基準地価1.0%と地価公示2.1%を比べれば地価の動きが分かる?2026年地価調査の読み方を不動産鑑定士が解説

はじめに
2026年9月15日、国土交通省が令和8年都道府県地価調査(基準地価)を公表しました。全国の住宅地は前年比1.0%の上昇、商業地は2.9%の上昇です。
ここで、こんな読み方をしてしまう方がいます。「3月に発表された地価公示では住宅地が2.1%、商業地が4.3%の上昇だった。それが1.0%と2.9%まで落ちたのだから、半年で上昇率が半減したのか」――。
この読み方は誤りです。断言します。 地価公示と地価調査は、調べている土地そのものが違います。母集団の異なる2つの統計を並べて引き算しても、市場の動きは出てきません。
では、2026年の地価調査は本当は何を示したのか。そして私たち鑑定士は、公示と調査という2つの公的な地価指標を実務でどう使い分けているのか。この記事で整理します。
第1章:2026年の基準地価は何を示したか
1-1. 全国平均は5年連続の上昇
令和8年都道府県地価調査は全国21,466地点の基準地を対象に実施され、うち福島第一原子力発電所の事故の影響により10地点が調査を休止しています。全用途平均・住宅地・商業地のいずれも5年連続の上昇となりました。
| 圏域 | 全用途平均 | 住宅地 | 商業地 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 1.5%(前年1.5%) | 1.0%(前年1.0%) | 2.9%(前年2.8%) |
| 三大都市圏 | 4.4%(前年4.3%) | 3.2%(前年3.2%) | 7.4%(前年7.2%) |
| 東京圏 | 5.4%(前年5.3%) | 4.0%(前年3.9%) | 8.9%(前年8.7%) |
| 大阪圏 | 3.6%(前年3.4%) | 2.3%(前年2.2%) | 6.8%(前年6.4%) |
| 名古屋圏 | 1.9%(前年2.1%) | 1.5%(前年1.7%) | 2.7%(前年2.8%) |
| 地方圏 | 0.4%(前年0.4%) | 0.1%(前年0.1%) | 0.9%(前年1.0%) |
(国土交通省『令和8年都道府県地価調査の概要』2026年7月1日時点)
商業地だけが上昇幅を広げ、全用途平均と住宅地は前年と同じ幅にとどまりました。名古屋圏は全用途で上昇幅が縮小しています。
1-2. 減速しているのは「地方四市」である
見落とされがちなのが地方圏の中身です。地方圏は札幌市・仙台市・広島市・福岡市の地方四市と、それ以外の地域に分けて公表されます。
地方四市の住宅地は前年の4.1%から2.9%へ、商業地は7.3%から6.0%へと、はっきり減速しました。市別では仙台市の住宅地が5.1%から2.5%、福岡市が7.2%から5.5%、札幌市が1.4%から0.7%です。
一方、その他の地方の商業地は0.6%から0.7%へ上昇幅を広げています。東京23区の住宅地は8.3%から8.7%、商業地は13.2%から13.3%。大阪市の商業地は11.1%から12.3%です。
つまり「二極化」の断層は、いま東京・大阪と地方四市の間に移ってきています。「大都市は上がり地方は下がる」という図式では、この動きを捉えられません。
1-3. 上昇率と価格のトップはどこか
個別地点では、住宅地の上昇率1位が北海道富良野市北の峰町の基準地で32.0%(1㎡あたり68,100円)、商業地の1位が長野県北安曇郡白馬村の基準地で35.6%(同32,000円)でした。スキーリゾートの地価がなぜこれほど動くのかは、「住宅地上昇率全国1位は白馬村。観光地の地価はなぜ跳ね、どこまで持続するのか?不動産鑑定士が解説」で需要構造から分解しています。
下落率の1位は、住宅地が宮城県加美郡加美町でマイナス6.0%、商業地が石川県輪島市でマイナス6.8%。価格の最高地点は、住宅地が東京都港区赤坂一丁目の1㎡あたり750万円(8年連続で全国1位)、商業地が東京都中央区銀座二丁目の明治屋銀座ビルで同5,250万円(21年連続で全国1位)です。
第2章:地価公示と地価調査は何が違うのか
2-1. 根拠法も実施主体も調査地点も違う
冒頭の誤読が生まれる原因は、2つの制度が似た顔をしている点にあります。
| 項目 | 地価公示 | 都道府県地価調査 |
|---|---|---|
| 根拠 | 地価公示法 | 国土利用計画法施行令第9条 |
| 実施主体 | 国土交通省土地鑑定委員会 | 都道府県知事 |
| 価格時点 | 毎年1月1日 | 毎年7月1日 |
| 地点の呼称 | 標準地 | 基準地 |
| 鑑定評価を行う鑑定士 | 2人以上 | 1人以上 |
地点の範囲も違います。地価公示の標準地は、地価公示法第2条第1項により「都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域」(公示区域)の中から選定されます。これに対して地価調査の基準地には、この区域の限定がありません。都市計画区域の外にも基準地が置かれるというのが、両者のもっとも実務的な違いです。
地点数も、令和8年は地価公示が25,565地点、地価調査が21,466地点です。
2-2. だから単純比較はできない
ここまで来れば、冒頭の「半減した」という読み方がなぜ誤りかが分かります。
地価公示は都市部に厚く標準地を置いた統計、地価調査は都市計画区域外まで含めた薄く広い統計です。母集団が違えば平均値も違います。地価公示の住宅地2.1%と地価調査の住宅地1.0%の差は、半年間に起きた市場の変化ではなく、そもそも測っている場所の違いを相当部分含んでいます。
この2つは優劣の関係ではなく、国土交通省自身が、両者は調査時期と調査地点において相互に補完的な関係にあると説明しています。
2-3. 半年の動きは「共通地点」で見る
では、半年で市場がどう動いたかを知るにはどうするか。両方の調査に含まれる共通地点だけを取り出して見ます。国土交通省はこの数字も公表しており、令和8年の共通地点は1,589地点(住宅地1,086地点、商業地503地点)です。
| 圏域・用途 | 前半(2025/7〜2026/1) | 後半(2026/1〜2026/7) |
|---|---|---|
| 全国・住宅地 | 1.6% | 1.4% |
| 全国・商業地 | 3.1% | 2.8% |
| 東京圏・商業地 | 5.0% | 4.5% |
| 地方四市・商業地 | 3.4% | 2.3% |
| その他地方・商業地 | 1.2% | 1.4% |
全国では後半のほうが上昇幅がやや小さく、緩やかな減速が読み取れます。ただしその減速は地方四市の商業地(3.4%から2.3%)に強く出ており、その他の地方の商業地はむしろ後半に加速しています。第1章で見た構図が、半年刻みでも裏づけられる形です。
なお共通地点は都市部に集中するため、この数字は全国平均より高く出ます。ここでも母集団の確認が欠かせません。
第3章:価格時点7月1日が持つ意味
3-1. 発表日の価格ではない
地価調査は9月15日に公表されましたが、示されているのは7月1日時点の価格です。2か月半のずれがあります。
このずれは形式的なものではありません。国土交通省は令和8年都道府県地価調査の概要に、「令和8年熊本地震」および「令和8年8月千葉豪雨」による影響は反映されていないと明記しています。7月1日より後の出来事は、価格に入っていないということです。
不動産の価格は、いつの時点のものかを決めなければ確定しません。これを価格時点と呼びます。過去の鑑定評価書がどこまで通用するかも、価格時点から考えます。この点は「3年前の鑑定評価書はまだ使える?有効期限の誤解と再評価が必要な3つのきっかけを不動産鑑定士が解説」で詳しく扱っています。
3-2. 時点修正の手がかりとして使う
1月1日の地価公示と7月1日の地価調査が半年ずつ交互に公表されることには、実務上の利点があります。価格時点が年の途中にあっても、価格を引き直す手がかりが半年おきに手に入るからです。
鑑定評価では、取引事例や公的価格を別の時点の価格に引き直す作業を時点修正と呼び、その変動率の根拠として公示・調査の推移を用いる場面があります。
3-3. 9か月のずれで何円動くか
東京23区に1億円の住宅地をお持ちで、価格時点が2026年10月1日だとします(相続では相続開始日が価格時点になります)。
手元にあるのが2026年1月1日の地価公示価格だけだった場合を考えます。東京圏の住宅地は共通地点ベースで、1月1日から7月1日までの半年に2.3%上昇しています。まずこの分を反映すると1億230万円。さらに7月1日から10月1日までの3か月を同じペースで延長すると、おおむね1.1%の上昇で1億346万円です。
公示価格をそのまま使った場合との差は約346万円。9か月のずれを放置するだけで、この差が生じます。
ただし、これは考え方の例です。前半2.6%・後半2.3%と半期ごとに率が違うとおり、期間で機械的に按分する方法には限界があります。実際の鑑定評価では、対象地の存する地域の取引事例や賃料動向まで確認して変動率を判断します。
第4章:実務でどちらを使うのか
4-1. 公示価格にしかない法的な役割
地価公示には、地価調査にはない法律上の効力があります。第一に、地価公示法第8条は、不動産鑑定士が公示区域内の土地について正常な価格(市場で成立すると認められる適正な価格)を求めるときは、公示された標準地の価格を規準としなければならないと定めています。これは鑑定士に課された義務であり、基準地の価格には同趣旨の規定がありません。
第二に、同法第9条により、土地収用法などで土地を収用できる事業を行う者が取得価格を定めるときも、公示価格を規準とすることとされています。公共事業の用地買収で公示価格が基礎になるのはこのためです。第三に、同法第1条の2は、土地の取引を行う者に、公示価格を指標として取引するよう努めることを求めています。
4-2. 基準地価格が効く場面
では地価調査の出番はどこか。3つあります。
1つ目は、都市計画区域外の土地です。公示区域の外に標準地はありませんから、公的な価格の手がかりは基準地に限られます。山間部の土地などを評価するとき、基準地価格は貴重な資料になります。
2つ目は、価格時点が年の後半にある場合です。7月1日時点の価格は、1月1日時点の公示価格より近い時点の情報を与えてくれます。
3つ目は、地点数を補える点です。同一地域内に標準地と基準地の両方があれば、価格水準を確かめる材料がその分増えます。
4-3. どちらも「あなたの土地の価格」ではない
最後に、もっとも大切な点です。地価公示法第3条は、標準地を「自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域において、土地の利用状況、環境等が通常と認められる一団の土地」から選ぶと定めています。基準地も同じ考え方で選ばれます。つまり公示価格も基準地価格も、その地域の標準的な土地の価格です。
あなたの土地はどうでしょうか。間口が狭い、道路より低い、境界が確定していない、借地権が付いている、兄弟で共有している――そうした個別の事情はいずれも価格に影響します。公示価格に面積を掛けた金額が、そのまま通用するわけではありません。
相続、遺産分割、法人と個人の売買、訴訟といった場面では、その土地固有の条件を織り込んだ価格が求められます。公的価格と実際の時価が離れていることが争いの原因になる例は少なくありません。この構図は「路線価で計算すると500万円取り損ねる?遺留分侵害額請求の不動産評価と基準時を不動産鑑定士が解説」でも取り上げています。
なお、相続税や譲渡所得税の具体的な計算については税理士に、遺産分割や訴訟における法律上の取扱いについては弁護士にご確認ください。
まとめ
2026年の基準地価は、全国平均が5年連続で上昇する一方、地方四市の減速という新しい局面を示しました。
要点を振り返ります。
- 令和8年都道府県地価調査は全国21,466地点を対象とし、全用途平均1.5%・住宅地1.0%・商業地2.9%と、いずれも5年連続の上昇となった
- 減速が目立つのは地方四市であり、住宅地は4.1%から2.9%、商業地は7.3%から6.0%へ低下した一方、東京23区や大阪市の商業地はさらに上昇幅を広げた
- 地価公示と地価調査は根拠法・実施主体・価格時点・地点の範囲が異なり、両者の数字を単純に引き算しても半年の市場の動きは出てこない
- 半年の動きを見るなら両調査の共通地点1,589地点の変動率を使う。全国は後半にやや減速したが、その他地方の商業地は後半に加速している
- 地価公示法第8条により鑑定士は公示価格を規準とする義務を負う一方、都市計画区域外の土地では基準地価格が唯一の公的な手がかりになる
- 公示価格も基準地価格もその地域の標準的な土地の価格であり、個別の事情を抱えた土地の価格とは別物である
発表された地価を見て自分の土地の価値が気になった地主の方、保有不動産の含み損益を把握したい企業の資産担当の方、取得や売却の判断材料として価格の妥当性を検証したい投資家の方へ。
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