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不動産鑑定士には何を頼める?依頼しない理由の1位は「費用」ではなかった|国交省調査を鑑定士が解説

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
夜の路地からガラス越しに見える打ち合わせ中の2人と書類

はじめに

「不動産鑑定士に相談してみたいけれど、そもそも何を頼めるのかが分からない」

こう感じたことはないでしょうか。あるいは、「相談したら高額な見積りが出てきそうで、最初の一歩が踏み出せない」と考えて、そのままにしている案件をお持ちかもしれません。

実は、この感覚には裏付けがあります。国土交通省 不動産・建設経済局 土地経済課と公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会が令和8年3月に公表した「不動産鑑定士のコンサルティング業務領域拡大のための参考マニュアル」には、全国の自治体901部署を対象とした調査結果が収録されています。そこで明らかになったのは、依頼をためらわせている最大の要因が「費用が高いこと」ではなかったという事実でした。

私たち鑑定士の側にも、率直に申し上げて責任があります。何ができるのかを十分に発信してこなかったからこそ、「価格を出してもらう人」という一面だけが知られているのです。

この記事では、同マニュアルのデータを手がかりに、不動産鑑定士に何を依頼できるのか、その法的な位置づけはどうなっているのか、そして報酬はどのような考え方で決まるのかを整理します。企業経営者様、地権者様、そして日頃から不動産案件を扱われる士業の先生方に、判断材料としてお使いいただければ幸いです。

第1章:調査が映し出した「知られていない」という壁

1-1. 8割が「依頼したことがない」

この調査は、令和7年12月24日から令和8年1月29日にかけて、都道府県および市区町村の関係部署を対象にWEBアンケート方式で実施されました。回答は都道府県の部署から69件、市区町村の部署から832件の計901件。地域別の内訳は都市部298件、地方部603件で、回答部署の3分の2は人口10万人未満の自治体です。

不動産鑑定士へのアドバイス・コンサルティング業務の依頼実績を尋ねた結果は、次のとおりでした。

回答件数構成比
不動産鑑定士に依頼したことがある142件15.8%
不動産鑑定士へ依頼したことはないが、不動産鑑定士以外(宅建業者など)に依頼したことがある32件3.6%
依頼実績はない727件80.7%

8割が「依頼したことがない」。しかもこれは、日常的に土地の取得・処分・管理を扱っている行政の部署の回答です。不動産を専門に扱う組織ですら、この数字なのです。

1-2. 障害の正体は「業務範囲が不明確」

では、なぜ依頼しないのか。不動産鑑定士への依頼実績がない759部署(上の表の下2行の合計)に理由を尋ねた結果(複数回答、総回答877件)が、この記事の核心です。

依頼する上での障害件数構成比
業務範囲が不明確333件38.0%
コスト(報酬が高い)142件16.2%
他の専門家との役割重複65件7.4%
その他337件38.4%

具体的な選択肢のなかで最も多かったのは「業務範囲が不明確」であり、「コスト(報酬が高い)」の2倍以上に達しています。

断言しますが、これは価格の問題ではありません。何を頼めるかが伝わっていないという、情報の問題です。同マニュアルも「不動産鑑定士は不動産の鑑定評価に限らない不動産の専門家であること、売買の関係者ではない第三者の立場でアドバイスできること等をPRしていくことで職業としての認知度を高めていくことが重要」と結論づけています。

1-3. 実際に依頼された業務の第1位は「鑑定前相談」

もう一つ、意外に思われるかもしれないデータがあります。実際に不動産鑑定士へ依頼した経験のある142部署に、その業務内容を尋ねた結果です(複数回答、総回答207件)。「その他」を除く上位5項目を挙げます。

依頼した業務件数構成比
鑑定前相談(鑑定評価に先立つ条件設定・対象確定などの相談)67件32.4%
不動産の活用に関する相談57件27.5%
審議会への参画29件14.0%
市場調査・需要予測に関する相談10件4.8%
環境価値評価に関する相談8件3.9%

第1位は、鑑定評価そのものではなくその手前の相談でした。回答者の声として、「鑑定評価に先立って鑑定評価の条件等について事前に専門家である不動産鑑定士に直接相談することで、依頼者側の理解が深まり、安心感を持って依頼することができる」「不動産鑑定や意見書の発注前に確認ができたため、発注時の手戻りや変更作業が軽減された」といった記述が掲載されています。

なお、この調査は自治体を対象としたものであり、同マニュアル自体も、報酬に占める公的土地評価の割合が高い地方部の鑑定士を主な念頭に置いたものだと明記されています。ただ、「何を頼めるか分からないから頼まない」という構図は、企業でも個人でも変わらないと私たちは考えています。

不動産鑑定の依頼手順そのものについては、当事務所の過去記事「不動産鑑定の頼み方、完全ガイド ― 費用・流れ・選び方を現役鑑定士が徹底解説」もあわせてご覧ください。

第2章:鑑定士の業務は、法律上2つに分かれている

2-1. 「一項業務」——独占業務としての鑑定評価

不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年法律第152号)第3条第1項は、不動産の鑑定評価を不動産鑑定士の業務として定めています。ここでいう鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいい(同法第2条)、不動産鑑定士だけが行える独占業務です。

独占業務である根拠は同法第36条にあり、不動産鑑定士でない者が不動産鑑定業者の業務に関して鑑定評価を行うことを禁じています。成果物である不動産鑑定評価書は、同法第39条により、不動産鑑定業者が依頼者に交付することを義務付けられた文書です。裁判所、税務署、金融機関において、価格の根拠として通用します。

この業務に求められるのは、厳格な客観性と中立性です。依頼者に有利な数字を出すことはできません。それが公的な証明力の源だからです。

2-2. 「二項業務」——調査・分析・相談

一方、同条第2項は、不動産鑑定士がその名称を用いて、次の業務を行えると定めています。

  • 不動産の客観的価値に作用する諸要因に関する調査または分析(Analysis)
  • 不動産の利用、取引もしくは投資に関する相談に応じる業務(Advisory)

同マニュアルは、この二項業務を「コンサル業務」として整理しています。鑑定評価の隣接・周辺業務という位置づけです。

ここが決定的に違うのは、依頼者に寄り添って助言を行う業務であるという点です。同マニュアルも「鑑定評価業務は厳格な客観性及び中立性が求められる業務である一方、コンサル業務は依頼者のニーズに即した助言・提案を行うことを本旨とする業務であり、両者はその性質において相反する側面を有する」と明記しています。

2-3. 2つの業務を並べて比べる

観点一項業務(鑑定評価)二項業務(調査・分析・相談)
内容経済価値を判定し価額に表示価値に作用する要因の調査・分析/利用・取引・投資の相談
担い手不動産鑑定士の独占業務不動産鑑定士が名称を用いて行える業務
成果物不動産鑑定評価書(交付義務あり)報告書、レポート、口頭の助言など柔軟
立場厳格な客観性・中立性依頼者のニーズに即した助言
報酬対象不動産の規模・種別・評価額に応じた体系業務量(時間)や依頼者が得る便益をもとに算定

なお、価格を示す業務のすべてが鑑定評価にあたるわけではありません。経済価値の判定を伴わない価格調査は価格等調査ガイドラインの射程に入りますが、一項業務としての鑑定評価とは性格が異なります。この線引きについては、当事務所の過去記事「『簡易鑑定』という業務は存在しない?不動産鑑定士が解説する価格等調査との正しい使い分け」で詳しく整理しています。

第3章:実際に何を頼めるのか——22の事例から

同マニュアルには、実際にコンサル業務に取り組む11業者への個別ヒアリングをもとに、22の取組事例が掲載されています。そのなかから、企業・個人のお客様にも当てはまる場面を取り上げます。

3-1. 「取り壊すか、貸し続けるか」の前さばき

築30年ほどの賃貸物件について、取り壊して更地にするか、継続利用するかを決めきれずにいた依頼者に対し、鑑定士が現地を確認し、借り手が見込めそうかを関係事業者にヒアリングして整理した事例が紹介されています。当初は取り壊す方向で話が進んでいましたが、公的機関から賃借の申し出があり、結果として賃貸することになりました。

この事例で担当した鑑定士は、「鑑定評価における最有効使用判断の部分だけを切り取ってみても、十分にアドバイスできる場面があるのではないか」と述べています。最有効使用とは、その不動産について客観的にみて最も高い効用を発揮する使い方のことで、鑑定評価の出発点となる判断です。

企業の保有不動産全体を対象とする考え方は、当事務所の過去記事「500兆円超の眠れる資産 ― 企業不動産を経営の武器に変える『CRE戦略』とは」もご参照ください。

3-2. 相続した不動産をどう分けるか

相続により兄弟間の共有となり、活用できていなかった土地について、等価となる分割方法を提案した事例があります。分割案の検討にあたっては税理士と協力し、土地家屋調査士とも連携して、等価交換として課税関係が生じないように分割形状を整理したと記載されています。

同じ面積で分ければ公平、とは限りません。角地とそうでない部分、間口の広い部分と狭い部分では、単位面積あたりの価値が異なるからです。この差を数字で示すことが、二項業務としての助言にあたります。

なお、課税関係の判断そのものは税理士の職域です。具体的な税額や申告の可否については、必ず税理士にご確認ください。

3-3. 賃料の増額請求を受けたとき

継続賃料(既存の賃貸借契約を続ける前提で、契約当事者間について求める賃料)の増額請求を受けたビルオーナーからの相談に対し、継続賃料の考え方を踏まえて交渉の進め方を助言した事例も掲載されています。ポイントとして、相場賃料の上昇があっても直ちにその水準まで引き上げられるわけではないことを整理し、相手方の理解を得るための説明方法を示した、とされています。

この論点は、当事務所の過去記事「賃料の値上げ交渉で『新規相場』は通用しない|継続賃料4手法を不動産鑑定士が解説」で手法まで踏み込んで解説しています。

3-4. 顧問契約という関わり方

単発の依頼だけが選択肢ではありません。税理士事務所と顧問契約を結び、職員向けの研修会やゼミを開催して鑑定評価の考え方を提供している事例が紹介されています。そこには、「対象不動産の確定、市場性の評価、最有効使用の判断等、鑑定評価手順の1つ1つだけでも、鑑定士以外の方にとって価値がある情報」という指摘が添えられています。

また、農業協同組合と顧問契約を締結し、年間の基本金額と件数単価を組み合わせた契約形態で、担保不動産の価格等調査を継続的に実施している事例もあります。

3-5. 他社の評価に違和感があるとき

第三者的・専門的立場からのセカンドオピニオンによって、依頼者の判断の妥当性の確認や意思決定の補強に資する場合がある、と同マニュアルは述べています。提示された価格に納得がいかないとき、その違和感の正体を言語化することも二項業務です。詳しくは当事務所の過去記事「不動産の価格に違和感を感じたら―鑑定士のセカンドオピニオンが必要な5つの場面」をご覧ください。

第4章:報酬はどう決まるのか——「A+A」という考え方

4-1. 助言が無償になってしまう構造

同マニュアルが正面から取り上げた問題があります。鑑定評価と一体で助言を行う場合、いわゆるA+A(Appraisal and Advisory)の場面です。

当該業務が不動産の鑑定評価と別の業務として認知されにくく、結果として、鑑定評価としての業務の一環として無償で行うことに繋がっている可能性がある

実際、令和6年度に実施された鑑定業者向けのアンケート(221業者・386件の業務について回答)では、報酬を得ている業務が288件(74.6%)である一方、報酬を得ていない業務が98件(25.4%)ありました。4件に1件は無報酬だったということです。

4-2. 数字で見る、切り分けの効果

具体的に考えてみましょう。ある土地について鑑定評価をご依頼いただき、その前段で活用方針の検討に相当の時間を要したケースを想定します。

ケースA:切り分けない場合

項目報酬
不動産鑑定評価報酬30万円
事前の活用方針の検討(10時間)0円(鑑定評価に含めて処理)
合計30万円

ケースB:切り分ける場合

項目報酬
不動産鑑定評価報酬(3条1項)30万円
助言業務報酬(3条2項・仮に3万円/時間×10時間)30万円
合計60万円

金額だけを見れば「倍になった」と映るかもしれません。しかし、依頼者側にとっての意味はそこではありません。ケースBでは、どこまでが法定の鑑定評価で、どこからが助言なのかが明示されるため、助言部分だけを縮小したり、追加で発注したりという調整が可能になります。ケースAは、一見お得に見えて、実は何にいくら払っているのかが分からない状態なのです。

4-3. 「不動産鑑定評価・助言書」という様式

こうした問題意識から、日本不動産鑑定士協会連合会は同マニュアルのなかで報告書の様式例を示しました。

成果物の名称を「不動産鑑定評価・助言書」とし、次の2部構成にするものです。

  • 第1部:不動産鑑定評価書(鑑定評価法第3条第1項に該当)
  • 第2部:不動産鑑定評価に関連する隣接・周辺業務(助言)の報告書(同第3条第2項に該当)

冒頭には、両者が一体の書面でありながら業務の性格は異なることを明示する文章を置きます。同マニュアルは、その趣旨を「不動産鑑定業者・依頼者という受発注者双方の認識のギャップが生じないようにするため」と説明しています。

4-4. 報酬の決め方は一通りではない

同マニュアルは、報酬額の決定方法として「案件毎の人工計算、タイムチャージ制、顧問契約(定期的な定額支払)、依頼主との調整など」があり、その方法は様々であると述べています。人工計算とは、業務に要する延べ作業日数に単価を乗じて積算する方法です。

そして、一項業務と二項業務では報酬の考え方そのものが異なると指摘します。一項業務が評価額に応じた報酬体系となることが一般的なのに対し、二項業務には評価額に相当するものが通常ありません。そのため、提供する業務コスト(人件費等)や、依頼者側に得られる便益をベースに構成することが考えられる、というのが同マニュアルの整理です。

さらに実務上の注意として、コンサルタント業務は依頼内容が業務の途中で変更されることも少なくないため、当初契約の段階から、最終段階での報酬の清算の当否について受発注者双方で予め合意しておくことが、後々のトラブル・混乱の回避につながるとしています。

まとめ

不動産鑑定士に依頼が届かない最大の理由は、報酬の高さではなく「何を頼めるか分からない」ことでした。

要点を振り返ります。

  • 国土交通省と日本不動産鑑定士協会連合会の調査(令和8年3月公表・901件回答)では、鑑定士へのコンサル業務の依頼実績がない部署が80.7%を占め、その障害として具体的な選択肢のなかで最多だったのは「業務範囲が不明確」(38.0%)であり、「コスト(報酬が高い)」(16.2%)を大きく上回った
  • 不動産鑑定士の業務は、独占業務である鑑定評価(3条1項)と、調査・分析・相談(3条2項)の2つに法律上分かれており、後者は依頼者のニーズに即して助言する業務である
  • 実際に依頼された業務の第1位は「鑑定前相談」(32.4%)であり、取り壊しか継続利用かの判断、共有不動産の分割案の検討、賃料交渉の進め方、顧問契約による継続的な関与など、価格を出すこと以外の場面で鑑定士は機能する
  • 鑑定評価と助言を一体で行う場合は、成果物を「第1部:不動産鑑定評価書/第2部:助言の報告書」と区分することで、何にいくら払っているかが双方にとって明確になる
  • 「価格を出す人」という理解は半分だけ正しく、残りの半分にこそ、日常の意思決定を支える出番がある

保有不動産の方針を決めかねている企業経営者様、賃料や借地の条件でお悩みの地権者様、そして不動産が絡む案件を抱えておられる士業の先生方。まずは「これは鑑定評価が必要な話なのか、それとも相談で足りる話なのか」というところからで構いません。保有不動産の活用方針、賃料の見直し、相続や共有の整理——その見極めからご一緒します。初回の無料相談も承っております。ぜひ一度ご相談ください。

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