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時価の2分の1以上なら大丈夫?社長と会社の不動産売買で否認されない時価の決め方

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
青空の下、歩道から見上げた中小企業の自社ビルと街路樹

はじめに

「社長個人が持っている土地を、会社に買い取らせたい」――中小企業のオーナー経営者から、よくいただくご相談です。

事業承継の準備、個人の資金需要、相続対策、あるいは単純に管理の一本化。動機はさまざまですが、いずれも合理的な経営判断です。問題は、その売買価格をいくらに設定するかです。

親子や親族の間の売買であれば、多少安くしても「身内のことだから」で済ませたくなります。しかし相手が法人となると、話はまったく変わります。法人と個人は税法上まったく別の人格であり、両者の間で時価から乖離した価格で取引を行えば、売主側と買主側の双方で課税が生じるという事態が起こり得ます。

しかも厄介なことに、ここでいう「時価」は相続税の路線価とは別物です。固定資産税評価額でもありません。この記事では、法人・個人間の不動産売買における時価の考え方と、否認されないための備え方を整理します。なお、具体的な税額計算や申告上の取扱いについては、必ず税理士にご確認ください。

第1章:なぜ法人・個人間の売買は危険なのか

1-1. 個人から法人へ安く売ると――みなし譲渡課税

所得税法第59条第1項は、個人が法人に対して資産を著しく低い価額の対価で譲渡した場合、その時の時価により譲渡があったものとみなすと定めています。「著しく低い価額の対価」とは、所得税法施行令第169条により、時価の2分の1に満たない金額とされています。

つまり、時価1億円の土地を法人に4,000万円で売却した場合、実際に受け取ったのは4,000万円であっても、1億円で売ったものとして譲渡所得が計算されるわけです。手元に入っていない6,000万円分の利益に対して課税されることになります。

1-2. 買った法人側にも課税が生じる

さらに見落とされやすいのが、買主である法人側の扱いです。

法人税法第22条第2項は、無償または低い対価による資産の譲受けから生ずる収益も益金の額に算入すると定めています。時価1億円の土地を4,000万円で取得すれば、差額6,000万円が受贈益として法人の課税所得を構成します。

重要なのは、この受贈益課税に「2分の1」という基準がないという点です。時価の2分の1以上の価格であれば個人側のみなし譲渡課税は回避できますが、法人側の受贈益課税は残ります。時価1億円の土地を6,000万円で売れば、個人側は実際の売却額で課税される一方、法人側は4,000万円の受贈益を認識することになります。

1-3. 法人から個人へ売る場合はもっと重い

逆方向、つまり法人が保有する不動産を社長個人に売る場合は、さらに扱いが厳しくなります。

時価1億円の物件を社長に4,000万円で譲渡した場合、法人側は差額6,000万円について、役員に対する経済的利益の供与として役員給与の認定を受けるおそれがあります。法人税法第34条により、定期同額給与等に該当しない役員給与は損金の額に算入されません。つまり法人は6,000万円の損失を出しながら、その損金算入を否認されるという結果になり得ます。

そして個人側は、同じ6,000万円について給与所得として課税されます。源泉徴収漏れの問題も生じます。

高く買う場合も同様です。法人が社長から時価1億円の不動産を1億6,000万円で買い取れば、差額6,000万円が役員給与と認定されるおそれがあります。

安く売っても、高く買っても、時価から乖離すれば課税される――これが法人・個人間取引の基本構造です。

第2章:ここでいう「時価」とは何か

2-1. 路線価でも固定資産税評価額でもない

では、基準となる時価とは何でしょうか。

相続や贈与の場面では、財産評価基本通達に基づく路線価方式・倍率方式による評価額が用いられます。しかし、これはあくまで相続税・贈与税の課税価格を計算するための評価です。

法人税法・所得税法における時価は、その時点で通常取引されると認められる価額を意味します。路線価は地価公示価格水準のおおむね80%に設定されているため、路線価をそのまま売買価格とすれば、それだけで時価より2割低い取引となってしまいます。

相続税評価額と時価の関係については、過去記事「相続税評価と鑑定評価、何が違う?税理士が知るべき評価減の実務と総則6項リスク」で詳しく整理しています。

固定資産税評価額に至っては、地価公示価格水準のおおむね70%とされており、時価としてはさらに乖離します。

2-2. 数値で見る「価格の決め方」の差

時価1億円の土地について、基準ごとの金額を並べてみましょう。

基準金額の目安法人・個人間売買での適否
時価(正常価格)1億円適正
路線価ベース8,000万円差額2,000万円が受贈益等のリスク
固定資産税評価額ベース7,000万円差額3,000万円が受贈益等のリスク
帳簿価額3,000万円時価の1/2未満。みなし譲渡課税の対象

とりわけ危険なのが、帳簿価額を売買価格にしてしまうケースです。取得から年数が経過した不動産は、簿価と時価が大きく乖離していることが珍しくありません。この構造については過去記事「帳簿価額1億円でも時価は10億円?不動産の含み損益を把握しないと経営が傾く理由」でも取り上げました。

2-3. 「なんとなくこのくらい」が通用しない理由

税務調査で問われるのは、価格が正しかったかどうかだけではありません。その価格をどのような根拠で決めたのかが問われます。

社内で作成した試算メモや、知り合いの不動産会社に口頭で聞いた水準では、根拠として弱いと言わざるを得ません。仲介会社の査定書も、売却を前提とした営業活動の一環として作成されるものであり、第三者性という点では限界があります。

法人と個人が対立関係にない――むしろ実質的に同一人物が両者をコントロールしている――取引だからこそ、外部の独立した専門家による評価が求められるのです。

第3章:否認されないための実務

3-1. 不動産鑑定評価書という備え

不動産鑑定評価書は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく国家資格者が、不動産鑑定評価基準に則って作成する文書です。求めた価格の種類、価格時点、採用した手法、試算価格とその調整過程が、すべて記載されます。

法人・個人間売買における時価の疎明資料として、これに勝る文書は多くありません。理由は3点です。

  1. 第三者性――売主にも買主にも利害関係のない鑑定士が作成する
  2. 検証可能性――採用した事例、補正率、利回りの根拠がすべて記載され、後から検証できる
  3. 統一された基準――全国共通の不動産鑑定評価基準に則っており、判断の恣意性が排除されている

なお、鑑定評価書の読み方については過去記事「プロの思考がわかる!『不動産鑑定評価書』の読み解き方ガイド」をご参照ください。

3-2. 取引の「前」に取得する

実務上、最も重要なポイントがこれです。

鑑定評価は取引の前に取得してください。

税務調査で指摘を受けてから慌てて鑑定評価を取得しても、それは事後的な正当化と見られる可能性があります。取引時点で第三者の評価を取得し、その価格に基づいて売買契約を締結していれば、価格決定の合理性を時系列で示すことができます。

また、価格時点の設定にも注意が必要です。鑑定評価書の価格時点と、実際の売買契約日・引渡日が大きく離れていると、その間の市場変動を説明する必要が生じます。取引の直前に評価を取得するのが安全です。

3-3. 親族間売買との違いを押さえる

なお、個人間の売買、たとえば親から子への売買では、法人・個人間とは異なるルールが適用されます。相続税法第7条により、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、その差額が贈与とみなされます。「著しく低い価額」に2分の1のような明確な数値基準はなく、個別の判断となります。

親族間の売買については、過去記事「親族間の不動産売買、税務署に否認されないための『適正価格』とは? ― 不動産鑑定士が教える安全な価格設定の実務」で詳しく解説しています。

事業承継の一環として不動産の移転を検討されている場合は、自社株評価への影響も同時に検討が必要です。この点は過去記事「自社株が高いのは土地のせい?純資産価額方式における不動産の時価と鑑定評価の使いどころ」と「事業承継で自社ビル・工場の評価を間違えると税金が数千万円変わる理由」をあわせてご覧ください。

当事務所では、法人・個人間の不動産取引に伴う時価の算定について、税理士の先生と連携しながら対応しております。

まとめ

法人と個人の間の不動産売買は、時価から乖離した瞬間に双方で課税が生じる構造になっています。価格の根拠を客観的に残しておくことが、最も確実な備えです。

要点を振り返ります。

  • 所得税法第59条第1項により、個人が法人へ時価の2分の1未満で譲渡すると、時価で譲渡があったものとみなされて課税される
  • 法人税法第22条第2項により、法人側には受贈益課税が生じ、こちらには2分の1のような基準がないため、2分の1以上の価格でも課税リスクが残る
  • 法人から役員個人への低額譲渡や高額譲受は、役員給与として認定されるおそれがあり、法人税法第34条により損金算入も否認され得る
  • ここでいう時価は通常取引されると認められる価額であり、路線価(地価公示水準の約80%)や固定資産税評価額(同約70%)、まして帳簿価額とは異なる
  • 鑑定評価書は取引の前に取得することで、価格決定の合理性を時系列で示すことができる

自社と個人との間で不動産の移転を検討されている中小企業のオーナー経営者様、また顧問先からこうしたご相談を受けておられる税理士の先生方へ。当事務所では法人取引に伴う時価の算定に精通しており、税理士の先生との連携を前提とした進め方に対応しております。

CRE戦略・事業承継における不動産評価は、ぜひ当事務所にご相談ください。初回の無料相談も承っております。

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