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土地で増資はできる?現物出資の検査役調査を省略する条件と落とし穴を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
夕暮れの日本の街角。手前の更地の奥に、夕日を映して輝くガラス張りのオフィスビル

はじめに

「手元に現金はないが、土地なら持っている。これを会社に入れて増資できないか」――中小企業のオーナー経営者から、こうしたご相談をいただくことがあります。

金銭以外の財産を出資する現物出資は、会社法が正面から認めている手続です。不動産を出資すれば、会社は資産を得て資本金が増え、財務内容が改善します。金融機関からの評価も変わってきます。

ところが、この手続には他の増資にはない関門があります。裁判所が選任する検査役による調査です。数か月の時間と相応の報酬を要するため、実務では敬遠されがちです。

そして会社法は、この検査役調査を省略できる場合を列挙しています。そのうちの一つが専門家による価額の証明であり、現物出資財産が不動産である場合には、不動産鑑定士の鑑定評価が明文で要求されています。会社法が名指しで鑑定士の関与を求めている、数少ない場面の一つです。

この記事では、不動産の現物出資をめぐる会社法上の手続と、価額を誤ったときに生じる責任、そして税務上の留意点を整理します。なお、登記手続については司法書士に、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

第1章:現物出資の会社法上の手続

1-1. 設立時と増資時で条文が分かれる

現物出資は、会社の設立時と、設立後の募集株式の発行時(増資)の双方で行うことができます。

設立時は、会社法第28条第1号により、現物出資に関する事項が変態設立事項(会社の設立時に、発起人による濫用のおそれがあるため定款への記載と検査を要するとされた特別な事項)として定款の絶対的記載事項とされます。金銭以外の財産を出資する者の氏名または名称、当該財産およびその価額、その者に割り当てる設立時発行株式の数を定款に記載しなければなりません。

そして会社法第33条第1項により、定款にこれらの記載があるときは、公証人の認証の後遅滞なく、裁判所に対して検査役の選任を申し立てなければならないとされています。

増資時は、会社法第207条が同様の規律を定めています。募集株式と引換えにする金銭以外の財産の給付について、原則として検査役の選任申立てが必要です。

1-2. なぜ検査役の調査が必要なのか

理由は、過大評価の危険にあります。

現金1億円を出資すれば、それは誰が見ても1億円です。しかし土地であればどうでしょうか。実際には5,000万円の価値しかない土地を「1億円」と称して出資し、1億円分の株式を取得することができてしまえば、既存の株主は持分を不当に希釈され、会社の債権者は当てにしていた資本の裏づけを失います。

そこで会社法は、第三者である検査役に価額の相当性を調査させることとしました。裁判所が選任した検査役が調査を行い、裁判所に報告する。裁判所が価額を不当と認めたときは、これを変更する決定をします。

制度としては筋が通っていますが、実務上は申立てから調査完了まで数か月を要し、検査役の報酬も会社の負担となります。増資を急ぐ場面では、この期間が致命的になります。

1-3. 検査役調査を省略できる場合

会社法第207条第9項は、検査役の調査を要しない場合を列挙しています。増資時における主なものは次のとおりです。

号省略できる場合
1号引受人に割り当てる株式の総数が、発行済株式総数の10分の1を超えない場合
2号現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合
3号市場価格のある有価証券について、定められた価額が市場価格を超えない場合
4号価額が相当であることについて、弁護士・弁護士法人・公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人の証明を受けた場合(現物出資財産が不動産であるときは、当該証明および不動産鑑定士の鑑定評価)
5号弁済期が到来した会社に対する金銭債権について、定められた価額が当該債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合

設立時についても、会社法第33条第10項が同趣旨の規定を置いており、第3号において不動産の場合の鑑定評価が要求されています。

不動産の現物出資で実務上使われるのは、主に4号(設立時は3号)の専門家証明ルートです。5号はデット・エクイティ・スワップ(DES/債務の株式化)で用いられる規定で、不動産とは場面が異なります。

第2章:価額を誤るとどうなるか

2-1. 財産価額填補責任

現物出資財産の価額が、定款や募集事項で定めた価額に著しく不足する場合、責任を負うのは会社ではなく個人です。

設立時については会社法第52条が、発起人および設立時取締役に対し、会社に対する不足額の支払義務を課しています。募集株式の発行時については会社法第213条が、取締役等に同様の責任を定めています。

具体的に考えてみましょう。時価8,000万円の土地を1億円と評価して現物出資したとします。この場合、不足額2,000万円について、関係者が連帯して会社に支払う義務を負うおそれがあります。

しかも、これらの責任は原則として総株主の同意がなければ免除されません。「身内だけの会社だから」という理屈は通用しないのです。

2-2. 「相当な価額」とは時価である

では、いくらと評価すべきなのでしょうか。

会社法が求めているのは、定められた価額が相当であることです。ここでいう相当性の基準は、時価――すなわちその時点で通常取引されると認められる価額です。

ここでも、相続税の路線価や固定資産税評価額をそのまま使うことはできません。路線価は地価公示価格水準のおおむね80%、固定資産税評価額は同じくおおむね70%とされており、これらを用いれば時価より低い価額での出資となります。過小評価は填補責任の問題こそ生じませんが、出資者が本来受け取れるはずの株式を取得できないという不利益を招きます。

帳簿価額を使うのはさらに危険です。取得から年数が経過した不動産では、簿価と時価が大きく乖離しています。この点は過去記事「帳簿価額1億円でも時価は10億円?不動産の含み損益を把握しないと経営が傾く理由」でも取り上げました。

2-3. 建物や賃貸中の不動産では論点が増える

出資する不動産が更地であれば話は比較的単純ですが、実務ではそうでないことが大半です。

  • 建物付きの土地――建物の経済的残存耐用年数、現況の利用状況、最有効使用(その不動産の効用が最高度に発揮される合理的かつ合法的な使用方法)との適合性を検討する必要があります
  • 賃貸中の不動産――貸家及びその敷地(借家人が使用している建物とその土地)として、収益価格(その不動産が将来生み出す純収益を基に求めた価格)を標準に評価することになります。賃料水準が市場相場と乖離している場合、その影響を織り込まなければなりません
  • 借地権・底地――権利関係の評価が必要になり、更地価格から単純に割合を乗じるだけでは適正な価額になりません
  • 共有持分――持分のみの出資では市場性の減価を考慮する必要があります

こうした個別性の高い不動産ほど、専門家による評価の必要性が高まります。

第3章:税務と登記の留意点

3-1. 現物出資は「譲渡」である

会社法上は出資ですが、税務上は資産の譲渡として扱われます。

出資者が個人であれば、出資した不動産について譲渡所得課税が生じます。取得価額と出資時の価額との差額が譲渡益となり、含み益のある不動産を出資すれば、現金を受け取っていないにもかかわらず納税義務が発生します。納税資金の手当てを事前に検討しておかないと、増資はできたが税金が払えないという事態になりかねません。

出資者が法人である場合は、法人税法上の適格現物出資に該当するかどうかで扱いが分かれます。適格要件を満たさなければ、時価による譲渡として譲渡損益を認識することになります。

いずれも判断は税務の領域ですので、必ず税理士にご確認ください。

3-2. 流通税も発生する

見落とされやすいのが、不動産取得税と登録免許税です。

現物出資による不動産の移転も、不動産の取得および所有権移転登記にあたるため、これらの流通税の対象となります。増資の規模が大きければ、税負担も相応の金額になります。事前に試算しておくべきコストです。

3-3. 資本金の額と、その先の影響

現物出資により資本金が増加すると、財務諸表上の見え方は改善します。自己資本比率が上がり、金融機関の評価も変わり得ます。

一方で、資本金の額は税制上の各種判定基準にも用いられます。資本金1億円を超えると中小企業向けの税制上の特例が使えなくなるなど、増資の副作用も生じます。また、外形標準課税の適用範囲についても近年見直しが行われており、資本金の額をどこに置くかは慎重な検討を要します。

資本金に組み入れず資本準備金とする選択肢もあります。この配分は会社法上認められた設計であり、税務・登記の両面から検討する価値があります。

保有不動産を経営資源としてどう配置するかという視点については、過去記事「500兆円超の眠れる資産 ― 企業不動産を経営の武器に変える『CRE戦略』とは」もあわせてご覧ください。事業承継の一環として不動産の移転を検討されている場合は、「事業承継で自社ビル・工場の評価を間違えると税金が数千万円変わる理由」もご参照ください。

当事務所では、現物出資に用いる不動産の鑑定評価について、弁護士・税理士の先生による証明手続との連携を前提に対応しております。

まとめ

不動産の現物出資は、会社法が不動産鑑定士の関与を明文で求めている数少ない場面です。手続を正しく踏めば、検査役調査を経ずに増資を進めることができます。

要点を振り返ります。

  • 現物出資は原則として裁判所が選任する検査役の調査を要し、数か月の期間と報酬の負担が生じる
  • 会社法第207条第9項第4号(設立時は第33条第10項第3号)により、弁護士・公認会計士・税理士等の証明を受ければ検査役調査を省略できるが、不動産の場合は当該証明に加えて不動産鑑定士の鑑定評価が必要とされている
  • 価額が著しく不足する場合、会社法第52条・第213条により発起人・取締役等が不足額の支払義務を負い、この責任は原則として総株主の同意がなければ免除されない
  • 相当な価額とは時価であり、路線価(地価公示水準の約80%)、固定資産税評価額(同約70%)、帳簿価額をそのまま用いることはできない
  • 会社法上は出資でも税務上は資産の譲渡として扱われ、譲渡所得課税に加えて不動産取得税・登録免許税も発生するため、納税資金の手当てが必要になる

不動産を活用した増資をご検討中の中小企業オーナー様、また現物出資の案件で価額の相当性の証明を担われる弁護士・税理士・司法書士の先生方へ。証明手続に必要な鑑定評価について、スケジュールを含めご相談いただけます。

CRE戦略・組織再編における不動産評価は、ぜひ当事務所にお任せください。初回の無料相談も承っております。

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