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調停で不動産鑑定は必要?遺産分割・離婚・共有物分割の場面別に鑑定士が解説

公開日:更新日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
石造りの建物の前の並木道を歩くスーツ姿の人物

はじめに

「調停で不動産の価格が折り合わない。鑑定を取るべきだと言われたが、費用も流れも分からない」――遺産分割調停や離婚調停の当事者の方から、私たち鑑定士がよくいただくご相談です。

調停は、裁判所で行われる「話し合い」の手続です。判決のように白黒をつける場ではないため、不動産をいくらと見るかも、原則は当事者の合意で決まります。しかし、その合意ができないとき、議論の土台になるのが不動産鑑定士による鑑定評価です。

この記事では、調停で不動産の評価が争点になる代表的な3つの場面(遺産分割・離婚・共有物分割)と、裁判所を通じた鑑定と当事者が自ら依頼する鑑定の違い、費用の目安と負担の考え方を、不動産鑑定士の立場から整理します。

第1章:調停で不動産の評価が争点になる3つの場面

1-1. 遺産分割調停――「実家をいくらと見るか」で分け方が変わる

調停で不動産の評価がもっとも頻繁に問題になるのが、遺産分割です。相続財産に自宅や収益物件が含まれる場合、その評価額によって各相続人の取り分が直接変わります。

たとえば、相続財産が実家(評価額が争点)と預金3,000万円、相続人が兄弟2人というケースを考えます。兄が実家を取得し、弟が預金を多く受け取る形で調整する場合、実家を2,000万円と見るか3,000万円と見るかで、弟が受け取るべき金額は500万円変わります。評価額の食い違いは、そのまま取り分の食い違いになるのです。

遺産分割調停では、固定資産税評価額や相続税路線価をたたき台に話し合いが始まることが多いのですが、これらは時価(実際に取引される価格水準)とは異なる目的で作られた価格です。当事者の一方が「時価はもっと高いはずだ」と主張した時点で、根拠のある時価資料が必要になります。

1-2. 離婚調停――財産分与の前提となる自宅の時価

離婚調停では、財産分与の対象となる自宅マンションや戸建ての評価が争点になります。特に、一方が住み続けて他方に代償金を支払う場合、評価額の2分の1がそのまま支払額の目安になるため、金額への影響が大きくなります。

離婚の場面では、不動産会社の査定書が複数出てくることがよくあります。夫側は低い査定書を、妻側は高い査定書を出し合い、数百万円の開きが埋まらない――このような膠着は、査定書が「売却の仲介受注を見込んだ営業上の見積り」であり、第三者性のある評価資料ではないことに起因します。

1-3. 共有物分割調停――持分の清算価格

兄弟で共有している土地、離婚後も共有のままになっているマンションなど、共有関係を解消する調停でも評価が必要になります。一方が他方の持分を買い取る「価格賠償」の方法を取る場合、その価格の妥当性が争点の中心になります。

第2章:裁判所を通じた鑑定と、当事者が依頼する鑑定(私的鑑定)

2-1. 調停では「合意」が基本、鑑定は合意形成の道具

調停における不動産の評価方法に、法律上の決まりはありません。固定資産税評価額で合意してもよいし、査定書の平均で合意しても構いません。評価で揉めたときの選択肢が、鑑定です。

鑑定には大きく2つのルートがあります。

  • 裁判所を通じた鑑定:当事者双方が鑑定実施に合意した場合などに、裁判所が選任した不動産鑑定士が鑑定を行います。中立性はもっとも高い一方、費用は当事者が予納し、数十万円から場合によっては100万円近くになることもあります。
  • 私的鑑定(当事者依頼の鑑定):当事者の一方が不動産鑑定士に依頼して鑑定評価書を作成し、調停に提出する方法です。あくまで一方当事者の提出資料ですが、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める鑑定評価の統一基準)に従って作成する点は裁判所を通じた鑑定と同じであり、根拠の明示された専門資料として調停での話し合いの土台になります。

2-2. どちらを選ぶべきか――実務上の使い分け

実務では、「まず私的鑑定を出し、それでも合意できなければ裁判所を通じた鑑定を検討する」という順序がよく取られます。理由は費用と時間です。裁判所を通じた鑑定は中立性が高い反面、費用が高額になりやすく、実施までの手続にも時間がかかります。私的鑑定で根拠のある時価が示されると、相手方も無根拠な金額を主張し続けることが難しくなり、鑑定の実施自体が不要になって合意に至るケースも少なくありません。

なお、調停・訴訟の進め方そのものは法律判断を伴いますので、代理人の弁護士がいる場合は、鑑定を出すタイミングを含めて弁護士とご相談ください。私たち鑑定士は、評価の専門家として資料の作成と説明を担当します。

第3章:費用の目安と、誰が負担するか

3-1. 費用の目安

  • 裁判所を通じた鑑定:物件や事案によりますが、数十万円〜100万円程度。裁判所がその都度、鑑定人候補から見積りを取って決まります。
  • 私的鑑定:当事務所の場合、正式な鑑定評価書で20万円〜(物件類型により異なります)。調停の前段階で目安を把握したい場合には、鑑定評価書より簡便な価格等調査報告書(15万円〜・税別)という選択肢もあります。ただし調停に提出する資料としては、根拠の説明力が高い鑑定評価書をおすすめしています。

3-2. 誰が負担するか

裁判所を通じた鑑定の費用は、遺産分割調停では相続分に応じて分担する運用が多く見られますが、事案によって扱いは異なります。私的鑑定の費用は、依頼した当事者の負担が原則です。財産分与や遺産分割の最終的な清算の中で調整されることもありますが、これは合意内容次第です。費用負担の法的な取り扱いについては、弁護士にご確認ください。

3-3. 費用の準備が難しいとき――法テラスという選択肢

弁護士費用や鑑定費用の負担が重い場合には、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助(経済的に余裕のない方の弁護士費用等を国の機関が立て替える制度)という選択肢があります。

収入・資産が一定基準以下などの要件を満たすと、同一の問題について3回までの無料法律相談と、弁護士に調停を依頼する際の着手金・実費の立替えを受けられる可能性があります。償還は原則として月々5,000円〜10,000円程度の分割で、生活保護受給中の方には猶予・免除の制度もあります。

さらに、弁護士に依頼して手続を進める事件では、鑑定料が事件処理に必要な実費として援助対象になることがあります。当事務所が担当した案件でも、代理人弁護士の先生の申請により鑑定料について法テラスの援助決定を受けたケースがあり、その際の審査期間は2〜4週間程度、援助決定後に法テラスから弁護士事務所経由で支払いが行われる流れでした。

援助の可否や範囲は法テラスの審査によりますので、利用をお考えの場合は、法テラスまたは代理人の弁護士にご確認ください。

場面ごとの詳しい進め方は、遺産分割調停の不動産鑑定・離婚調停の不動産鑑定のページでそれぞれ解説しています。

まとめ

調停における不動産の評価は「合意」が基本であり、合意できないときに鑑定が登場します。要点を振り返ります。

  • 調停で不動産の評価が争点になる典型は、遺産分割・離婚の財産分与・共有物分割の3場面です
  • 固定資産税評価額や査定書は、それぞれ課税・営業という別の目的で作られた価格であり、争いが生じた時点で第三者性のある時価資料が必要になります
  • 鑑定には裁判所を通じた鑑定と私的鑑定の2ルートがあり、実務では費用と時間の観点から私的鑑定を先に検討することが多くあります
  • 私的鑑定は20万円〜、裁判所を通じた鑑定は数十万円〜100万円程度が目安です
  • 鑑定を出すタイミングなど手続の進め方は、代理人弁護士との連携が重要です
  • 費用負担が難しい場合は、法テラスの民事法律扶助により弁護士費用や鑑定料の援助を受けられる可能性があります
  • 費用負担が難しい場合は、法テラスの民事法律扶助により弁護士費用や鑑定料の援助を受けられる可能性があります

調停を控えて不動産の評価にお悩みの当事者の方、依頼者のために評価資料をご検討中の弁護士の先生は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。そもそも鑑定が必要な事案かどうかの見立てからお伝えします。

なお、離婚に伴う財産分与の不動産評価については、論点別の解説をまとめた専門サイト「離婚・財産分与の不動産鑑定」もあわせてご覧ください。

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