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小規模宅地等の特例で税額2,376万円の差?4つの類型と「8割減でも高い土地」を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
和室の畳の上に広げられた古い公図と真鍮の巻尺。障子越しに午後の光が差し込んでいる

はじめに

「自宅の土地は8割引きで評価してもらえるらしい」――相続の相談の場で、こうした話を耳にしたことはないでしょうか。

小規模宅地等の特例(租税特別措置法第69条の4)は、相続税の負担を大きく左右する制度です。適用できるかどうかで、納める税額が数千万円単位で変わることも珍しくありません。それだけに関心が集まりやすく、同時に「うちも当然使えるはずだ」という思い込みも生まれやすい制度です。

しかし実際には、類型ごとに限度面積も減額率も異なり、申告期限までの保有・継続要件や、相続開始前3年以内の貸付を除外するルールなど、つまずきやすい条件が幾重にも重なっています。さらに厄介なのは、特例を最大限に使ってもなお、土地の評価額が実際の市場価値と大きく乖離してしまうケースがあるという点です。

この記事では、私たち鑑定士の視点から、特例の全体像と適用要件を整理したうえで、「特例を使ってもなお高い」土地に対して鑑定評価がどう機能するのかを解説します。なお、個別の税額計算や適用可否の最終判断は税務の領域です。実際の申告にあたっては必ず税理士にご確認ください。

第1章:小規模宅地等の特例の全体像

1-1. 4つの類型と限度面積・減額率

小規模宅地等の特例は、被相続人等の事業用または居住用に使われていた宅地等について、一定面積までの評価額を減額する制度です。類型は4つあり、限度面積と減額率は次のとおりです。

類型限度面積減額率
特定居住用宅地等330㎡80%
特定事業用宅地等400㎡80%
特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
貸付事業用宅地等200㎡50%

注意していただきたいのは、賃貸アパートや駐車場などの貸付事業用宅地等は、限度面積200㎡・減額率50%にとどまるという点です。「不動産を貸していれば8割減」という理解は誤りです。

1-2. なぜ8割も減額されるのか

これほど大きな減額が認められる理由は、制度の趣旨にあります。被相続人が住んでいた自宅や、生活の糧としていた事業用地について、相続税の納付のために売却を強いられる事態を避ける――つまり生活基盤・事業基盤の維持が目的です。

この趣旨を理解しておくと、後述する「申告期限まで保有・継続していること」という要件が、なぜ課されているのかが腑に落ちるはずです。基盤を手放すのであれば、そもそも守るべき基盤がなかったことになるからです。

1-3. 併用のルールと限度面積の調整

複数の宅地がある場合、無条件にすべて使えるわけではありません。

特定居住用宅地等(330㎡)と特定事業用宅地等(400㎡)は完全併用が可能で、合計730㎡まで80%減額を受けられます。一方、貸付事業用宅地等を含めて適用する場合は調整計算が必要になり、次の式を満たす範囲でしか使えません。

特定事業用等の面積 × 200/400 + 特定居住用の面積 × 200/330 + 貸付事業用の面積 ≦ 200㎡

自宅も賃貸アパートも持っている、という方は、どの宅地に特例を配分するのが有利かを事前に試算しておく必要があります。単価の高い土地から優先的に充てるのが基本ですが、二次相続まで見据えると結論が変わることもあります。

第2章:つまずきやすい適用要件

2-1. 特定居住用宅地等――「家なき子」の壁

被相続人の自宅敷地について80%減額を受けるには、取得者ごとに要件が定められています。配偶者が取得する場合は無条件ですが、それ以外はハードルが上がります。

同居していた親族が取得する場合は、申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ宅地を保有していることが必要です。

そして、同居していない親族が取得するいわゆる「家なき子」の要件は、平成30年度の税制改正で大幅に厳格化されました。相続開始前3年以内に、自己または自己の配偶者に加え、三親等内の親族や特別の関係がある法人が所有する家屋に居住していないこと、さらに相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがないことが求められます。「持ち家を親族の法人に売って賃借する」といった形式的な対策を封じるための改正です。

2-2. 貸付事業用宅地等――相続開始前3年以内の貸付は原則対象外

貸付事業用宅地等については、平成30年度改正により、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として対象外とされました。相続直前に現金でアパートを取得して評価額を圧縮する、という手法への対応です。

ただし例外があり、相続開始前3年を超えて事業的規模(いわゆる5棟10室基準)で貸付事業を継続していた被相続人等が、その事業の用に供した宅地については除外されません。継続的に賃貸経営を行ってきた方まで排除する趣旨ではないためです。

2-3. 申告期限までの保有・事業継続

第1章で触れた制度趣旨を反映し、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)まで、宅地を保有し、事業や居住を継続していることが原則的な要件となります(配偶者が取得する居住用宅地等を除く)。

遺産分割が長引いて申告期限までに分割が確定しない場合、特例は当初申告では使えません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、分割確定後に更正の請求で適用を受ける道が残りますが、手続きは煩雑になります。評価額で揉めて分割が止まることが、そのまま税負担の増加につながるという構造は、意識しておくべきでしょう。

第3章:特例を使ってもなお時価と乖離するとき

3-1. 8割減でもまだ高い土地がある

ここからが、私たち鑑定士の出番です。

相続税の土地評価は、原則として財産評価基本通達に基づき、路線価方式または倍率方式で行われます。路線価は地価公示価格水準のおおむね80%に設定されており、そこからさらに小規模宅地等の特例で80%減額されるため、「実勢価格より相当低くなるはずだ」と考えるのが自然です。

しかし、路線価はその路線に面する標準的な画地を前提とした価格です。個別の土地が抱える減価要因のうち、通達の画地補正率で拾えるのは、間口・奥行・不整形・がけ地といった典型的なものに限られます。

たとえば次のような要因は、通達評価では十分に反映されません。

  • 敷地の一部に土壌汚染のおそれがあり、調査・対策費用の負担が見込まれる
  • 高圧線が上空を通過し、地役権による建築制限がかかっている
  • 前面道路が建築基準法上の道路に該当せず、実質的に再建築ができない
  • 極端な傾斜地で、造成に多額の費用を要する

こうした土地では、特例適用後の相続税評価額が、実際に売却できる金額を上回ってしまうことすら起こり得ます。当事務所の過去記事「土壌汚染で価格は3割下がる?アスベスト・PCBを含む環境リスクの減価を不動産鑑定士が解説」や「高圧線下地はどれだけ安くなる?地役権による建築制限と評価減の実務を不動産鑑定士が解説」もあわせてご覧ください。

3-2. 数値で見る減額のインパクト

具体的に見てみましょう。路線価30万円/㎡の住宅地に、330㎡の自宅敷地があるとします。

  • 通達による評価額:30万円 × 330㎡ = 9,900万円
  • 特定居住用宅地等の特例(80%減)適用後:1,980万円

減額される7,920万円に対し、限界税率が30%であれば、税額の差はおよそ2,376万円に達します。特例の適用可否がいかに大きいかがわかります。

一方、この土地に建築基準法上の接道が確保されておらず、再建築が事実上できないとします。再建築不可物件は、条件によって更地価格の2割から7割まで価格が変動します。この点は過去記事「再建築不可物件はいくらで売れるのか?更地価格の2割から7割まで変動する理由を鑑定士が解説」で詳しく解説しています。

仮に2割であれば、実勢価値は9,900万円ではなく1,980万円。特例適用後の相続税評価額1,980万円と、ちょうど並びます。3割でも2,970万円ですから、8割減という大幅な減額を受けてなお、評価額が実勢の3分の2に達する計算です。「8割減だから安心」とは言えない構図がここにあります。

3-3. 鑑定評価が効く3つの場面

こうした土地について、通達によらず不動産鑑定評価に基づいて申告するという選択肢があります。財産評価基本通達総則6項は「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めており、通達評価が実態と乖離する場合の調整弁が用意されています。

ただし、納税者側が通達によらない評価を行うには「特別の事情」の立証が必要であり、鑑定評価書の内容が争点となります。実務上、鑑定評価が特に機能するのは次の場面です。

  1. 個別的要因による減価が大きい土地――土壌汚染、地下埋設物、高圧線、再建築不可、極端な不整形など、通達の補正率では拾いきれない要因を抱える土地
  2. 広大な土地――地積規模の大きな宅地の評価は通達に規定がありますが、開発法による検証で乖離が明らかになる場合があります
  3. 遺産分割と申告を同時に進める場面――相続人間で「いくらの土地か」の合意ができなければ分割が進まず、申告期限に間に合いません。第三者である鑑定士の評価額を共通の土台にすることで、分割協議が動き出すことがあります

なお、総則6項をめぐっては、最高裁令和4年4月19日判決が課税庁側による適用を認めた事例として広く知られています。通達評価と鑑定評価の関係は、納税者・課税庁の双方向で問題になり得る論点です。判断にあたっては、税理士と連携しながら慎重に検討することをおすすめします。

まとめ

小規模宅地等の特例は相続税を大きく圧縮する強力な制度ですが、類型ごとの要件は細かく、適用後もなお実勢価値との乖離が残る土地が存在します。

要点を振り返ります。

  • 特例の減額率は一律ではなく、特定居住用・特定事業用が330㎡または400㎡まで80%、貸付事業用は200㎡まで50%にとどまる
  • 「家なき子」要件と相続開始前3年以内の貸付除外は平成30年度改正で厳格化されており、形式的な対策は通用しない
  • 申告期限までの保有・継続が原則要件であるため、遺産分割の停滞はそのまま税負担の増加につながる
  • 土壌汚染・高圧線・再建築不可など個別の減価要因を抱える土地では、特例適用後の評価額が実勢に接近、あるいは逆転することがある
  • 通達評価が実態と乖離する土地では、不動産鑑定評価を用いて申告する選択肢があり、遺産分割の合意形成にも役立つ

相続する土地に何らかの事情があり、「路線価どおりの評価で本当に妥当なのか」と疑問を感じている相続人の方、あるいは顧問先の土地評価に迷われている税理士の先生は、一度専門家の目を入れることをおすすめします。当事務所では相続案件にも精通しており、税理士の先生との連携を含め丁寧に対応いたします。

ご家族の相続で不動産の評価にお悩みの方、まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。

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