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共有物分割の受取額は3,000万円か1,800万円か?全面的価格賠償と鑑定評価を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
明るい会議室のテーブルに置かれた不動産の図面と鍵、向かい合う2脚の椅子

はじめに

「不動産は自分が引き取る。その代わり、相手方には持分相当額を支払う」――共有不動産の紛争が訴訟に至ったとき、最も現実的な解決策として選ばれるのが、この全面的価格賠償です。

ところが、いざ話が具体化すると、当事者双方の主張は驚くほど食い違います。取得する側は「共有持分など単独では売れない。安く見るべきだ」と主張し、賠償を受ける側は「不動産全体の価値の半分をもらう権利がある」と主張する。数千万円の不動産であれば、この対立が1,000万円以上の開きになることも珍しくありません。

令和3年の民法改正により、令和5年4月1日から賠償分割が条文上も明確に位置づけられ、この方法を選択するハードルは下がりました。しかし条文が定めているのは「債務を負担させて持分を取得させる」という枠組みだけであり、その債務がいくらになるのかは書かれていません。ここを埋めるのが不動産鑑定評価です。

この記事では、共有物分割の法的枠組みを整理したうえで、賠償額がどのような理屈で算定されるのか、そしてどこが争点になるのかを、私たち鑑定士の視点から解説します。なお、個別の訴訟方針や法的判断については弁護士にご確認ください。

第1章:共有物分割の3つの方法と改正民法

1-1. 現物分割・賠償分割・換価分割

共有者は、民法第256条により、いつでも共有物の分割を請求できます(5年以内の不分割特約がある場合を除く)。協議が調わないときは、共有物分割の訴えを提起することになります。

裁判所が命じる分割方法は3つです。

方法内容不動産での適否
現物分割共有物そのものを持分に応じて分ける広い土地なら可能。建物や狭小地では困難
賠償分割(価格賠償)一方が取得し、他方に金銭を支払う建物を含む場合の中心的な解決策
換価分割競売にかけて代金を分ける最後の手段。市場価格を下回りやすい

不動産、とりわけ建物が絡む場合、現物分割は物理的に不可能なことがほとんどです。かといって換価分割で競売に付せば、市場価格を大きく下回る水準でしか回収できません。競売価格の実態については、当事務所の過去記事「競売なら市場価格の6割 ― 任意売却を成功させる不動産鑑定の役割」もご参照ください。結果として、賠償分割が当事者双方にとって最も損失の小さい着地点になります。

1-2. 令和5年4月1日施行の改正民法第258条

改正前の民法第258条は、現物分割を原則とし、それができない場合または著しく価値を減少させるおそれがある場合に競売を命じる、という構造でした。賠償分割は条文になく、判例によって認められてきた運用です。

改正民法第258条第2項は、裁判所が命じ得る分割方法として、①共有物の現物を分割する方法と、②共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法を並列に規定しました。そして同条第3項で、これらの方法により分割できないとき、または分割によって著しくその価額を減少させるおそれがあるときに競売を命じることができるとしています。

つまり、賠償分割は現物分割と対等の第一次的な選択肢に格上げされ、競売は明確に劣後する位置づけになりました。これは実務にとって大きな変化です。

1-3. 最高裁平成8年10月31日判決が示した要件

改正前から全面的価格賠償を認めてきたのが、最高裁平成8年10月31日判決です。同判決は、共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、取得者に支払能力があって、共有者間の実質的公平を害しないと認められる特別の事情があるときは、全面的価格賠償の方法によることも許される、としました。

ここで示された4つの考慮要素のうち、鑑定評価が正面から関わるのが「価格が適正に評価され」という部分です。改正民法の下でも、賠償額の適正性が争点であることに変わりはありません。価格の適正性が疑われれば、賠償分割そのものが認められないという構造になっているのです。

なお、遺産共有持分と通常の共有持分が併存する場合には、民法第258条の2により原則として遺産分割手続によることとされ、相続開始から10年を経過した場合の例外が定められています。相続がからむ共有物分割では、まずどの手続によるべきかの整理が必要です。この点は「調停で不動産鑑定は必要?遺産分割・離婚・共有物分割の場面別に鑑定士が解説」でも触れています。

第2章:賠償額はどう決まるのか

2-1. 出発点は「全体価格 × 持分割合」

賠償額の算定は、対象不動産全体の適正な価格を求め、これに持分割合を乗じるところから始まります。

全体価格6,000万円の土地建物を兄弟が2分の1ずつ共有しているのであれば、取得しない側への賠償額は3,000万円――これが原則形です。

2-2. 最大の争点――共有減価を織り込むか

ここで必ず持ち出されるのが、共有減価の主張です。

共有持分は、単独では自由に処分も利用もできないため、市場では極端に安く評価されます。持分のみを買い取る業者の提示水準は、全体価格に持分割合を乗じた額の5割から7割程度にとどまるのが実情です。この構造については過去記事「共有名義の不動産が売れない?共有減価の実態と3つの解決策を鑑定士が解説」で詳しく扱っています。

そこで取得側は「相手が持っているのはあくまで共有持分であり、市場価値は減価後の金額だ。賠償額もそれに準じるべきだ」と主張します。

しかし、この主張は全面的価格賠償の場面では通りにくいと考えられます。理由は明快です。全面的価格賠償によって、取得者は共有状態を解消し、単独所有者となる利益を得ているからです。共有減価は「共有のままでは市場性が乏しい」ことに由来する減価であり、その共有状態を解消する手続の中で、解消の利益を得る側だけが減価の恩恵を受けるのは、平成8年判決のいう「共有者間の実質的公平」に反します。

実務上も、全面的価格賠償における賠償額は、共有持分としての市場価格ではなく、単独所有を前提とした全体価格に持分割合を乗じた額を基礎とするのが基本的な考え方です。

2-3. 数値で見る三者の差

先ほどの例で、3つの解決策を比較してみましょう。全体価格6,000万円、持分各2分の1のケースです。

解決策持分を手放す側の受取額前提
全面的価格賠償3,000万円全体価格 × 1/2
持分のみを業者に売却1,500万〜2,100万円全体価格 × 1/2 × 50〜70%
換価分割(競売)約1,800万円落札価格を市場価格の6割と想定し、諸費用控除前

差は歴然です。持分を手放す側にとって、全面的価格賠償は最も回収額が大きい解決策となります。逆にいえば、取得する側にとっては最も負担が重い方法であり、だからこそ賠償額をめぐる争いが激しくなるわけです。

なお、賠償額とは別に、一方が共有物を単独で使用してきた場合の使用利益(賃料相当額)の清算が問題になることがあります。これは共有物分割とは別個の不当利得ないし損害賠償の問題として整理されるのが通常で、こちらの算定にも継続賃料(すでに賃貸借等の契約関係がある場合に、その契約の継続を前提として求められる賃料)の評価が必要になります。

第3章:訴訟で鑑定評価をどう使うか

3-1. 裁判所鑑定を待つか、私的鑑定を先に出すか

共有物分割訴訟では、裁判所が鑑定人を選任して鑑定を実施することが一般的です。しかし、裁判所鑑定の結果を待つだけでは、主張の主導権を握れません。

訴訟提起前あるいは早い段階で私的鑑定を取得しておく意義は、次の3点にあります。

  1. 請求額の根拠を数字で示せる――「持分相当額の支払いを求める」という抽象的な請求ではなく、具体的な金額とその算定根拠を最初から提示できる
  2. 裁判所鑑定の結果を検証できる――鑑定書が出てきたときに、事例の選択や補正率の妥当性を専門的な観点から吟味し、必要なら意見を述べられる
  3. 和解の土台になる――当事者双方が納得できる第三者の評価があれば、判決を待たずに和解で終結する可能性が高まる

裁判所鑑定と私的鑑定の位置づけの違いについては、過去記事「裁判所の不動産鑑定とは?私的鑑定との違い・費用負担を鑑定士が解説」で整理しています。

3-2. 訴訟前の交渉段階でこそ効く

もっとも効果的なのは、訴訟に至る前の段階です。

共有者間の対立の多くは、感情ではなく情報の非対称から生じます。一方は「うちの土地は8,000万円はする」と信じ、他方は「せいぜい5,000万円だ」と考えている。この状態では、どんな条件を提示しても相手には不当な提案に見えます。

第三者である不動産鑑定士が価格を示し、その算定過程を文書で明らかにすることで、議論の土台が共通化します。そこから初めて、「では誰が取得し、いくら支払うか」という建設的な協議が始まります。訴訟を経ずに解決できれば、双方にとって時間も費用も大幅に節約できます。

3-3. 費用と期間の目安

共有物分割を目的とする鑑定評価の費用は、対象不動産の種類や規模、調査の難易度によって変動しますが、一般的な戸建住宅や土地であれば数十万円程度からが目安となります。数千万円の賠償額をめぐる争いにおいて、この投資が見合わないケースはまれでしょう。

期間は、資料が揃っている場合で概ね2〜3週間程度です。訴訟のスケジュールに合わせて調整することも可能ですので、まずは対象不動産の概要をお知らせください。

当事務所では、共有物分割や遺産分割をめぐる紛争案件についても対応しており、弁護士の先生との連携を前提とした進め方にも対応いたします。

まとめ

全面的価格賠償は、共有不動産の紛争において最も損失の小さい解決策ですが、その賠償額をどう算定するかは条文に書かれておらず、鑑定評価が実質的に結論を左右します。

要点を振り返ります。

  • 令和5年4月1日施行の改正民法第258条第2項により、賠償分割は現物分割と並ぶ第一次的な選択肢として明文化され、競売は劣後する位置づけになった
  • 最高裁平成8年10月31日判決は全面的価格賠償の要件として「価格が適正に評価され」ることを挙げており、価格の適正性が疑われれば賠償分割自体が認められない
  • 賠償額は共有持分としての市場価格ではなく、単独所有を前提とした全体価格に持分割合を乗じた額を基礎とするのが基本であり、共有減価をそのまま織り込む主張は実質的公平の観点から通りにくい
  • 全体価格6,000万円・持分2分の1のケースでは、全面的価格賠償3,000万円に対し、持分売却は1,500万〜2,100万円、競売では約1,800万円と、回収額に大きな差が生じる
  • 私的鑑定を早期に取得することで、請求額の根拠提示・裁判所鑑定の検証・和解の土台形成という3つの効果が得られる

共有不動産の分割で相手方と評価額が折り合わず、訴訟や調停を視野に入れておられる弁護士の先生方へ。訴訟における鑑定評価についても対応しており、訴訟前の交渉段階からのご相談も歓迎しています。

訴訟・調停における鑑定評価のご依頼、初回のお打ち合わせは無料です。ぜひ一度ご相談ください。

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