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住宅地上昇率全国1位は白馬村。観光地の地価はなぜ跳ね、どこまで持続するのか?不動産鑑定士が解説

公開日:更新日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
雪に覆われた日本のスキーリゾート集落の街路と、背景の雪山。インバウンド需要による観光地の地価上昇を象徴するイメージ

はじめに

「スキー場の近くの土地が、東京の住宅地より高いらしい」――にわかには信じがたい話ですが、数字はそれを裏づけています。

国土交通省の2026年地価公示において、住宅地の上昇率全国1位となったのは長野県北安曇郡白馬村でした。北海道の富良野や長野県の野沢温泉といったスキーリゾートも、高い上昇率を示しています。ニセコ地区を擁する北海道倶知安町が上昇率上位を占める年が続いてきたことも、広く知られるところです。この傾向は足元でも続いており、2026年9月15日に公表された都道府県地価調査(基準地価、2026年7月1日時点)では、白馬村は商業地の上昇率が35.6%で全国1位、住宅地も31.3%で全国2位となりました。

沖縄も同様です。2026年地価公示における都道府県別の変動率は、東京都の8.43%に次いで沖縄県が6.63%。住宅地に限れば前年比6.4%の上昇で、平均価格は13万500円/㎡と全国8位に位置しています。

人口が減少し、地方の地価は下がり続ける――そう語られてきた日本で、なぜ一部の観光地だけが逆を行くのでしょうか。そして、この価格は持続するのでしょうか。

この記事では、観光地の地価形成のメカニズムを分解し、私たち鑑定士がこうした市場をどう見ているのかを解説します。なお、本記事は市場分析であり、特定の不動産への投資を推奨するものではありません。

第1章:数字が示す観光地の地価

1-1. 上がっているのは「住宅地」である

まず押さえておきたいのが、上昇しているのが商業地ではなく住宅地だという点です。

通常、地価の上昇は商業地から始まります。人が集まり、店舗の売上が伸び、テナントが高い賃料を払えるようになる。その収益力が地価に反映されるという順序です。

ところが白馬村や倶知安町では、住宅地の上昇が際立ちます。これは、そこに住む人が増えたからではありません。別荘、コンドミニアム、そして従業員向け住宅――いずれも、住宅地に建つが、地元住民の居住需要とは異なる需要です。

1-2. 三極の需要構造

観光地の土地需要は、大きく3つに分けられます。

需要の種類買い手目的
別荘・セカンドハウス需要国内外の富裕層自己利用と資産保全
投資用コンドミニアム需要国内外の投資家短期賃貸による運用
事業用・従業員住宅需要ホテル・観光事業者施設用地と人材確保

このうち、地価を押し上げる直接の力になっているのが最初の2つです。そして3つ目が、地元の住宅市場を圧迫します。

1-3. 全国の趨勢とは別の市場

重要なのは、これらの地域が日本の一般的な不動産市場とは別のロジックで動いているという点です。

2026年地価公示は、全国的に見れば上昇と下落が併存する二極化の様相を示しました。この構造については、当事務所の過去記事「2026年地価公示:上昇率44%と下落が共存する”二極化ニッポン”の不動産事情」で詳しく分析しています。

地方の不動産の多くは、依然として買い手が見つからない状況にあります。その現実については過去記事「『値段がつかない』と言われた地方の不動産、本当に無価値?鑑定士が教える4つの評価手法」で扱いました。

同じ「地方」でありながら、観光地だけが別の市場を形成している――この理解が出発点になります。

第2章:価格形成のメカニズム

2-1. 需要側――外貨建ての購買力

観光地の地価を押し上げている最大の要因は、円建てではない購買力の流入です。

海外の投資家にとって、日本の不動産価格は自国通貨に換算した金額で判断されます。円安が進めば、同じ物件が自国通貨ベースでは安く見えます。日本国内の感覚では「高すぎる」価格でも、国際的な比較では割安と判断されることがあります。

加えて、スキーリゾートについては世界的に見て希少性があります。良質な雪、アクセス、周辺の観光資源――これらを兼ね備えた地域は世界的にも限られており、国際的な比較の土俵に乗ることで、国内の相場観から切り離された価格が形成されます。

海外投資家の視点については過去記事「なぜ世界のマネーは日本の不動産に向かうのか?海外投資家の視点と国内市場への影響を不動産鑑定士が解説」を、外国人による日本の不動産取得の法的枠組みについては「外国人でも日本の不動産は自由に買える?法規制・税務リスクと鑑定評価の活用法」をご参照ください。

2-2. 供給側――使える土地が極端に少ない

需要が強くても、供給が弾力的であれば価格は跳ねません。観光地で価格が急騰するのは、供給側の制約が厳しいためです。

  • 地形の制約――山間のリゾートでは、平坦で造成可能な土地が限られます
  • インフラの制約――上下水道、電力、道路。これらが整備されていない区域では開発ができません
  • 法的規制――自然公園法、森林法、農地法、景観条例、自治体独自の開発指導要綱。多くの観光地では、乱開発を防ぐための規制が重層的に存在します
  • 除雪・冬季アクセス――積雪地では、冬季に到達できるかどうかが利用価値を決めます

「スキー場の近く」であっても、実際に開発できる土地はごく一部です。需要が集中する土地の総量が限られていることが、単価を押し上げます。

2-3. 従業員住宅という第三の需要

見落とされがちなのが、この需要です。

観光地でホテルや飲食店が増えれば、そこで働く人が必要になります。ところが、地価と家賃が上がった地域では、従業員が住む場所を確保できません。結果として、事業者自らが従業員住宅を確保するために土地・建物を取得する動きが生まれます。

観光需要の拡大が、住宅需要を二重に押し上げる構造です。これが、商業地よりも住宅地の上昇が目立つ一因になっています。

同時に、これは地元にとって深刻な問題でもあります。地価と家賃の上昇は、もともと住んでいた住民の生活コストを押し上げ、若年層が地元に住み続けられない状況を生みます。

第3章:この価格は持続するのか

3-1. 収益価格と比準価格の乖離を見る

私たち鑑定士が観光地の不動産を評価するとき、注意して見るのが収益価格(その不動産が生み出す賃料収入などから逆算して求めた価格)と比準価格(周辺の取引事例と比較して求めた価格)の乖離です。

具体例で考えてみましょう。リゾート地の分譲コンドミニアム(専有80㎡、分譲価格1億円)を想定します。

【短期賃貸(バケーションレンタル)を前提とした場合】

  • 1泊5万円、稼働率40% = 年間売上 730万円
  • 運営費率50%として純収益 365万円
  • 還元利回り(純収益を価格に換算する際の利回り)5%とすると収益価格:365万円 ÷ 0.05 = 7,300万円

【通年の居住用賃貸を前提とした場合】

  • 月額賃料12万円 = 年間144万円
  • 経費率25%として純収益 108万円
  • 収益価格:108万円 ÷ 0.05 = 2,160万円

分譲価格1億円に対し、短期賃貸を前提としても収益価格は7,300万円。通年賃貸を前提とすれば2,160万円にとどまります。

つまり、分譲価格の相当部分は、賃貸収益では説明できないということです。自己利用の効用、資産保全としての価値、そして将来の値上がり期待――これらが上乗せされて価格が形成されています。

短期賃貸を前提とした評価の考え方については、過去記事「訪日4,000万人時代の民泊評価 ― 180日制限・稼働率変動・法改正リスクをどう織り込むか」もご参照ください。

3-2. 需要が剥落したときに何が起きるか

収益で説明できない部分が大きいということは、その部分は需要が変われば消えるということでもあります。

観光地の不動産価格を支える前提には、次のような要素が含まれます。

  • 為替水準が現在の方向にあり続けること
  • 国際的な旅行需要が維持されること
  • 特定国からの投資に対する規制が導入されないこと
  • 気候変動により降雪量が大きく損なわれないこと

これらは、いずれも不動産市場の外側にある要因です。土地の側では制御できません。

過去にも、リゾート地の地価が急騰した後に長期の下落に転じた例があります。1980年代後半のリゾート開発ブームとその後の展開は、多くの地域に爪痕を残しました。歴史が繰り返すと断言はできませんが、収益で説明できない価格には、それが剥落する可能性が内包されているという点は、冷静に認識しておくべきでしょう。

3-3. 評価を依頼される場面

観光地の不動産について評価が必要になる場面は増えています。

  • 相続が発生し、別荘やリゾートマンションの評価が必要になった
  • 事業用地の取得・売却にあたり、価格の妥当性を検証したい
  • 金融機関から担保評価のための資料を求められた
  • 共有者間で分割の話が出て、価格の合意が必要になった
  • 会計上、保有不動産の時価を把握する必要がある

こうした場面では、「いくらで売れるか」だけでなく、その価格が何によって支えられているのかを言語化することが重要になります。取引事例から比準した価格だけを示しても、その価格の頑健性は伝わりません。

宿泊施設そのものの評価については、過去記事「インバウンド本格回復!『ホテル・旅館』の不動産評価はどう変わるのか?」もあわせてご覧ください。

当事務所では、全国の不動産について対応しており、観光地の特殊な価格形成を踏まえた評価にも取り組んでおります。

まとめ

観光地の地価上昇は、国際的な購買力と厳しい供給制約が重なって生じた現象です。日本の一般的な不動産市場とは別のロジックが働いています。

要点を振り返ります。

  • 2026年地価公示において住宅地の上昇率全国1位は長野県北安曇郡白馬村であり、富良野や野沢温泉も高い上昇率を示している
  • 沖縄県は都道府県別変動率が6.63%で東京都に次ぐ2位、住宅地は前年比6.4%上昇し平均13万500円/㎡と全国8位に位置する
  • 上昇しているのは商業地ではなく住宅地であり、別荘・投資用コンドミニアム・従業員住宅という3種類の需要が、地元住民の居住需要とは別の力として働いている
  • 地形・インフラ・法規制により開発可能な土地の総量が限られているため、需要の集中が単価を押し上げる
  • 分譲価格1億円のコンドミニアムでも、短期賃貸前提の収益価格は7,300万円、通年賃貸前提では2,160万円にとどまり、価格の相当部分は賃貸収益では説明できない

観光地に不動産をお持ちで、相続や売却にあたって価値を把握したい地主の方、リゾート地の不動産の取得を検討されている投資家の方、また事業用地の価格の妥当性を検証したい観光事業者様へ。

観光地の不動産の適正な価値の把握に、不動産鑑定評価をご活用ください。初回の無料相談も承っております。

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