
  • 現状のまま保有した場合:賃料下落・空室率上昇を織り込んだキャッシュフローの現在価値はいくらか

これら3つのシナリオを比較し、最も経済合理性の高い選択肢を示すことが、鑑定評価の役割の一つです。建設費高騰局面では、この比較における「建替え費用」の前提が大きく変わるため、最新のコストデータに基づいた鑑定評価の重要性が増しています。

3-3. 保険金額(再調達価額)の見直しと鑑定評価

建設費高騰の影響は、火災保険の保険金額にも及びます。

火災保険の保険金額は、一般に「再調達価額」(同等の建物を新たに建築するために必要な金額)をベースに設定します。しかし、建設費が5年で4割上昇した現在、5年前に設定した保険金額では、実際の再調達に必要な金額を大幅に下回っている可能性があります。

この状態を「一部保険」と呼び、万が一の全損事故の際に、保険金だけでは同等の建物を再建築できないリスクが生じます。

保険金額の適正化に鑑定評価を活用するメリットは以下のとおりです。

  • 再調達価額の客観的な算定:鑑定士が最新の建設コストデータに基づいて再調達価額を算定するため、保険金額の妥当性を客観的に検証できる
  • 建物の個別性の反映:簡易な保険金額算定ツールでは反映しきれない、建物固有の仕様(特殊な設備、高グレードな仕上げ等)を適切に評価できる
  • 保険料の最適化:過大な保険金額の是正にもつながり、保険料の適正化にも寄与する

特に事業用建物(オフィスビル、商業施設、工場、倉庫等)については、建設費高騰を機に保険金額を見直すことを強くお勧めします。再調達価額が数千万円〜数億円単位で変動している現在、保険の過不足は経営リスクに直結します。

まとめ

建設費の急騰は、不動産の価値構造そのものを変えつつあります。新築・中古の価格差縮小から鑑定評価額の見直し、保険金額の不足まで、その影響は多岐にわたります。

要点を振り返ります。

  • 2019年〜2024年で建設コストは約4割上昇(鉄骨造では5割に迫る上昇率)しており、資材費・人件費・労働規制の三重苦に支えられた構造的な変化である
  • 建設費高騰により新築と中古の価格差が縮小し、中古不動産の相対的な資産価値は上昇している
  • 原価法では再調達原価の上昇が評価額を押し上げる構造的要因となり、建物の物理的状態が変わらなくても積算価格は大きく変動する
  • 投資判断においては、新築開発の利回り低下と中古取得の相対的優位性の変化を踏まえた精緻なコスト分析が不可欠である
  • 火災保険の保険金額(再調達価額)が建設費高騰に追いついていないケースが多く、特に事業用建物の保険の見直しが急務である

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