自社株が高いのは土地のせい?純資産価額方式における不動産の時価と鑑定評価の使いどころ

はじめに
「会社の株を後継者に贈与したいが、顧問税理士から『御社は土地の含み益が大きいので株価が高くなります』と言われた」
事業承継の入口で、こうした説明を受けたオーナー経営者は少なくないはずです。長年の本業は堅実でも、先代が取得した本社土地や工場用地が値上がりしている。すると、会社の「株価」が思いのほか高く算定され、贈与税・相続税の負担が承継の壁として立ちはだかります。
非上場株式の相続税評価において、会社が保有する不動産は帳簿価額ではなく、相続税法上の時価で評価し直されます。つまり、株価の中身を分解していくと、その相当部分が「不動産の評価」の問題に行き着くのです。ここを精緻に見るかどうかで、株価は大きく変わります。
そして、この不動産の評価には、通達の定めによる路線価ベースの評価だけでなく、場面によっては不動産鑑定評価が関わる余地があります。どの場面で、どのような形で関わるのか。逆に、どの場面では通達評価によるべきなのか。
この記事では、純資産価額方式の仕組みを不動産の観点から整理し、税理士の先生方と企業オーナーの双方に向けて、鑑定評価との接点を解説します。なお、株式評価と税務申告の最終判断は税理士の業務領域ですので、この記事は「不動産の評価」という私たちの専門から見た論点整理としてお読みください。
第1章:純資産価額方式と不動産の関係
1-1. 非上場株式の評価体系のなかの不動産
取引相場のない株式(非上場株式)の相続税評価は、財産評価基本通達178以下に定められています。会社の規模等に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、およびその併用方式が使い分けられます。
このうち不動産が直接効いてくるのが純資産価額方式です。財産評価基本通達185は、課税時期における各資産を「この通達に定めるところにより評価した価額」の合計額から負債を控除し、評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いて株式の価額を求めると定めています。
かみ砕いて言えば、会社を「いま解散して資産を分けたらいくらか」という視点で値付けする方式です。このとき、土地は帳簿価額(多くは数十年前の取得価額)ではなく、相続税評価額に洗い替えられます。先代が昭和期に取得した土地の帳簿価額が5,000万円でも、現在の相続税評価額が3億円なら、その差2億5,000万円が株価を押し上げるのです。
1-2. 「課税時期前3年以内取得」の特則
不動産にはもうひとつ重要なルールがあります。財産評価基本通達185の括弧書きは、課税時期前3年以内に取得した土地等・建物等については、路線価等による評価額ではなく「課税時期における通常の取引価額」で評価すると定めています。
路線価は公示価格の8割水準に設定されていますから、取得後3年間は、この2割の評価差が使えないことになります。相続直前の不動産取得による株価圧縮を防ぐ趣旨です。
ここで実務上の論点が生じます。「通常の取引価額」とは何か。通達は、帳簿価額が課税時期の通常の取引価額に相当すると認められる場合には帳簿価額によることができるとしていますが、取得から時間が経ち市況が動いた場合や、取得価額に特殊事情が含まれる場合には、時価そのものの立証が必要になる場面が出てきます。ここは鑑定評価が接点を持ち得る典型的な場面のひとつです。
1-3. 数値で見る ― 不動産の評価が株価をどう動かすか
単純化した例で確認しましょう。製造業のA社(株式数1万株)を想定します。
| 項目 | 帳簿価額 | 相続税評価額 |
|---|---|---|
| 土地(本社・工場) | 5,000万円 | 3億円 |
| 建物 | 1億円 | 7,000万円 |
| その他資産 | 2億円 | 2億円 |
| 負債 | ▲1億5,000万円 | ▲1億5,000万円 |
| 純資産 | 2億円 | 4億2,000万円 |
評価差額2億2,000万円に対する法人税額等相当額(38パーセント)は8,360万円。これを控除した純資産価額は3億3,640万円、1株あたり約3万3,600円です。帳簿ベースの純資産(1株2万円)と比べ、7割近く高い数字になります。
なお、この控除割合は令和8年3月25日付の法令解釈通達(課評2-28ほか)により、37パーセントから38パーセントに引き上げられました(財産評価基本通達186-2)。防衛特別法人税の創設に伴う法人税率等の合計割合の見直しによるもので、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した取引相場のない株式等に適用されます。それ以前に取得したものは従来どおり37パーセントです。
この例が示すのは、株価の変動要因の大半が土地の評価に集中しているということです。だからこそ、その土地の評価が適切か——広すぎる評価になっていないか、減価要因が拾われているか——の検証が、株式評価全体の精度を左右します。
第2章:通達評価で拾いきれない減価要因
2-1. 路線価評価の構造的な限界
相続税の土地評価は、路線価に画地補正(奥行価格補正、不整形地補正等)を施して行われます。この方式は大量の課税事務を公平に処理するために設計されており、標準的な宅地では合理的に機能します。
しかし、事業用の不動産には、定型的な補正では拾いきれない個別性がしばしばあります。
- 工場地帯の広大な画地で、分割利用も一体売却も難しいもの
- 土壌汚染の可能性がある工場敷地
- 市街化調整区域内の建替えに制約のある事業用地
- 高低差、無道路、不整形が複合した土地
- 建築基準法上の接道要件を満たさない敷地
これらの土地では、通達評価額が市場で実際に売却できる価額を上回る、いわゆる逆転現象が生じることがあります。
2-2. 鑑定評価が接点を持つ3つの場面
非上場株式の評価の文脈で、不動産鑑定評価が実務上関わり得る場面を整理します。
第一に、通達評価によることが著しく不適当な土地の時価立証。 財産評価基本通達6は、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する、と定めています。納税者の側から見ると、通達評価額が時価を上回ることを主張する場面では、その立証手段として鑑定評価書が用いられてきました。採否は事案によりますが、減価要因を具体的に立証できるかが分かれ目になります。
第二に、3年以内取得不動産の「通常の取引価額」の算定。 前章で触れたとおり、この場面では路線価が使えず、時価そのものが問われます。
第三に、株価算定の前提となる不動産時価の把握。 これは税務申告の場面に限りません。M&Aや親族間の株式売買では、税務上の株価とは別に、当事者間の合意価格の基礎として時価純資産を把握するニーズがあります。ここでの不動産評価は、まさに鑑定評価の本来領域です。
2-3. 鑑定評価を使うべきでない場面もある
公平のために申し上げると、何でも鑑定評価に持ち込めばよいわけではありません。
標準的な画地で、通達評価が市場価値を適切に、あるいは保守的に捉えている土地について、鑑定評価で評価額を下げようとしても、合理的な減価根拠がなければ税務上通用しません。むしろ、根拠の弱い鑑定評価書の提出は、評価全体の信頼性を損ないます。
私たちが税理士の先生からご相談を受けた際も、まず「この土地に通達評価で拾いきれない減価要因が本当にあるか」を検討し、見込みがなければその旨を率直にお伝えすることにしています。鑑定評価は、減価の実態があるときに、それを立証する手段だからです。
第3章:事業承継の実務でどう活かすか
3-1. 株価対策の前に「土地の棚卸し」を
事業承継対策というと、持株会社の活用や生命保険といったスキームが語られがちです。しかしその前に行うべきは、会社が保有する不動産の棚卸しだと考えます。
確認すべきは次の3点です。
第一に、各不動産の通達評価額と市場価値の関係。 通達評価額が時価を下回っている土地(都心の収益物件等)と、上回っている可能性のある土地(郊外の広大な工場用地等)が混在していないか。
第二に、事業に使っていない不動産の有無。 遊休地や賃貸物件は、承継の前に売却・組換えを検討する余地があります。売却すれば株価の構成要素が「評価の難しい土地」から「現金」に変わり、評価の不確実性が減ります。
第三に、小規模宅地等の特例など、通達上の減額制度の適用可能性。 これは税理士の先生の領域ですが、その適用判断の前提となる利用状況の整理は、不動産側の作業です。
3-2. タイミングの問題 ― いつ評価するか
株価は課税時期(贈与時・相続時)の資産評価で決まります。つまり、地価が動けば株価も動くということです。
地価上昇局面では、贈与を先送りするほど株価が上がっていきます。逆に、保有不動産のエリアで地価が調整局面にあるなら、急ぐ理由は乏しくなります。この判断には、保有不動産の所在エリアの地価動向を、公示価格・路線価の推移だけでなく、実際の取引市場の肌感覚も含めて把握することが役立ちます。
なお、贈与の実行時期や手法(暦年贈与、相続時精算課税、事業承継税制の特例措置等)の選択は税務判断そのものですので、必ず税理士にご確認ください。
3-3. 税理士との連携のかたち
この領域の実務は、税理士と不動産鑑定士の分業で成り立ちます。
株式評価の体系、通達の適用、申告実務は税理士の専門領域です。一方、個別性の強い土地の時価立証、減価要因の調査・数値化、市場動向の分析は私たちの領域です。
当事務所では、税理士の先生からの「この土地、通達評価で本当にいいのか見てほしい」という段階のご相談にも対応しております。鑑定評価書の作成に進む前に、減価の見込みの有無を検討する一次的な調査から始められますので、顧問先に不動産の重い会社を抱える税理士の先生は、お気軽にお声がけください。
まとめ
非上場株式の評価は、その中身を分解すれば不動産の評価問題に行き着きます。純資産価額方式における土地の評価をどれだけ精緻に行えるかが、事業承継の税負担と、株式売買の価格の妥当性を左右します。
要点を振り返ります。
- 純資産価額方式(財産評価基本通達185)では、会社保有の不動産は帳簿価額ではなく相続税評価額に洗い替えられるため、土地の含み益がそのまま株価を押し上げる。
- 評価差額に対する法人税額等相当額の控除割合は、令和8年4月1日以後に取得した株式等について37パーセントから38パーセントに引き上げられた(財産評価基本通達186-2)。
- 課税時期前3年以内に取得した土地・建物は路線価ではなく「通常の取引価額」で評価する特則があり、時価そのものの立証が問われる場面が生じる。
- 広大な工場用地や土壌汚染の可能性のある土地などでは、通達評価額が実際の売却可能額を上回る逆転現象が起こり得、その立証手段として鑑定評価が機能する。
- 一方、標準的な画地で合理的な減価根拠がない場合に鑑定評価で評価額を下げることはできず、使うべき場面の見極めが重要である。
- 事業承継対策の第一歩はスキームではなく保有不動産の棚卸しであり、通達評価と市場価値の乖離、遊休不動産の有無、地価動向の把握が判断の土台になる。
自社株の承継を控えた企業オーナーの方、顧問先の株価算定で不動産の評価に悩まれている税理士の先生へ。個別性の強い土地の時価把握から、通達評価との乖離の検証まで、不動産の側から事業承継を支えます。ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。



