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還元利回りの求め方で価格は4,360万円変わる?キャップレート5つの算定法と根拠の見方を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
朝の青空の下、東京の住宅街の通りから見上げたタイル張りの中層賃貸マンション一棟と手前の植栽・自転車

はじめに

還元利回りの求め方がわからない。同じ一棟マンションなのに、A社は利回り4.3%、B社は4.8%で価格を出してきた。どちらが正しいのか判断できない。収益物件の売買や融資の場面で、こうした戸惑いを抱える投資家や金融機関の担当者は少なくありません。

先に結論をお伝えします。還元利回り(キャップレート)は、1つの公式から自動的に決まる数字ではありません。 不動産鑑定評価基準は、取引事例との比較(いわゆる市場抽出法)や、借入金と自己資金の構成から求める方法など、複数の求め方を例示しています。どの方法を使い、どのデータを参照し、分子の純収益をどう定義したかによって、同じ物件でも利回りは0.5ポイント程度ぶれることがあります。

この記事では、還元利回りの基本と基準が示す5つの求め方を整理したうえで、利回りがぶれる理由と、鑑定評価書で利回りの根拠をどう確認すればよいかを、私たち鑑定士の視点から解説します。

第1章:還元利回り(キャップレート)とは何か

1-1. 直接還元法で価格を決める「割り算の分母」

収益還元法(対象不動産が将来生み出す収益から価格を求める手法)のうち、直接還元法は、1年間の純収益を還元利回りで割って価格を求めます。算式は次のとおりです。

収益価格 = 1年間の純収益 ÷ 還元利回り

還元利回りは、この割り算の分母です。英語ではキャップレート(Capitalization Rate)と呼ばれます。分母であるため、わずかな差が価格を大きく動かします。純収益1,800万円の物件なら、還元利回り4.5%で4億円、4.3%で約4億1,860万円です。0.2ポイントの違いで約1,860万円の差が生じます。

収益還元法が原価法・取引事例比較法とどう使い分けられるかは、「なぜ鑑定評価書には3つの価格が並ぶのか?原価法・取引事例比較法・収益還元法の違いを不動産鑑定士が解説」で解説しています。

1-2. 表面利回り・NOI利回り・NCF利回りの違い

キャップレートとNOI利回りの違いがわかりにくいという声もよく聞きます。混乱の原因は、分子に何を置くかが呼び方によって異なることです。

呼び方 分子 特徴
表面利回り 満室想定の年間賃料 空室・経費を引かない。販売図面で多用
NOI利回り 賃料収入から運営費用を控除 NOI=Net Operating Income(営業純収益)
NCF利回り NOIから大規模修繕費等を控除 NCF=Net Cash Flow(純収益)。鑑定評価の基本

国土交通省『不動産鑑定評価基準運用上の留意事項』は、直接還元法で還元する純収益と還元利回りは「把握の仕方において整合がとれたもの」でなければならないとし、建物を含む不動産では償却前の純収益を用いるのを基本としています。実務では、NOIに一時金の運用益を加え、資本的支出(建物の価値を高める修繕などの支出)を差し引いたNCFを還元するのが一般的です。つまり、鑑定評価の還元利回りは原則としてNCFに対応する利回りです。

販売図面の表面利回り6%と、鑑定評価書の還元利回り4.5%を並べて「利回りが1.5ポイントも違う」と比べるのは誤りです。分子が違う数字どうしを比べていることになります。

1-3. 還元利回りと割引率の関係

もう1つ押さえておきたいのが割引率との違いです。割引率は、DCF法(将来の純収益と売却価格を現在価値に割り戻す手法)で用いる利回りで、将来の収益の変動は分子側に織り込みます。

一方、還元利回りは1年分の純収益で価格を求めるため、将来の賃料上昇や下落の見通しを分母の中に含めています。基準の運用上の留意事項は、純収益が一定の趨勢で変動すると想定される場合の関係を次の式で示しています。

還元利回り(R) = 割引率(Y) - 純収益の変動率(g)

たとえば割引率4.8%、純収益が年0.5%ずつ伸びると見込むなら、還元利回りは4.3%です。賃料上昇が見込める物件ほど還元利回りは低く、価格は高くなります。

第2章:還元利回りの求め方――基準が示す5つの方法

前述の留意事項は、還元利回りの求め方として次の5つを例示し、1つの方法を採用するか、複数を組み合わせて採用するとしています。あわせて、必要に応じて投資家等の意見や不動産インデックスを参考として活用するとしています。

2-1. 取引事例との比較から求める方法(市場抽出法)

類似の不動産の取引事例から利回り(取引利回り)を抽出し、対象不動産との違いを補正して求める方法です。実務では市場抽出法とも呼ばれます。市場の実勢を最も直接に反映するため、類似の事例が豊富な住宅系やオフィスでは中心的な方法になります。

注意点は、取引利回りが償却前後のどちらの純収益に対応するかを確認することです。また留意事項は、新築直後で稼働率が安定していないなど、純収益に特殊な要因があり適切に補正できない事例は採用すべきでないとしています。販売図面の表面利回りをそのまま取引利回りとして使うことはできません。

2-2. 借入金と自己資金の構成から求める方法

不動産の取得資金を借入金と自己資金に分け、それぞれの利回りを構成割合で加重平均する方法です。バンド・オブ・インベストメント(Band of Investment)とも呼ばれます。

還元利回り = 借入金還元利回り × 借入金割合 + 自己資金還元利回り × 自己資金割合

数値は考え方を示すための想定です。借入金割合60%、借入金還元利回り4.4%(金利2.0%・30年元利均等返済の年間返済額÷借入額)、自己資金割合40%、投資家が求める自己資金の利回り5.0%とすると、0.6×4.4%+0.4×5.0%=約4.6%です。金融市場の動向を反映させやすい点が特徴で、融資金利が上がれば還元利回りも上がる方向に働きます。

2-3. 土地と建物等・割引率・借入金償還余裕率から求める方法

残る3つの方法は、次のとおりです。

  1. 土地と建物等に係る還元利回りから求める方法:土地と建物の利回りを価格割合で加重平均する。建物の比率が高い物件ほど、老朽化リスクを反映して利回りが高くなる
  2. 割引率との関係から求める方法:1-3で示したR=Y-gの式を使う。純収益が永続的に一定の趨勢で推移すると想定できる場合に有効
  3. 借入金償還余裕率の活用による方法:借入金償還余裕率(DSCR。純収益を元利返済額で割った値)を用い、借入金返済の安全性を加味して求める。収益のみを返済原資とする場合に有効

2-4. 積上法(ビルドアップ法)の位置づけ

積上法は、10年物国債などの金融資産の利回りに、不動産の個別性(流動性の低さ、管理の手間、立地・築年のリスクなど)を上乗せして利回りを求める方法です。留意事項では、この方法は割引率の求め方として例示されています。

実務では、積上法で求めた割引率から純収益の変動率を差し引き、還元利回りを検証する使い方が見られます。ただ、リスクの上乗せ幅は鑑定士の判断に依存しやすく、市場の実勢から離れるおそれがあります。そのため、市場抽出法による利回りと突き合わせて整合性を確認するのが一般的です。

第3章:同じ物件でも還元利回りがぶれる理由と根拠の確認方法

3-1. ぶれの原因は「分子」「参照データ」「将来の見通し」

同じ物件でも評価者によって還元利回りが割れる原因は、主に3つです。

1つ目は分子の定義です。NOIに対する利回りとNCFに対する利回りを混同すると、大規模修繕費の分だけ利回りがずれます。2つ目は参照データです。どの取引事例を選び、立地・築年・規模の違いをどう補正したかで結論が変わります。3つ目は将来の見通しです。賃料上昇を見込むか、金利上昇による投資家の要求利回りの上昇を見込むかで、分母に織り込む変動率が変わります。

3-2. 公表データで見る期待利回りの水準

参照データとしてよく用いられるのが、日本不動産研究所『不動産投資家調査』です。第54回(2026年4月現在)の主な期待利回り(NCFベース)は次のとおりです。

用途・地区 期待利回り 前回(2025年10月)差
オフィス(東京・丸の内、大手町) 3.2% 横ばい(7期連続)
賃貸住宅ワンルーム(東京・城南) 3.6% 0.1ポイント低下
賃貸住宅ファミリー(東京・城南) 3.7% 0.1ポイント低下
物流施設(東京・江東区) 3.8% 横ばい
宿泊特化型ホテル(東京) 4.1% 0.1ポイント低下

ただし、これはAクラスビルなど標準的な優良物件を想定した投資家アンケートの結果です。築30年の地方の一棟アパートに、この数字をそのまま当てはめることはできません。対象不動産の立地・築年・規模に応じた補正が必要です。

また、同調査では今後のリスク要因として「金利の上昇」を挙げた回答が122社で最多でした。財務省『国債金利情報』によると、10年物国債の利回りは2026年4月1日の2.315%から、9月25日には3.071%まで上昇しています。調査時点後の金利上昇を還元利回りにどう反映させるかは、評価者の判断が分かれやすい論点です。

3-3. 想定されるケース:利回り0.5ポイントの差で約4,360万円

数値は考え方を示すための想定です。東京23区内の築15年・一棟賃貸マンションについて、年間のNCFを1,800万円と査定したとします。

採用した還元利回り 収益価格 4.3%との差
4.3%(新築・好立地の取引事例を重視) 約4億1,860万円 ―
4.5%(築年・規模を補正) 4億円 約1,860万円
4.8%(金利上昇を強めに織り込み) 3億7,500万円 約4,360万円

売主側は4.3%、買主側や金融機関は4.8%を主張したくなるでしょう。ここで大切なのは、どの利回りが「正しいか」を感覚で決めるのではなく、どの事例・どの補正・どの見通しから導いたのかを説明できるかどうかです。新築ワンルームの出口価格を収益価格で検証する考え方は、「新築ワンルーム2,800万円、収益価格は約1,980万円?不動産鑑定士が教える出口価格の検証法」も参考になります。

3-4. 鑑定評価書で利回りの根拠を確認する4つのポイント

鑑定評価書や査定書を受け取ったら、次の4点を確認してください。

  1. 還元利回りがNOI・NCFのどちらに対応しているか
  2. 採用した取引事例の所在・築年・規模と、対象不動産との補正内容
  3. 投資家調査などの公表データをどう参照し、どう補正したか
  4. 直接還元法とDCF法の収益価格が整合しているか

根拠が示されていない利回りは、交渉や融資審査の場で説得力を持ちません。

まとめ

還元利回りは、収益価格を決める割り算の分母であり、その求め方と根拠の示し方が評価の信頼性を左右します。

要点を振り返ります。

  • 還元利回り(キャップレート)は直接還元法の分母で、0.2ポイントの違いが数千万円の価格差になる
  • 表面利回り・NOI利回り・NCF利回りは分子が異なり、鑑定評価の還元利回りは原則としてNCFに対応する
  • 基準の留意事項は、取引事例との比較(市場抽出法)など5つの求め方を例示し、積上法は割引率の求め方として示している
  • 同じ物件でも、分子の定義・参照データ・将来の見通しの違いで利回りは0.5ポイント程度ぶれることがある
  • 大切なのは利回りの高低ではなく、どの事例・補正・見通しから導いたかを説明できることである

収益物件の売買価格の交渉を控えた投資家様、担保評価の妥当性を確認したい金融機関の方、保有不動産の時価を把握したい企業の資産担当者様へ。提示された利回りに疑問を感じたら、その根拠を一度専門家の目で確かめてみてください。

アパート・マンション1棟などの収益物件の鑑定評価書は40万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書は15万円〜、業者の査定書や提示額の検証(セカンドオピニオン)は5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。還元利回りの根拠に迷われたときは、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。

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