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相続税評価と鑑定評価、何が違う?税理士が知るべき評価減の実務と総則6項リスク

公開日:更新日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
モダンな会議室の窓から住宅街を望む風景。テーブルに税務書類と鑑定評価書が並び、相続税評価と鑑定評価の比較を示唆するイメージ

はじめに

相続税申告の実務において、不動産の評価は常に悩ましい論点です。財産評価基本通達に基づく路線価方式・倍率方式は、大量の申告を画一的に処理するための仕組みとして合理性を持っています。しかし、この画一性こそが、個別の不動産が抱える減価要因を十分に反映できないという構造的な限界を生んでいます。

「通達どおりに評価したのに、顧問先から”本当にこの評価額で適正なのか”と聞かれて困った」「路線価評価では明らかに高すぎると感じるが、根拠を持って減額する方法がわからない」――こうしたご経験をお持ちの税理士の先生方は少なくないのではないでしょうか。

一方で、不動産鑑定評価という選択肢があることは知っていても、どのような場面で使えるのか、費用対効果はどうなのか、依頼の段取りはどう進めればよいのか、具体的なイメージが湧かないという声もよく伺います。

本記事では、不動産鑑定士の立場から、相続税評価と鑑定評価の根本的な違いを整理したうえで、税理士の先生方が鑑定評価を活用すべき具体的な場面と、鑑定士との連携の実務について解説します。相続・譲渡・法人税の各場面で、顧問先への提案の幅を広げるヒントにしていただければ幸いです。

第1章:相続税評価と鑑定評価の根本的な違い

「時価」の定義がそもそも異なる

税理士の先生方にとって、相続税法第22条の「時価」は日常的に扱う概念でしょう。しかし、この「時価」と不動産鑑定評価基準が定める「正常価格」は、いずれも不動産の客観的な市場価値を指す概念でありながら、その意味するところが微妙に異なります。

相続税法第22条の「時価」は、「当該財産の取得の時における時価」、すなわち課税時期における客観的な交換価値を指します。そして実務上、この時価は財産評価基本通達に定める評価方法によって算定されます。路線価は公示価格の約80%を目安に設定されており、この20%のバッファは、時価の変動リスクや個別性の吸収を目的としたものです。

一方、不動産鑑定評価基準における「正常価格」とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢のもとで合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格です。簡単に言えば、合理的な売り手と買い手が十分な情報をもとに取引した場合に成立するであろう価格、つまり市場価格そのものを意味します。

この違いが実務上何を意味するかといえば、路線価評価は「安全側のバッファを含んだ画一的な評価」であり、鑑定評価は「個別の不動産の市場価値を直接的に求める評価」であるということです。

評価手法の決定的な違い――画一性 vs 個別性

財産評価基本通達に基づく土地の評価は、基本的に路線価(または固定資産税評価額に倍率を乗じた額)をベースとし、画地調整率(奥行価格補正、不整形地補正、間口狭小補正など)を機械的に乗じて計算します。この手法は大量処理に適しており、納税者間の公平性を確保するうえで優れた仕組みです。

しかし、この画一性には限界があります。通達に定められた補正率は、あくまで標準的なケースを想定して設定されたものであり、個別の不動産が持つ特殊な減価要因――たとえば崖地や急傾斜地の造成費、土壌汚染、埋蔵文化財の存在、近隣の嫌悪施設、著しい不整形、法令上の建築制限など――を十分に反映しきれない場合があります。

不動産鑑定評価では、原価法・取引事例比較法・収益還元法の三手法を併用し、対象不動産の個別性を徹底的に分析します。周辺の取引事例との比較、土地の最有効使用の判定、収益性の分析といったプロセスを経て、その不動産固有の価値を導き出します。鑑定評価書には、なぜその価格になったのかの論理的な根拠が詳細に記載されるため、税務署への説明資料としても高い説得力を持ちます。

路線価評価の「80%水準」が機能しないケース

「路線価は公示価格の80%程度だから、鑑定評価が通達評価を下回ることはないのでは?」という疑問を持たれる先生もいらっしゃるかもしれません。確かに標準的な整形地であれば、この20%のバッファにより路線価評価が時価を上回ることは多くありません。

しかし、減価要因が大きい不動産では事情が異なります。たとえば、以下のようなケースでは通達評価による補正率だけでは減価を吸収しきれず、鑑定評価額が通達評価額を下回ることが十分にあり得ます。

  • 著しい不整形地:不整形地補正率の上限(最大40%減額)では捉えきれない極端な形状
  • 崖地・急傾斜地:造成費や利用制限による減価が、がけ地補正率を超える場合
  • 大規模画地:戸建分譲を想定した場合の開発費用・インフラ整備費用の負担
  • 市街化調整区域の土地:建築制限による利用価値の低下
  • 土壌汚染・埋蔵文化財のある土地:浄化費用や調査費用が発生する土地
  • 接道条件が劣る土地:建築基準法上の道路に適切に接していない土地

こうした不動産を相続された場合、通達評価のまま申告すると、顧問先が本来負担する必要のない税額を支払うことになりかねません。

第2章:税理士が鑑定評価を活用すべき場面

場面1:相続税申告における通達評価の限界を超えるとき

最も典型的な活用場面は、相続税申告において財産評価基本通達による評価額が時価を上回ると考えられるケースです。

具体的な数値でイメージしていただきましょう。たとえば、相続財産に500平方メートルの不整形地(市街化区域、旗竿地、一部崖地)が含まれていたとします。路線価方式で画地調整を行った結果、評価額が6,000万円になったとしましょう。しかし、この土地は旗竿部分の面積が大きく有効宅地部分が限られること、崖地部分に多額の造成費がかかること、周辺の取引事例も同規模の土地は値崩れしていることなどを踏まえると、鑑定評価額は4,200万円と算定される可能性があります。

この場合、差額1,800万円に対する相続税の軽減効果は、税率30%の場合で540万円、税率40%の場合で720万円にもなります。鑑定評価の費用は30万円〜(当事務所・土地の場合、税別)ですから、費用対効果は極めて高いといえます。

ただし、鑑定評価額で申告すれば必ず認められるわけではありません。税務署は鑑定評価書の内容を精査し、鑑定手法や事例選択の妥当性を検証します。したがって、信頼性の高い鑑定評価書を取得することが大前提となります。

場面2:総則6項リスクへの備え

近年、税理士の先生方にとって無視できないのが、財産評価基本通達の総則6項(いわゆる「伝家の宝刀」)の適用リスクです。

令和4年4月19日の最高裁判決(いわゆるタワマン節税事件)は、総則6項の適用に関する重要な判断枠組みを示しました。この判決では、被相続人が相続税の負担軽減を目的として借入れにより不動産を購入し、通達評価額と時価との間に著しい乖離を生じさせた場合に、総則6項の適用が認められました。

重要なのは、この判決の射程です。最高裁は、通達評価額と時価との乖離が存在するだけでは総則6項の適用要件を満たさず、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」が必要であるとしました。具体的には、納税者が意図的に評価額の乖離を作出したかどうかが問われます。

この判決以降、税務当局による総則6項の適用件数は増加傾向にあり、令和5年下半期だけで7件の適用指示が出されています。

税理士の先生方が顧問先の相続対策を検討する際、「この対策は総則6項の適用リスクがないか」という視点は不可欠です。そして、そのリスク判定の基礎となるのが「通達評価額と時価の乖離幅」です。鑑定評価を取得しておくことで、通達評価額と時価の関係を客観的に把握でき、対策の安全性を事前に検証することが可能になります。

場面3:取得費不明の譲渡所得――顧問先への提案機会

相続とは異なる文脈ですが、税理士の先生方が鑑定評価を最も提案しやすい場面の一つが、取得費不明の不動産に係る譲渡所得の計算です。

被相続人から相続した不動産を売却する際、購入時の売買契約書が見つからないケースは珍しくありません。この場合、原則として概算取得費(譲渡価額の5%)で計算することになりますが、これでは譲渡価額の95%に対して課税されることになり、納税者にとって非常に酷な結果となります。

ここで活用できるのが、過去時点の不動産鑑定評価です。取得時点(たとえば昭和50年や平成5年など)における不動産の価格を、当時の取引事例や地価動向などをもとに鑑定士が合理的に推計します。

たとえば、相続した土地を3,000万円で売却したケースを考えましょう。

項目概算取得費(5%)鑑定評価による推計取得費
譲渡価額3,000万円3,000万円
取得費150万円2,200万円
譲渡所得2,850万円800万円
税額(長期・約20%)約570万円約160万円
差額―約410万円の軽減

鑑定費用を差し引いても、顧問先にとって大きなメリットがあります。市街地価格指数を用いた方法もありますが、税務調査で否認されるリスクが指摘されています。不動産鑑定評価書であれば、専門家が複数のデータを積み上げて論理的に取得費を説明するため、根拠資料としての信頼性が高いといえます。

確定申告のタイミングで「取得費の資料が見つからない」と顧問先から相談を受けた際に、「鑑定評価を使う方法がありますよ」と提案できれば、顧問先の満足度向上にもつながるのではないでしょうか。

場面4:法人税における時価評価リスクへの対応

法人が関与する不動産取引では、「時価」の判定が法人税の課税関係を大きく左右します。

たとえば、同族会社とその役員間で不動産を売買する場合、取引価額が時価と乖離していると、低廉譲渡(時価より低い価額での譲渡)または高額譲渡として、法人側・個人側の双方に課税リスクが生じます。

  • 法人から役員への低廉譲渡:法人側に時価との差額について寄附金課税、役員側に給与課税
  • 役員から法人への低廉譲渡:個人側にみなし譲渡所得課税(時価の2分の1未満の場合)、法人側に受贈益課税
  • 法人間の低廉譲渡:売主法人に時価での譲渡益課税、買主法人に受贈益課税

これらのリスクを回避するためには、取引時点における不動産の「時価」を客観的に証明する必要があります。不動産鑑定評価書は、この時価の立証手段として最も強い根拠となります。

特に同族間取引では、税務調査で価格の妥当性が厳しく問われるため、事前に鑑定評価を取得しておくことが、税務リスクの予防策として有効です。顧問先が不動産の売買を検討されている段階で、「鑑定評価を取っておきましょう」と助言できれば、事後的なトラブルを未然に防ぐことができます。

第3章:鑑定士との連携の実務

依頼から納品までの流れ

税理士の先生方から不動産鑑定士への依頼は、以下のような流れで進みます。

ステップ1:事前相談(無料)
まずは対象不動産の概要と評価の目的をお知らせください。所在地・面積・用途・相続税評価額の概算などの基本情報をいただければ、鑑定評価によって通達評価額を下回る可能性があるかどうか、おおよその見通しをお伝えできます。この段階で費用対効果が見込めない場合は、率直にその旨をお伝えします。

ステップ2:正式依頼・資料提供
評価を進めることが決まったら、登記簿謄本、公図、地積測量図、建物図面、固定資産税評価証明書、賃貸借契約書(収益物件の場合)などの資料をご提供いただきます。相続税申告で既にお手元にある資料がほとんどですので、追加の手間は少ないはずです。

ステップ3:現地調査
鑑定士が現地を訪問し、土地の形状・接道状況・周辺環境・利用状況などを確認します。現地調査は通常1〜2時間程度です。

ステップ4:評価作業・鑑定評価書の交付
依頼から納品まで、通常2〜4週間程度です。相続税の申告期限が迫っている場合は、スケジュールのご相談に応じます。

費用の目安:土地の鑑定評価であれば30万円〜(税別)です。物件の規模や複雑性によって変動しますが、事前相談の段階でお見積りをお出しします。

鑑定士に伝えるべきポイント

鑑定評価の精度と有用性を高めるために、依頼時にぜひお伝えいただきたい情報があります。

評価の目的と使途:相続税申告用なのか、遺産分割協議の参考資料なのか、法人税の時価立証なのか。目的によって求める価格の種類や評価のアプローチが変わります。

通達評価額と「ここが問題だ」と感じるポイント:先生方が通達評価を行う中で「ここの減価が十分に反映されていない」と感じた点は、鑑定士にとっても重要な情報です。たとえば「崖地部分が大きいのに、がけ地補正率だけでは不十分に思える」「近隣に嫌悪施設があるが通達には反映の仕組みがない」といった具体的なご指摘は、鑑定評価の方向性を定めるうえで大変参考になります。

スケジュールの制約:相続税の申告期限、確定申告の期限、取引の決済日など、いつまでに鑑定評価書が必要かを明確にお伝えください。

良い鑑定士の見極め方

すべての鑑定評価書が同じ品質というわけではありません。税務の場面で使う鑑定評価書には、税務署の精査に耐えうる論理的な一貫性と、十分な根拠資料の裏付けが求められます。

確認すべきポイント:

  • 税務案件の経験:相続税申告や譲渡所得の取得費立証など、税務目的の鑑定評価の経験があるかどうか。税務署がどのような観点で鑑定評価書を検証するかを理解している鑑定士であれば、より実効性の高い評価書を作成できます。
  • 説明の丁寧さ:事前相談の段階で、費用対効果の見通しを率直に説明してくれるかどうか。「鑑定評価をしても通達評価を下回る可能性は低い」という結論も含めて、正直に見通しを述べてくれる鑑定士は信頼できます。
  • 鑑定評価書の体裁と論理構成:過去の鑑定評価書のサンプルがあれば見せてもらいましょう。評価の前提条件、手法の適用過程、価格の調整理由などが明確に記載されているかを確認します。

路線価と時価の違いを遺産分割でどう扱うかは、相続税路線価と時価の違いのページで詳しく解説しています。

まとめ

相続税評価(財産評価基本通達)と不動産鑑定評価は、いずれも不動産の「時価」を求める手続きでありながら、その目的・手法・精度において決定的な違いがあります。

  • 相続税評価:大量・画一的な処理に適した仕組み。標準的な不動産には合理的だが、個別の減価要因を十分に反映しきれない場合がある
  • 鑑定評価:個別の不動産の市場価値を直接的に求める手法。減価要因の大きい不動産や、時価の立証が必要な場面で威力を発揮する

税理士の先生方にとって、鑑定評価は「使いどころを知っていれば、顧問先に大きな価値を提供できるツール」です。相続税申告における評価減、総則6項リスクへの備え、取得費不明の譲渡所得計算、法人税の時価立証――いずれの場面でも、鑑定評価という選択肢を持っておくことで、提案の幅が大きく広がります。

私たち鑑定士は、税理士の先生方と同じく「顧問先の利益を守る」という目標に向かって仕事をしています。不動産の評価に関してお困りの案件がございましたら、ぜひ一度ご相談ください。当事務所では、税理士の先生方からのご相談も承っております。初回のお打ち合わせは無料です。「この案件で鑑定評価を使う意味があるか」という段階からお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

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