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共有不動産の使用損害金は5年で480万円?独り占めする共有者への不当利得返還請求と賃料相当額を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
古い木造住宅の玄関の土間に一足だけ置かれた革靴

はじめに

共有不動産の使用損害金を、独り占めしている兄弟に請求できるのか。相続で実家を兄弟3人の共有にしたのに、長男だけが住み続けて家賃を1円も払わない。自分にも持分があるのに、何も受け取れないのは納得がいかない。こうした相談は、相続や離婚の後に共有状態が続いている場面でよく見られます。

先に結論をお伝えします。共有者の一人が共有不動産を単独で使っている場合、他の共有者は、原則として自分の持分に応じた賃料相当額を請求できます。 最高裁平成12年4月7日判決はこの考え方を示し、2023年4月1日施行の改正民法第249条第2項は、共有物を使用する共有者が「自己の持分を超える使用の対価」を償還する義務を負うと明文化しました。一方で、無償で使う合意があったと認められる場合など、請求できない場面もあります。そして請求額の大小を決めるのは、「賃料相当額をいくらと見るか」という評価の問題です。

この記事では、使用損害金(不当利得)の法的な枠組みを整理したうえで、賃料相当額の算定方法と、金額が大きく割れる理由を、私たち鑑定士の視点から解説します。

第1章:共有不動産の使用損害金とは何か

1-1. 持分があっても「独り占め」はできない

民法第249条第1項は、各共有者は共有物の全部について、その持分に応じた使用ができると定めています。持分が3分の1の共有者でも、建物の3分の1の部屋だけを使えるわけではなく、全体を使う権利があります。その反面、他の共有者も同じ権利を持つため、一人が全体を占有し続けると、他の共有者の使用の利益を奪っていることになります。

そこで問題になるのが、奪われた利益を金銭で取り戻せるかどうかです。これを実務では「使用損害金」「賃料相当損害金」、または「不当利得(法律上の原因なく他人の財産で得た利益)の返還請求」と呼びます。呼び方は違っても、中身はいずれも「持分に応じた賃料相当額」の支払いを求めるものです。

1-2. 判例と改正民法第249条第2項

最高裁平成12年4月7日判決は、共有者は、単独で占有する権原がないのに共有不動産を単独で占有している他の共有者に対し、自己の持分割合に応じて、占有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払いを請求できるとしました。

この判例の考え方は、2023年4月1日施行の改正民法で条文になりました。第249条第2項は「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」と定めています。あわせて第3項では、共有物を使用する共有者に善良な管理者の注意義務が課されました。

なお、最高裁昭和41年5月19日判決は、持分の過半数を持つ共有者であっても、共有物を占有する少数持分権者に対して当然には明渡しを請求できないとしています。つまり、住み続けている共有者を直ちに追い出すのは難しい一方で、お金での精算は求められる、という構造です。

1-3. 請求できない・減額される典型パターン

「別段の合意」があれば、使用の対価は発生しません。問題は、明確な契約書がなくても合意が推認される場合があることです。

最高裁平成8年12月17日判決は、共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て生前から同居していた場合、特段の事情のない限り、被相続人の死亡後も遺産分割終了までは無償で使用させる旨の合意(使用貸借)があったと推認されるとしました。親と同居していた子に対し、相続直後から賃料相当額を請求しても、遺産分割が終わるまでの分は認められない可能性があるということです。

このほか、配偶者短期居住権(民法第1037条。被相続人の配偶者が相続開始時に無償で住んでいた建物に、一定期間無償で住み続けられる権利)が成立する場面や、過去の金銭請求権の消滅時効(民法第166条)にも注意が必要です。請求の可否や範囲は事案ごとの事実関係で決まるため、具体的な判断は弁護士にご確認ください。

第2章:賃料相当額(使用損害金)はどう算定するのか

2-1. 基本の算式は「賃料相当額×他の共有者の持分」

使用損害金の基本的な計算は、次のとおりです。

請求できる額 = 対象不動産の賃料相当額 × 請求する共有者の持分割合 × 期間

たとえば、賃料相当額が月24万円の戸建てを、持分3分の1ずつの兄弟3人で共有し、長男だけが住んでいるとします。次男・三男はそれぞれ月8万円(24万円×3分の1)を請求できる計算です。年96万円、5年分なら480万円になります。

算式自体は単純です。金額を左右するのは、最初の「賃料相当額」をいくらと見るかです。

2-2. 「賃料相当額」は新規賃料が基本

ここでいう賃料相当額は、その不動産を第三者に新たに貸すとした場合に成立する賃料、つまり不動産鑑定評価基準でいう新規賃料(正常賃料)の考え方で捉えるのが基本です。既存の賃貸借で当事者間の経緯を反映する継続賃料とは区別されます。

不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、新規賃料を求める手法として次の3つを定めています。

手法考え方向いている場面
積算法基礎価格×期待利回り+必要諸経費価格が求めやすい土地・建物
賃貸事例比較法類似の賃貸事例から比較して求める賃貸市場が厚い住宅・店舗
収益分析法事業収益のうち不動産に帰属する部分から求める店舗・ホテル等の事業用

ポータルサイトの募集賃料は、あくまで貸主の希望額です。成約賃料との差や、築年・間取り・設備の違いを補正しないまま使うと、賃料相当額を過大に見積もることになります。

2-3. 「土地だけ共有」なら地代相当額になる

見落とされやすいのが、何が共有されているかという点です。土地と建物がともに共有なら、建物を含む家賃相当額が基準になります。一方、土地は兄弟の共有だが、建物は長男が単独で建てて所有しているケースでは、他の共有者が失っているのは土地の使用利益だけです。この場合の基準は、家賃ではなく地代相当額です。

住宅地の地代は、一般に家賃よりずっと低い水準です。同じ「使用損害金」でも、家賃ベースか地代ベースかで請求額は数倍変わります。権利関係を登記事項証明書で確認することが、金額算定の出発点になります。

第3章:金額が割れる理由と鑑定評価の役割

3-1. 想定されるケース:同じ実家で請求額が4倍以上開く

数値は考え方を示すための想定です。東京23区内の築25年・木造戸建て(土地建物とも兄弟3人で各3分の1)を長男が5年間単独使用し、次男が自分の持分分を請求する場面を考えます。

賃料相当額の根拠月額賃料次男の請求額(5年)
ポータルの募集賃料をそのまま採用30万円600万円
賃貸事例比較法で築年・設備を補正24万円480万円
長男側が主張する近隣の古い成約例18万円360万円
土地のみ共有と誤認し地代相当額で計算7万円140万円

同じ実家でも、根拠の取り方しだいで請求額は140万円から600万円まで開きます。次男側は高く、長男側は低く主張したくなるため、双方が根拠のない数字をぶつけ合うと、話し合いは平行線になりがちです。

3-2. 固定資産税・修繕費の負担も差し引きの対象

民法第253条第1項は、各共有者は持分に応じて管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負うと定めています。長男が固定資産税や修繕費を全額負担してきた場合、長男側からは、次男・三男の持分に応じた負担分を差し引くべきだという主張が出てきます。

上のケースで固定資産税・都市計画税が年30万円なら、次男の負担分は年10万円、5年で50万円です。480万円の請求に対し、実際の精算額は430万円前後になる可能性があります。なお、こうした差し引き(相殺)の可否や方法は法律判断を含むため、弁護士にご確認ください。

3-3. 鑑定評価書が交渉と調停で果たす役割

賃料相当額を当事者の感覚で決めると、どちらも譲れなくなります。私たち鑑定士は、不動産鑑定評価基準に則って新規賃料を査定し、採用した賃貸事例、補正の内容、手法ごとの試算結果とその調整の過程を鑑定評価書に示します。根拠が見える数字は、相手方にとっても反論の手がかりが明確になるため、協議の土台として機能します。

調停や訴訟に進んだ場合も、賃料相当額の立証資料として鑑定評価書が用いられます。使用損害金の精算は、最終的に共有物分割とあわせて解決されることも多く、その場合は不動産の価格そのものも争点になります。全面的価格賠償の賠償額の考え方は「共有物分割の受取額は3,000万円か1,800万円か?全面的価格賠償と鑑定評価を不動産鑑定士が解説」で、調停での鑑定の使い方は「調停で不動産鑑定は必要?遺産分割・離婚・共有物分割の場面別に鑑定士が解説」で解説しています。

3-4. 請求の前にそろえておきたい資料

使用損害金を請求する、あるいは請求された場合に、最初に手元へそろえておきたい資料は次のとおりです。

  1. 土地・建物それぞれの登記事項証明書(共有の対象と持分割合の確認)
  2. 固定資産税の課税明細書(負担額と、積算法の基礎となる評価額の手がかり)
  3. 単独使用が始まった時期と経緯がわかる資料(同居の有無、遺産分割協議の進み具合、話し合いの記録など)
  4. 修繕やリフォームの領収書(誰がいくら負担したかの確認)

これらがそろっていれば、賃料相当額の査定と、差し引くべき負担額の整理を同時に進められます。

まとめ

共有不動産を一人が独り占めしている場合、他の共有者は持分に応じた使用損害金を請求できますが、その金額は賃料相当額の評価しだいで大きく変わります。

要点を振り返ります。

  • 共有者は持分に応じて共有物全体を使えるが、単独使用する共有者は他の共有者に持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(民法第249条第2項・最高裁平成12年4月7日判決)
  • 親と同居していた相続人など、無償使用の合意が推認されて請求が認められない場面もある(最高裁平成8年12月17日判決)
  • 使用損害金は「賃料相当額×持分割合×期間」で計算し、賃料相当額は新規賃料の考え方で求めるのが基本である
  • 土地だけが共有なら家賃ではなく地代相当額が基準となり、請求額は数倍変わる
  • 固定資産税などの負担の差し引きも含め、根拠の見える賃料相当額が交渉と調停の土台になる

共有不動産を独り占めされて困っている共有者様、使用損害金を請求されて金額の妥当性を確かめたい共有者様、共有不動産の紛争を担当される弁護士の先生方へ。賃料相当額の根拠で迷われたら、専門家の数字で一度整理してみてください。

新規賃料の鑑定評価書は30万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書は15万円〜、相手方が示した賃料相当額の検証(セカンドオピニオン)は5万円〜です(いずれも税別)。調停・訴訟など争訟案件は、価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(税別)を起点にお見積りします。詳しくは料金のご案内をご覧ください。ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。

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