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裁判所の不動産鑑定とは?鑑定費用の相場・負担ルールと私的鑑定との違い

公開日:更新日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
書斎の机に置かれた資料の束と万年筆

はじめに

「裁判で不動産の価格が争いになり、裁判所の鑑定になりそうだ。費用は誰が払うのか、金額はどう決まるのか」――訴訟の当事者の方や、代理人の弁護士の先生からいただくご質問です。

先に結論をお伝えすると、裁判所の鑑定の費用は、鑑定を申し立てた当事者が予納金として先払いするのが原則で、数十万円から、複雑な物件では100万円程度になることもあります。

不動産をめぐる裁判――遺産分割の審判、離婚訴訟での財産分与、共有物分割訴訟、遺留分侵害額請求、立退料や地代・家賃の増減額請求など――では、不動産の価格そのものが判断の前提になる場面が数多くあります。このとき登場するのが「裁判所の鑑定」と「私的鑑定」という2種類の鑑定です。

この記事では、両者の仕組みの違い、費用の相場と負担のルール、そして実務でどう使い分けられているかを、不動産鑑定士の立場から解説します。

第1章:裁判所の不動産鑑定とは――鑑定人の選任と鑑定費用

1-1. 仕組み――裁判所が鑑定人を選ぶ

裁判所の鑑定とは、民事訴訟法上の証拠調べの一つとして、裁判所が選任した鑑定人(不動産の価格が争点の場合は不動産鑑定士)が行う鑑定です。当事者の申立てを受けて裁判所が採否を判断し、採用されると、裁判所が鑑定人を指定して鑑定事項を定めます。

当事者が自分の側の専門家を連れてくるのではなく、裁判所が中立の立場で専門家を選ぶ――この選任プロセスこそが、裁判所の鑑定の最大の特徴です。鑑定の結果は証拠として高い信頼性を持ち、裁判所の判断(判決・審判)の基礎になることが一般的です。

1-2. 費用――予納金として先払い

裁判所の鑑定の費用は、鑑定を申し立てた当事者が予納金として裁判所に納めるのが原則です。金額は事案と物件によりますが、数十万円から、複雑な物件では100万円程度になることもあります。裁判所が鑑定人候補に見積りを照会して決めるため、事前に正確な金額は分かりません。

最終的な負担は、訴訟費用の分担として判決で定められたり、和解や審判の内容の中で調整されたりします。「申し立てた側が最後まで全額負担する」と決まっているわけではありませんが、少なくとも先払いの資金負担が生じる点は押さえておく必要があります。具体的な事案での費用負担の見通しは、弁護士にご確認ください。

第2章:私的鑑定とは――当事者が依頼する鑑定評価書

2-1. 仕組み――自分で鑑定士に依頼し、書証として提出する

私的鑑定とは、当事者の一方が不動産鑑定士に依頼して鑑定評価書を作成してもらい、書証として裁判所に提出するものです。「私的」と付きますが、作成するのは国家資格者である不動産鑑定士であり、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に従って作成される点は、裁判所の鑑定と変わりません。

裁判所の鑑定と異なるのは、依頼者が一方当事者であるという立場の違いです。このため証拠としての位置づけは「当事者提出の専門資料」となりますが、価格の根拠が取引事例や収益資料とともに明示されるため、単なる査定書や主張書面とは説得力がまったく異なります。

2-2. 費用と納期――裁判所の鑑定より小回りが利く

私的鑑定の費用は依頼する鑑定事務所によりますが、当事務所の場合、鑑定評価書は30万円〜(マンション1室・借地権・収益物件などは40万円〜)、調停・訴訟など争訟案件は60万円を起点にお見積りします(税別)。納期も依頼者と直接調整できるため、期日から逆算した準備がしやすいという実務上の利点があります。

2-3. 費用の準備が難しいとき――法テラスの民事法律扶助

「鑑定の必要性は分かるが、弁護士費用と合わせると負担が重い」という場合に知っておきたいのが、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助(経済的に余裕のない方のために、国が設立した機関が弁護士費用等の立替えを行う制度)です。

収入・資産が一定基準以下であることなどの要件を満たすと、同一の問題について3回までの無料法律相談に加え、弁護士に依頼する際の着手金や実費の立替えを受けられる可能性があります。立て替えられた費用は原則として月々5,000円〜10,000円程度の分割で償還(返済)する仕組みで、生活保護受給中の方には猶予・免除の制度もあります。

そして、あまり知られていませんが、弁護士に依頼して訴訟を進める事件では、私的鑑定の鑑定料が事件処理に必要な実費として法テラスの援助対象になることがあります。実際に当事務所が担当した訴訟案件でも、代理人弁護士の先生が法テラスに申請し、鑑定料の全額について援助決定を受けられたケースがあります。このときの流れは次のとおりでした。

  • 代理人弁護士が法テラスに鑑定料の援助を申請(審査は週2回行われ、決定までの期間は2〜4週間程度)
  • 援助決定後、法テラスから弁護士事務所の預り口座に送金され、そこから鑑定事務所への支払いが行われる

訴訟には期日があるため、法テラスの決定・入金を待ってから鑑定に着手すると間に合わないことがあります。このケースでは、当事務所は受任手続の完了をもって入金前に業務に着手し、期日から逆算した納期を守りました。法テラスの利用をお考えの場合は、こうした着手時期の調整に応じられるかどうかも、鑑定事務所選びの確認ポイントになります。

なお、援助の可否や範囲は法テラスの審査(収入・資産要件、解決の見込み等)によって決まり、鑑定料が常に対象になるとは限りません。具体的には、法テラスまたは代理人の弁護士にご確認ください。

第3章:実務での使い分け――多くの事案は私的鑑定から始まる

3-1. 私的鑑定を先行させる3つの理由

訴訟実務では、いきなり裁判所の鑑定を申し立てるのではなく、私的鑑定を先行させる進め方が広く取られています。理由は3つあります。

第一に、費用です。裁判所の鑑定は高額になりやすく、予納金の負担も軽くありません。第二に、時間です。鑑定の採否判断から鑑定人選任、鑑定実施までには相応の期間がかかります。第三に、和解の促進です。根拠の明示された時価が一方から示されると、価格の議論が「言い値のぶつけ合い」から「根拠の検証」に変わり、裁判所の鑑定を待たずに和解の基礎ができることが少なくありません。

3-2. 相手方の鑑定評価書への反論――セカンドオピニオン

相手方が私的鑑定を提出してきた場合に、その内容を不動産鑑定士が検証する意見書(セカンドオピニオン)を作成することもあります。採用された取引事例の妥当性、利回りや補正率の設定など、専門的な観点からの検証は、反論の組み立てに有効です。

3-3. 裁判所の鑑定が実施される場合の私的鑑定の意味

裁判所の鑑定が実施されることになった場合でも、先行して提出した私的鑑定が無駄になるわけではありません。鑑定人の鑑定結果と大きな乖離があれば、その内容を検討・求釈明する材料になります。訴訟戦略上の位置づけは弁護士の判断領域ですので、依頼のタイミングを含めて代理人とご相談ください。

まとめ

裁判所の鑑定と私的鑑定は、「誰が鑑定士を選ぶか」がもっとも大きな違いです。要点を振り返ります。

  • 裁判所の鑑定は、裁判所が選任した鑑定人が行う証拠調べで、中立性・証拠力は高い一方、費用は数十万円〜100万円程度かかり予納金の先払いが必要です
  • 私的鑑定は当事者が不動産鑑定士に依頼する鑑定評価書で、費用と納期の面で小回りが利き、書証として提出されます
  • どちらも不動産鑑定評価基準に基づいて作成される点は同じで、違いは選任の主体と証拠上の位置づけです
  • 実務では費用・時間・和解促進の観点から、私的鑑定を先行させる進め方が広く取られています
  • 相手方鑑定への反論として、鑑定評価書の内容を検証する意見書(セカンドオピニオン)という選択肢もあります
  • 収入等の要件を満たす場合、法テラスの民事法律扶助により、弁護士費用に加えて鑑定料が実費として援助対象になることがあります

訴訟・調停で不動産の評価が争点になっている当事者の方、鑑定評価書やセカンドオピニオンをご検討中の弁護士の先生は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。

なお、離婚訴訟・離婚調停における財産分与の不動産評価については、専門サイト「離婚・財産分与の不動産鑑定」で論点別に詳しく解説しています。

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