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月額賃料500万円のオフィスが5億円の資産に?2027年適用の新リース会計基準と不動産評価を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
曇り空の下、金網フェンス越しに見える物流倉庫のトラックバース。荷降ろし中の白いトラックと積み重ねられたパレット

はじめに

「うちは不動産をほとんど持っていないから、不動産の会計基準は関係ない」――上場企業の経理財務のご担当者から、そう言われることがあります。

しかし、2027年4月から適用される新しいリース会計基準は、その前提を根本から覆します。自社で不動産を保有していない企業ほど、影響が大きいからです。本社オフィス、店舗、物流倉庫、社宅――賃借している不動産のほぼすべてが、貸借対照表に資産として計上されることになります。

企業会計基準委員会(ASBJ)は2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を公表しました。適用は2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から、早期適用は2025年4月1日以後開始する会計年度から認められています。適用初年度まで残された時間は多くありません。

この記事では、新基準が不動産にもたらす変化を整理したうえで、私たち不動産鑑定士がどの場面で関わることになるのかを解説します。なお、具体的な会計処理の判断や税務上の取扱いについては、公認会計士・税理士にご確認ください。

第1章:何がどう変わるのか

1-1. 借手のリースは原則すべてオンバランス

これまでの日本基準では、リース取引をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区分し、後者については賃貸借処理――すなわち支払賃料を費用計上するだけで、資産も負債も計上しない扱いが認められてきました。不動産の賃借契約は、その大半がこのオペレーティング・リースに該当します。

新基準は、借手についてこの区分を廃止しました。借手はすべてのリースについて、原資産を使用する権利を表す使用権資産と、リース料の支払義務を表すリース負債を計上します。国際的な会計基準(IFRS第16号)との整合を図った改正です。

なお、貸手側の会計処理は現行の取扱いを概ね踏襲しており、変更の中心はあくまで借手側にあります。また、リース期間が12か月以内の短期リースと、少額のリースについては簡便的な取扱いが認められています。

1-2. 「リース」の範囲が広がる

もう一つの重要な変化は、リースの定義です。新基準におけるリースは、契約の名称ではなく実質で判定されます。識別された資産の使用を支配する権利が一定期間にわたり対価と交換に移転されているかが判断基準となります。

つまり、契約書のタイトルが「賃貸借契約書」であろうと「使用貸借」であろうと「業務委託契約書」であろうと、実質的に特定の不動産を排他的に使う権利が移転していれば、リースとして扱われる可能性があります。

不動産に即して言えば、次のような契約が広く対象になり得ます。

  • 本社・支店のオフィス賃貸借
  • 店舗・営業所の賃貸借
  • 物流倉庫の賃貸借
  • 社宅・寮の一括借上げ
  • 事業用定期借地権による土地の賃借
  • 駐車場・置場の賃借

1-3. 数字で見るインパクト

具体的に計算してみましょう。月額賃料500万円(年額6,000万円)のオフィスを、リース期間10年で賃借しているとします。割引率を年3%とすると、リース料の現在価値は次のようになります。

6,000万円 × 年金現価係数(3%・10年=8.5302)= 約5億1,181万円

この約5億1,000万円が、使用権資産としてもリース負債としても、一気に貸借対照表に現れます。総資産50億円の企業であれば、総資産は約10%増加し、その分ROA(総資産利益率)は低下します。有利子負債と同様に扱われる負債が増えれば、財務制限条項(コベナンツ)や格付への影響も検討課題になります。

損益計算書の見え方も変わります。従来は支払賃料6,000万円が一本の営業費用でしたが、新基準では使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息費用に分解されます。利息費用は残高が大きい初期ほど多いため、契約期間の前半に費用が偏るという特徴があります。

第2章:不動産の観点で押さえるべき3つの論点

2-1. リース期間の判断が金額を左右する

計上額は「リース期間 × リース料」の現在価値ですから、リース期間をどう見積もるかが最大の変数になります。

リース期間は、解約不能期間に加え、延長オプションを行使することが合理的に確実である期間と、解約オプションを行使しないことが合理的に確実である期間を含めて判定します。

ここが不動産では悩ましい論点になります。日本の建物賃貸借の多くは、契約期間2年の普通借家契約であり、法律上は借地借家法により借主が保護されて更新が継続します。契約書上の期間は2年でも、実態として10年、20年と使い続ける前提であれば、リース期間は2年ではありません。

判断にあたっては、次のような要素を総合的に考慮することになります。

  • 内装・設備に多額の投資を行っており、移転すると回収できない
  • 立地が事業運営上不可欠で、代替物件の確保が難しい
  • 移転費用や原状回復費用が過大である
  • 市場賃料と比べて割安な条件で借りており、更新の経済的合理性が高い

最後の点は、まさに賃料水準の評価そのものです。いま払っている賃料が市場水準に対して割安なのか割高なのかという判断は、継続賃料(現に契約が継続している当事者間で改定する賃料)と新規賃料(新たに賃貸借契約を締結する場合の賃料)の関係を扱う領域であり、当事務所の過去記事「賃料の値上げ交渉で『新規相場』は通用しない|継続賃料4手法を不動産鑑定士が解説」でも整理しています。

2-2. セール・アンド・リースバックの判定

新基準は、セール・アンド・リースバック取引の会計処理にも影響します。

自社ビルを売却して同時に賃借し直すこの取引は、資産を圧縮しつつ拠点を維持できる手法として活用されてきました。しかし新基準では、そもそもその取引が売却として認められるかが問われます。売却の要件を満たさない場合には、実質的に金融取引として扱われることになります。

そして売却と認められる場合であっても、売却価格や賃料が市場条件と乖離していれば、その差額を調整して会計処理を行う必要が生じます。ここで求められるのが、売却価格と賃料の双方について、市場水準との整合性を客観的に示す資料です。個人向けリースバックにおける価格の妥当性検証については、過去記事「リースバックの買取価格は本当に適正ですか?不動産鑑定士が教える損しない価格検証の方法」でも扱っていますが、法人取引ではさらに監査対応という要素が加わります。

2-3. 使用権資産は減損会計の対象になる

見落とされやすいのが、使用権資産が固定資産の減損会計の対象となる点です。

これまで、赤字が続く店舗について減損を検討する際、対象となるのは造作や什器備品といった自社保有資産に限られていました。新基準の下では、その店舗の使用権資産も資産グループに含まれるため、減損の検討対象となる帳簿価額そのものが大きくなります。

結果として、これまでは減損の兆候があっても金額的重要性が乏しかった店舗が、減損損失の計上対象になる可能性が出てきます。多店舗展開している小売業・飲食業では、影響が広範に及ぶことが想定されます。

減損会計と不動産鑑定評価の関係については、過去記事「『減損会計』と不動産鑑定評価の密接な関係とは?企業価値を守るための必須知識」で基本的な枠組みを解説しています。

第3章:不動産鑑定士が関わる場面

3-1. セール・アンド・リースバックの条件の適正性

前述のとおり、売却価格と賃料の適正性が会計処理を左右します。

グループ会社間や、関係の深い取引先との間で行われるセール・アンド・リースバックでは、価格と賃料の設定に恣意性が入り込む余地があります。監査法人から「市場条件との整合性を示す資料」を求められた際、社内資料や仲介会社の査定書だけでは説明力が不足することがあります。

不動産鑑定評価書であれば、売却価格については正常価格(市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格)、賃料については新規賃料として、それぞれ独立した第三者の判断を根拠とともに示すことができます。会計上の判断そのものは監査人と協議いただく必要がありますが、その協議の土台となる客観的な数値を提供することが、私たちの役割です。

3-2. 使用権資産を含む資産グループの減損

減損損失の測定においては、回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)を求める必要があります。

自社保有不動産を含む資産グループであれば、正味売却価額の算定には不動産の時価が不可欠です。帳簿価額と時価が大きく乖離しているケースは珍しくなく、この点は過去記事「帳簿価額1億円でも時価は10億円?不動産の含み損益を把握しないと経営が傾く理由」でも取り上げました。

新基準の下では、賃借物件についても資産グループの帳簿価額が膨らむため、減損判定の場面そのものが増えます。会計監査上の論点整理については、過去記事「公認会計士が見落としがちな『不動産評価リスク』― 減損・時価開示・企業結合の論点整理」もあわせてご覧ください。

3-3. 適用初年度に向けた不動産賃貸借契約の棚卸し

最も現実的で、かつ早期に着手すべきなのが、賃借している不動産契約の棚卸しです。

多拠点を展開している企業では、契約書が各拠点に分散し、本社で一元的に把握できていないことがあります。適用初年度には、すべての契約についてリース該当性を判定し、リース期間と割引率を決定し、計上額を算定しなければなりません。この作業量は決して小さくありません。

このプロセスにおいて、「その拠点の賃料は市場水準と比べてどうか」「更新の経済的合理性はあるか」「そもそもこの拠点は保有と賃借のどちらが有利か」という論点は、必然的に浮上します。制度対応を、CRE戦略(企業不動産戦略)を見直す機会として活用する企業も増えていくでしょう。CRE戦略の考え方については、過去記事「500兆円超の眠れる資産 ― 企業不動産を経営の武器に変える『CRE戦略』とは」をご参照ください。

当事務所では、企業会計に関連する不動産評価についても対応しており、監査法人への提出を前提とした評価書の作成にも配慮しております。

まとめ

新リース会計基準は、不動産を保有していない企業にこそ大きな影響を及ぼす制度変更です。賃借している不動産が貸借対照表に現れることで、財務指標も、減損の検討範囲も変わります。

要点を振り返ります。

  • 企業会計基準第34号は2024年9月13日に公表され、2027年4月1日以後開始する会計年度から適用される(2025年4月1日以後開始する会計年度から早期適用可)
  • 借手はファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止され、原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上する
  • 月額賃料500万円・リース期間10年・割引率3%の場合、約5億1,000万円が資産・負債の両建てで計上され、総資産の増加によりROAが低下する
  • リース期間の判定では延長オプションの行使が合理的に確実かが問われ、市場賃料と契約賃料の乖離が判断要素の一つとなる
  • セール・アンド・リースバックの条件の適正性、使用権資産を含む資産グループの減損測定という2つの場面で、第三者による不動産の評価が求められる

2027年4月の適用開始に向けて準備を進めておられる上場企業の経理財務ご担当者様、監査対応の論点を整理されている公認会計士の先生方へ。売却価格・賃料の適正性の疎明や、減損測定に必要な時価の算定について、対応可能です。

CRE戦略・会計目的における不動産評価は、ぜひ当事務所にご相談ください。初回の無料相談も承っております。

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