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マンション建替え決議は4分の3で可能に?2026年施行の改正区分所有法と「評価」の争点を不動産鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
青空を背景にローアングルで見上げた高経年マンション

はじめに

「うちのマンションも古くなってきたが、建替えなんて反対する人がいて絶対に無理だろう」

築40年、50年を迎えたマンションの管理組合で、こうした諦めの声を耳にすることが増えました。実際、これまでの法制度のもとでは、建替えには区分所有者および議決権の5分の4以上という高いハードルがあり、たった一人の連絡の取れない所有者、数人の反対者のために再生の議論が止まってしまうケースが後を絶ちませんでした。

この状況を変えるため、2025年5月に区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)等の改正が成立し、2026年4月1日に施行されました。今回の改正は、単なる要件の微調整ではありません。建替え決議の要件が一定の場合に4分の3へ緩和されるとともに、建替え以外の再生の選択肢が法律上のメニューとして整備される、マンション法制の歴史でも大きな転換点にあたる改正です。

そして、ここからが私たち鑑定士の視点です。決議のハードルが下がるほど、賛成する人と反対する人の間で「価格」をめぐる争いが増えます。売渡請求の価格、分配金の額、従前資産の評価。再生のどの道を選んでも、必ず不動産の評価が結論を左右する場面が現れます。

この記事では、改正の内容を整理したうえで、管理組合と区分所有者が今から準備すべきこと、そして評価が争点になる場面を解説します。

第1章:何が変わったのか ― 改正の3つの柱

1-1. 建替え決議要件の緩和

これまで、マンションの建替え決議には区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成が必要でした(区分所有法第62条)。

2025年5月に成立した改正法は、この原則を維持しつつ、耐震性の不足、外壁の剥落による危険、給排水管の腐食など、一定の客観的な事由が認められる場合には、決議要件を4分の3以上に緩和することとしました。

「5分の4」と「4分の3」。数字の上では5パーセントポイントの差にすぎないように見えますが、実務への影響は小さくありません。総戸数100戸のマンションであれば、必要な賛成は80戸から75戸へ。反対・態度未定が20戸あれば止まっていた計画が、25戸までは許容されることになります。合意形成の現場では、この5戸分の差が計画の成否を分けることがあります。

1-2. 所在等不明区分所有者の除外

高経年マンションの合意形成を阻んできたもうひとつの壁が、連絡の取れない区分所有者です。相続が繰り返されて所有者が特定できない、海外に転居して連絡がつかない。こうした所有者は、決議に参加しないまま「分母」に残り続け、実質的に反対票と同じ効果を持っていました。

改正法は、裁判所の関与のもとで、所在等が不明な区分所有者を決議の母数から除外できる制度を設けました。分母から除かれれば、残った区分所有者だけで所定の割合を満たせばよいことになります。空き住戸の増えた高経年マンションほど、この改正の恩恵は大きくなります。

1-3. 再生メニューの多様化 ― 建替えだけではなくなった

今回の改正で最も注目すべきなのが、再生の選択肢の拡充です。従来、多数決でできる再生手法は実質的に「建替え」と、被災区分所有建物等に限られた「敷地売却」くらいでした。改正法は、多数決による決議で選べるメニューとして、次のような選択肢を整備しました。

選択肢内容
建替え既存建物を取り壊し、新たな建物を建築する
建物・敷地の一括売却建物と敷地を一体としてデベロッパー等に売却する
建物の取壊し+敷地売却建物を取り壊したうえで敷地を売却する
建物の取壊し建物を取り壊し、敷地は共有のまま残す
建物更新(大規模改修等)建物の主要部分を更新して長寿命化する

これは実務感覚に合った改正です。建替えは、容積率に余剰があって保留床(再建後の建物のうち、外部に分譲して事業費に充てる床)を売れる立地でなければ、各区分所有者の負担が数千万円に達することもあります。「建て替えられないなら何もできない」から「売って分配する」「壊して土地を売る」「直して延命する」まで、経済合理性で選べるようになったことの意味は大きいといえます。

なお、改正法は2026年4月1日に施行されており、これらの決議はすでに利用できる制度となっています。もっとも、細部の運用は今後の政令・省令や裁判例の集積によって固まっていく段階のため、実際に決議を検討する際には最新の運用状況を確認する必要があります。

第2章:どの道を選ぶか ― 経済比較の視点

2-1. 選択肢を分ける2つの変数

再生メニューが増えたことで、管理組合は「どの道が組合員にとって最も合理的か」を比較検討する責任を負うことになりました。比較の軸は、突き詰めれば2つです。

第一に、立地の市場価値。 敷地の価値が高く、デベロッパーが取得を望む立地であれば、一括売却や建替え(保留床処分による負担軽減)が現実的になります。逆に郊外で敷地価値が低ければ、売却しても分配金がわずかとなり、改修による延命が相対的に有利になります。

第二に、建物の残存価値と改修費用。 躯体がしっかりしており、給排水管や設備の更新で20年、30年使えるのであれば、建物更新の費用対効果が高まります。

2-2. 数値で比較する ― 3つの道のシミュレーション

総戸数50戸、築45年、駅徒歩8分のマンションを想定して、単純化した比較をしてみましょう。

選択肢A:建替え

  • 新築後の専有面積を維持する場合の一戸あたり負担:約1,800万円
  • ただし容積率の余剰で10戸分の保留床を分譲できれば、負担は約1,200万円まで軽減

選択肢B:建物・敷地の一括売却

  • 売却総額12億5,000万円と査定された場合、一戸あたり分配金:約2,500万円
  • 各自はこの分配金を元手に住み替え。ただし近隣で同等の住居を取得するには不足が生じ得る

選択肢C:建物更新(大規模改修)

  • 給排水管更新・耐震補強・外壁改修の総額3億円、一戸あたり負担:約600万円
  • 建物の寿命を25年延長。ただし25年後に同じ問題に再び直面する

どれが正解かは、立地と建物と、そして区分所有者それぞれの事情によって変わります。高齢で住み替え資金を確保したい人には売却が、住み続けたい人には改修が、資産価値の最大化を狙う人には建替えが、それぞれ魅力的に映るでしょう。だからこそ、判断の前提となる数字——敷地の価値、売却想定額、改修後の価値——を客観的に揃えることが、合意形成の出発点になります。

2-3. 判断を誤らせる「見えないコスト」

比較の際に見落とされがちな要素を3つ挙げておきます。

仮住まいと引越しのコスト。 建替えでは2〜3年の仮住まいが必要です。賃料と引越し費用で一戸あたり数百万円規模になります。

時間のコスト。 建替えは決議から入居まで5年以上かかることが珍しくありません。高齢の区分所有者にとって、この時間は金銭に換算できない重みを持ちます。

反対者対応のコスト。 決議が成立しても、反対者への売渡請求の手続きと、その価格をめぐる紛争の可能性が残ります。次章で詳しく見ます。

第3章:評価が争点になる場面

3-1. 売渡請求の「時価」

建替え決議が成立すると、決議に賛成しなかった区分所有者に対しては、参加者側から区分所有権および敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求できます(区分所有法第63条)。

ここでいう「時価」とは何か。判例・実務では、建替えを前提としない現状のままの価格ではなく、建替えによる開発利益を織り込んだ価格とすべきとされる場面があり、評価は単純ではありません。老朽化した建物の区分所有権そのものの市場価値は低くても、その敷地利用権には再開発の期待が乗っているからです。

反対した区分所有者にとって、この売渡価格は「住み慣れた家を手放す対価」です。低すぎる価格提示は紛争を長期化させ、結果として計画全体を遅らせます。逆に賛成者側にとっては、過大な価格は事業採算を毀損します。双方が納得できる時価の算定こそ、再生事業の隠れた成否の鍵なのです。

3-2. 分配金と従前資産の評価

一括売却や敷地売却を選んだ場合は、売却代金を各区分所有者に分配することになります。また建替えでは、従前の専有部分の価値に応じて再建建物の権利床が配分されます(権利変換)。

ここで必ず問題になるのが、住戸ごとの価値の較差です。同じマンション内でも、階数、方位、角部屋か否か、眺望、専有面積によって市場価値は異なります。1階の北向き住戸と最上階の南東角住戸を同じ「持分割合どおり」で分配すれば、必ず不満が出ます。かといって較差のつけ方に客観的な根拠がなければ、それ自体が紛争の火種になります。

この場面で用いられるのが、効用比(各住戸の相対的な価値の比率)による調整です。各住戸の位置・環境による価値の違いを評価し、分配や権利変換の基礎とする。管理組合の内部で誰かが決めるのではなく、利害関係のない専門家が算定することに意味があります。

3-3. 決議の前から評価は始まっている

評価が必要になるのは、決議の後だけではありません。

そもそも、どの再生メニューを選ぶかの比較検討には、敷地の更地価格、一括売却の想定価格、改修後の価値といった数字が不可欠です。これらの数字が曖昧なまま総会に諮れば、「本当にその金額で売れるのか」「建替え負担額の根拠は何か」という疑問に答えられず、合意形成は進みません。

管理組合の理事会・検討委員会の段階で、選択肢ごとの経済比較を客観的な評価に基づいて示すこと。これが、改正法時代のマンション再生の実務における第一歩になると考えます。

なお、決議の手続きや売渡請求の行使など法律面の進め方については、マンション問題に精通した弁護士にご確認ください。

まとめ

2025年の区分所有法等の改正は、決議要件の緩和と再生メニューの多様化により、高経年マンションの再生を「動かせる」ものに変えました。同時に、多数決で少数者の権利を動かす場面が増える以上、価格の客観性がこれまで以上に問われる時代になります。

要点を振り返ります。

  • 2025年5月に成立し2026年4月1日に施行された改正により、耐震性不足等の客観的事由がある場合の建替え決議は5分の4から4分の3へ緩和され、所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外する制度も設けられた。
  • 再生の選択肢は建替えに加え、建物・敷地の一括売却、取壊し+敷地売却、取壊し、建物更新へと拡充され、立地と建物の状態に応じた経済合理的な選択が可能になった。
  • どの道を選ぶかは敷地の市場価値と建物の残存価値・改修費用で決まり、仮住まい費用や時間といった見えないコストも含めた比較が必要になる。
  • 決議に賛成しなかった区分所有者への売渡請求では「時価」の算定が最大の争点となり、開発利益の織り込み方によって金額が大きく変わる。
  • 分配金や権利変換では住戸間の効用比による較差調整が不可欠であり、利害関係のない専門家による評価が合意形成の基盤になる。

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