路線価2026で相続税は上がる?「路線価<時価」と「路線価>時価」で逆になる相続対策を不動産鑑定士が解説

はじめに
2026年7月1日、国税庁が令和8年分の路線価を公表しました。全国の標準宅地の平均は前年比2.9%の上昇で5年連続のプラス、東京都は9.4%の上昇です。「路線価が上がったのだから、うちの土地の相続税も上がる。何か手を打たないと」と焦っている方も多いのではないでしょうか。
先に結論をお伝えします。路線価と時価の乖離は、土地によって向きが逆になります。 地価が上がり続ける都市部では路線価が時価を大きく下回る一方、形の悪い土地や需要の細い地域では、路線価で計算した評価額が時価を上回ることがあります。どちらの向きかで、取るべき対策は正反対です。
「路線価が上がったから相続税対策を急ぐ」という一律の発想は、断言します、危険です。この記事では、2026年の路線価の中身を確認したうえで、あなたの土地がどちらの側にあるかの見分け方と、年内に検討すべき対応を、私たち鑑定士の視点から整理します。
第1章:路線価2026の中身と「乖離」が生まれる仕組み
1-1. 全国2.9%上昇、県庁所在地の下落ゼロ
令和8年分の路線価は、全国約32万地点の標準宅地の平均が2.9%の上昇となり、前年の2.7%を上回りました。現行の算定方式となった2010年以降で最大の上昇率です。
都道府県別では東京都が9.4%で最も高く、沖縄県6.6%、大阪府5.1%が続きます。都道府県庁所在都市の最高路線価は44都市で上昇、青森・津・鳥取の3都市が横ばいで、下落した都市は1991年分以来35年ぶりにゼロとなりました。
| 項目 | 令和8年分 | 令和7年分 |
|---|---|---|
| 全国最高路線価(東京・銀座5丁目 銀座中央通り) | 1㎡あたり5,336万円 | 1㎡あたり4,808万円 |
| 同・対前年変動率 | 11.0% | 8.7% |
| 最高路線価の上昇率1位(県庁所在都市) | 佐賀市 17.0% | ― |
(国税庁『令和8年分都道府県庁所在都市の最高路線価』2026年7月1日公表)
1-2. 路線価は「1月1日時点・公示価格の8割」
路線価(道路に面する宅地1㎡あたりの相続税・贈与税の評価額)には、時価との間に差が生まれる仕組みが最初から組み込まれています。国税庁は、路線価等は「1月1日を評価時点として」「地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に」定めると説明しています。
つまり路線価には、2つのずれがあります。1つは水準のずれ(公示価格の8割)、もう1つは時点のずれ(1月1日時点の価格を、その年の12月31日までの相続・贈与すべてに使う)です。地価が上昇を続ける局面では、年の後半になるほど時価との差が開いていきます。
逆に、年の途中で地価が大きく下がると、路線価が時価を上回る事態も起こりえます。大規模な災害の際には、国税庁が被災地域の路線価に乗じる「調整率」を別途定めた例があります(令和6年能登半島地震など)。路線価は万能の物差しではなく、時点の制約を抱えた指標だということです。
1-3. 標準的な土地の価格にすぎない
さらに、路線価はその道路に面する標準的な宅地を想定した価格です。個々の土地の評価額は、路線価に奥行価格補正や不整形地補正などの画地調整率(土地の形状等に応じた補正率)と地積を掛けて求めます。
ところが、この補正率は一律の表で定められています。崖地の造成費、再建築の可否、接道の実情、周辺の嫌悪施設といった個別事情は、補正率では十分に反映しきれません。時価との乖離は、水準・時点・個別性という3つの層で生じると整理するとわかりやすくなります。一般論としての乖離の構造は「相続税評価額と時価の乖離問題:あなたの不動産は損をしていませんか?」でも解説しています。
第2章:あなたの土地は「路線価<時価」か「路線価>時価」か
2-1. 路線価が時価を大きく下回る土地
次のような土地は、路線価による評価額が時価を下回りやすい典型です。
- 東京23区や大阪市・名古屋市の中心部など、地価上昇が続く地域の整形地
- 再開発やインバウンド需要で取引価格が急伸した駅前・観光地
- 角地・眺望など、補正率に表れにくいプラス要因を持つ土地
こうした土地では、相続税の評価額が低く出ること自体は納税者に有利です。ただし、遺産分割や遺留分の場面で路線価をそのまま「財産の価値」として使うと、不動産を取得する相続人と金銭を受け取る相続人の間で不公平が生じます。
2-2. 路線価が時価を上回る土地
反対に、次のような土地では路線価で計算した評価額が時価を上回ることがあります。
- 崖地・高低差が大きい土地、造成に多額の費用がかかる土地
- 接道が不十分で再建築が難しい土地、私道の負担が重い土地
- 人口減少地域や郊外で、買い手が極端に少ない土地
- 騒音・振動・日照阻害などで利用価値が著しく低下している土地
財産評価基本通達にも、地積規模の大きな宅地の評価(三大都市圏で500㎡以上などの要件を満たす宅地)や、国税庁の質疑応答事例で示された「利用価値が著しく低下している宅地」の10%評価減といった調整の仕組みはあります。それでも補正しきれない差が残る土地は少なくありません。
2-3. 想定されるケースで比べる
同じ「路線価で評価した土地」でも、向きが逆になる例を示します。数値は考え方を示すための想定です。
| 項目 | ケースA:都心の整形地 | ケースB:郊外の崖付き不整形地 |
|---|---|---|
| 面積・路線価 | 150㎡・1㎡あたり80万円 | 500㎡・1㎡あたり6万円 |
| 路線価による評価額 | 約1億2,000万円 | 約2,400万円(補正後) |
| 時価(鑑定評価額の想定) | 約1億6,000万円 | 約1,500万円 |
| 乖離の向き | 評価額が時価より4,000万円低い | 評価額が時価より900万円高い |
ケースAで兄弟2人が「路線価ベースの1億2,000万円」を前提に代償金を決めると、不動産を取得しない側は時価ベースより2,000万円少なく受け取ることになります。ケースBで、相続税の限界税率(最も高い部分に適用される税率)が30%の方の場合、900万円の過大評価は単純計算で約270万円の税負担の差につながります。
2-4. 自分でできる3段階の見分け方
どちらの側にあるかの見当は、次の3段階である程度つけられます。
1つ目は、国税庁の路線価図で対象地の前面道路の路線価を確認し、0.8で割り戻すことです。路線価が1㎡あたり40万円なら、1月1日時点の公示価格水準はおおむね50万円と読めます。
2つ目は、国土交通省の不動産情報ライブラリで、近隣の実際の取引価格と比べることです。割り戻した水準より取引価格が明らかに高ければ「路線価<時価」、低ければ「路線価>時価」の可能性があります。ただし取引価格には建物込みの価格や特殊な事情のある取引も含まれるため、件数と中身を見て判断します。
3つ目は、対象地の個別事情の確認です。高低差、間口の狭さ、接道の状況、越境物、借地権や共有の有無などを書き出します。補正率の表では拾えない事情が多いほど、路線価による評価と時価の差は大きくなりやすいといえます。
私たち鑑定士が鑑定評価を行う際も、この3段階を精緻にした作業を行います。自分でのチェックで「差が大きそうだ」と感じたら、専門家に相談する目安になります。
第3章:年内に検討したい相続対策の方向性
3-1. 「路線価<時価」の土地は、分け方で差を埋める
路線価が時価を下回る土地で最も注意すべきは、相続税の計算ではなく遺産の分け方です。遺産分割協議や遺留分侵害額請求では、相続税評価額ではなく時価で財産を評価するのが原則です。時価で評価しないと、第2章のケースAのように数千万円単位の不公平が生じかねません。
この論点は「路線価で計算すると500万円取り損ねる?遺留分侵害額請求の不動産評価と基準時を不動産鑑定士が解説」で具体的な計算とともに取り上げています。
また、贈与税の計算で使う路線価は、贈与した日の属する年分のものです。2026年中の贈与には令和8年分の路線価を使い、2027年1月1日以後の贈与には、2027年7月に公表される令和9年分の路線価を使うことになります。地価の上昇が続く地域では、贈与の時期によって評価額が変わる可能性がある点は知っておいてよいでしょう。ただし、生前贈与は2024年1月1日以後の贈与から相続財産への加算期間が段階的に7年へ延長されるなど制度が変わっています。実行の可否や時期は、必ず税理士にご確認ください。
3-2. 「路線価>時価」の土地は、鑑定評価で時価を示す
路線価による評価額が時価を上回る土地については、相続税法第22条が相続財産を「取得の時における時価」で評価すると定めている点が出発点になります。財産評価基本通達による評価額が時価を上回ることを、不動産鑑定評価書などで合理的に示せれば、鑑定評価額で申告する余地があります。
すでに申告を終えている場合でも、国税通則法第23条に基づく更正の請求(申告した税額が過大だった場合に減額を求める手続き)は、原則として法定申告期限から5年以内であれば可能です。
ただし、税務署や裁判所は鑑定評価の前提や手法の合理性を厳しく検討します。取引事例の選び方や造成費の見積りに根拠を欠くと、鑑定評価額は採用されません。鑑定評価書を作れば必ず評価額が下がるわけではないことは、あらかじめ知っておいてください。鑑定評価の費用(土地で30万円〜・税別)と見込まれる税額差を比べて判断することが大切です。
タイミングにも注意が必要です。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条)。鑑定評価には現地調査や役所調査、資料の収集を含めて一定の期間がかかるため、申告期限の直前ではなく、財産目録を作る段階で税理士と相談しながら検討を始めるのが現実的です。
3-3. 評価額を大きく下げる対策は通達6項に注意
一方、路線価と時価の差を意図的に利用する対策には慎重さが必要です。財産評価基本通達6項は、通達どおりに評価することが著しく不適当と認められる財産は国税庁長官の指示を受けて評価すると定めています。最高裁令和4年4月19日判決は、被相続人が生前に多額の借入れで取得した賃貸マンションについて、通達評価額ではなく鑑定評価額による課税を適法と判断しました。
その後、2024年1月1日以後の相続・贈与からは、居住用の区分所有財産(分譲マンション)について、評価額が市場価格理論値の6割を下回る場合に補正する新しい評価方法が適用されています。詳しくは「タワマン節税はもう使えない? ― 最高裁判決後に残された不動産活用の相続対策を徹底解説」をご覧ください。
なお、小規模宅地等の特例を適用してもなお評価額が時価に比べて高すぎる土地もあります。この点は「小規模宅地等の特例で税額2,376万円の差?4つの類型と「8割減でも高い土地」を不動産鑑定士が解説」で整理しています。
まとめ
2026年の路線価は全国で2.9%、東京都で9.4%上昇しましたが、路線価と時価の乖離は土地によって向きが異なり、対策も正反対になります。
要点を振り返ります。
- 令和8年分路線価は全国平均2.9%の上昇で、2010年以降最大の伸びとなり、県庁所在都市の最高路線価で下落した都市はゼロだった
- 路線価は1月1日時点・公示価格の8割程度を目途とする標準的な宅地の価格であり、水準・時点・個別性の3つの層で時価とずれる
- 地価上昇が続く都市部の整形地は路線価が時価を下回りやすく、崖地・不整形地・需要の細い地域の土地は上回ることがある
- 路線価が時価を下回る土地では、遺産分割や遺留分で時価ベースの評価を用いることが不公平の防止につながる
- 路線価が時価を上回る土地では、鑑定評価書で時価を合理的に示すことで申告や更正の請求の余地が生まれるが、評価の合理性は厳しく審査される
路線価の発表を見て自分の土地の評価が気になっている相続人の方、顧問先の土地評価で通達評価に違和感を覚えている税理士の先生方へ。まずは対象の土地が「路線価<時価」「路線価>時価」のどちらの側にあるのかを見極めることが、年内の相続対策の第一歩です。
当事務所では、相続税申告や遺産分割に用いる鑑定評価書の作成に対応しております。路線価と時価の差がどの程度あるのか確かめたいときは、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。



