市街化調整区域の土地は本当に売れないのか?価格が10倍変わる4類型を不動産鑑定士が解説

はじめに
「市街化調整区域なので、家は建てられません。値段もほとんどつきません」
親から農地や山林を相続した方、あるいは郊外の土地を長年保有してきた方が、不動産会社からこう告げられる場面は珍しくありません。固定資産税は毎年かかる。管理の手間もかかる。それなのに売ることもできない。相続した瞬間に負債を抱えたような気持ちになる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、この説明は正確ではありません。市街化調整区域の土地であっても建築が認められる場合は数多く存在し、実際に売買も成立しています。そして重要なことに、同じ市街化調整区域内でも、建築の可否によって価格は5倍から10倍も違うのです。
にもかかわらず、市場では「調整区域だから安い」という一括りの説明で処理されがちです。その結果、建てられる土地が建てられない土地と同じ値段で売られてしまうことが起こります。相続の遺産分割においても、この違いが認識されないまま分割が進めば、特定の相続人だけが不利益を被ります。
この記事では、都市計画法が定める仕組みを整理したうえで、どの土地なら建てられるのか、価格はどこまで違うのか、そして所有者は何から確認すべきかを、不動産鑑定士の視点で解説します。
第1章:市街化調整区域とは何か
1-1. 「線引き」という都市計画の骨格
都市計画法第7条は、都市計画区域について、市街化区域と市街化調整区域に区分することができると定めています。これがいわゆる「線引き」です。
市街化区域は「既に市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」と定義されます。
これに対し市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」と定義されます。抑制すべき、という表現に注目してください。市街化調整区域は、開発を禁止する区域ではなく、原則として抑制しつつ、必要な場合には例外的に認める区域なのです。
この制度が導入された背景には、無秩序な市街地の拡大(スプロール現象)を防ぎ、道路や上下水道といったインフラ整備を効率化するという政策目的があります。つまり土地所有者の資産価値を守るための制度ではありません。だからこそ、所有者側が制度を正確に理解し、自分の土地がどの例外に当てはまるのかを自ら確認する必要があるのです。
1-2. 「建てられない」の正確な意味
市街化調整区域で建築が制限される仕組みは、二段構えになっています。
第一に、開発許可(都市計画法第29条)です。 土地の区画形質の変更を伴う場合、都道府県知事等の許可が必要になります。造成や区画割りを行う場合がこれにあたります。
第二に、建築許可(都市計画法第43条)です。 開発行為を伴わずに建築物を建てる場合であっても、市街化調整区域では原則として許可が必要です。すでに造成済みの土地に家を建てる場合がこちらです。
そしてどちらの許可も、都市計画法第34条が定める立地基準のいずれかに該当しなければ下りません。逆に言えば、34条のいずれかに該当すれば建築は可能ということです。「調整区域だから絶対に建てられない」という説明は、この点で不正確です。
1-3. 既存宅地制度の廃止という転換点
かつては「既存宅地制度」があり、線引き前から宅地であった土地は届出のみで建築できました。この制度は平成12年の都市計画法改正により廃止され、経過措置を経て完全に効力を失っています。
現在は、旧既存宅地に相当する土地の救済は、後述する第34条第11号や第12号に基づく条例指定という形に置き換えられています。
ここが実務上の落とし穴になります。「昔は建てられると聞いていた」という所有者の記憶や、古い資料に基づく不動産会社の説明が、現在の制度と食い違っているケースが多いのです。判断の基準は、必ず現時点の条例と運用基準に置く必要があります。
第2章:建てられる土地と建てられない土地を分けるもの
2-1. 都市計画法第34条の立地基準
都市計画法第34条は、市街化調整区域における開発許可の基準を第1号から第14号まで列挙しています。主なものを整理します。
| 号 | 対象となる開発行為 |
|---|---|
| 第1号 | 周辺居住者の日常生活に必要な店舗・診療所等 |
| 第4号 | 農林漁業用施設、農産物の処理・貯蔵・加工施設 |
| 第9号 | 沿道サービス施設(給油所、ドライブイン等) |
| 第10号 | 地区計画または集落地区計画に適合する開発行為 |
| 第11号 | 条例で指定した区域内における開発行為 |
| 第12号 | 条例で定める開発行為(分家住宅等) |
| 第14号 | 開発審査会の議を経て支障がないと認められるもの |
この一覧を見て気づいていただきたいのは、第34条が土地の性質ではなく「建てるものの用途と目的」で判断しているという点です。同じ土地でも、誰が何のために建てるかによって結論が変わります。分家住宅なら建てられるが、第三者が住宅を建てるなら建てられない、という事態が普通に起こるのです。
これが市街化調整区域の土地の流通を難しくしている根本原因です。所有者本人は建てられても、買主は建てられない。だから売れない。この構造を理解することが、価格を考えるうえでの出発点になります。
2-2. 実務で効く3つの号
数ある号の中で、住宅系の土地について実務上とりわけ重要なのが次の3つです。
第34条第11号は、市街化区域に隣接または近接し、おおむね50以上の建築物が連たん(建物が途切れずに連続して建ち並んでいること)している地域のうち、都道府県等が条例で指定した区域内であれば、一般的な開発行為を認めるものです。旧既存宅地制度の実質的な受け皿として機能しており、この区域内かどうかが土地価格を最も大きく左右します。
なお令和4年4月1日施行の改正都市計画法施行令により、いわゆる災害レッドゾーン(建築基準法第39条の災害危険区域、土砂災害特別警戒区域、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域、浸水被害防止区域)は、原則としてこの指定区域に含めてはならないこととされました。あわせて、浸水想定区域のうち浸水深が大きい区域等も原則として含めない運用が示されています。過去に区域内とされていた土地が、現在は対象外となっている可能性がある点に注意が必要です。
第34条第12号は、条例で定める開発行為を認めるもので、農家の分家住宅がその代表例です。ただし要件は厳格で、本家が線引き前から農業を営んでいること、申請者が本家の直系血族であること、他に住宅を所有していないことなどが求められます。
第34条第14号は、開発審査会の議を経て個別に判断されるものです。多くの自治体があらかじめ「開発審査会付議基準」を公表しており、既存建築物の建替えや、線引き前から宅地であった土地の取扱いがここで手当てされていることがあります。
2-3. 農地の場合は二重のハードル
対象地が農地である場合、都市計画法のハードルに加えて農地法の許可が別途必要になります。自ら転用する場合は農地法第4条、売却して転用する場合は同法第5条の許可です。
特に注意すべきは、農業振興地域の整備に関する法律に基づく農用地区域内農地(いわゆる青地)です。この区域内の農地は原則として転用が認められず、まず農用地区域からの除外手続き(農振除外)を経なければなりません。この手続きには通常1年程度を要し、しかも認められる保証はありません。
つまり青地の農地は、都市計画法と農地法という二重の制約下にあり、現実的には農地としての利用しか想定できません。価格もそれに応じた水準になります。
第3章:価格はどこまで下がるのか
3-1. 4つの類型で見る価格差
市街化調整区域の土地は、建築可能性に応じておおむね4類型に分かれます。
| 類型 | 内容 | 市街化区域の宅地を100とした水準 |
|---|---|---|
| 類型A | 第34条第11号の条例指定区域内で、第三者も住宅建築が可能 | 50〜70 |
| 類型B | 既存建築物の建替えのみ可能、または分家住宅等の限定的建築のみ可能 | 25〜45 |
| 類型C | 建築不可だが資材置場・駐車場等の雑種地利用が可能 | 10〜25 |
| 類型D | 農用地区域内農地(青地)で農地利用のみ | 3〜10 |
この幅の広さこそが、この記事で最もお伝えしたい点です。類型Aと類型Dでは、同じ市街化調整区域という言葉で括られながら、価格は10倍以上開くのです。
なお上記の水準はあくまで一般的な傾向であり、実際には市街化区域からの距離、道路付け、上下水道の引込み可否、周辺の建築実績によって大きく変動します。
3-2. 数値で見る具体例
首都圏近郊で、面積500平方メートルの土地を想定します。仮に同じエリアの市街化区域内の住宅地が1平方メートルあたり15万円(500平方メートルで7,500万円)だとしましょう。
- 類型A(11号条例区域内):1平方メートルあたり8万円前後 → 4,000万円
- 類型B(建替えのみ可):1平方メートルあたり5万円前後 → 2,500万円
- 類型C(雑種地利用のみ):1平方メートルあたり2万5,000円前後 → 1,250万円
- 類型D(青地農地):1平方メートルあたり8,000円前後 → 400万円
類型Aと類型Dの差は3,600万円です。相続の遺産分割で、この違いを「どちらも調整区域だから同じくらい」として処理してしまえば、取得する相続人によって数千万円の不公平が生じます。
3-3. 相続税評価と鑑定評価のズレ
相続税の計算では、市街化調整区域内の雑種地について、近傍の宅地の価額を基礎とし、そこから宅地造成費を控除したうえで、建築制限の程度に応じた「しんしゃく」(法的規制による減価を織り込む調整)を行う方法が採られます。国税庁が示す評価実務の取扱いでは、周囲の状況と建築可能性に応じて、しんしゃく割合を50パーセント、30パーセント、ゼロといった区分で適用することとされています。
一方、不動産鑑定評価にはこうした定型的な割合の定めはありません。市場でその価格でしか取引されないのであれば、8割減でもその水準が正常価格(合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格。不動産鑑定評価基準)となります。
したがって、相続税評価額が実際の売却可能価格を大きく上回る逆転現象が起こり得ます。特に類型Cや類型Dの土地では、この乖離が顕著です。税務上は数千万円の財産として課税されながら、現実には数百万円でしか売れないという状況です。
このような場合、鑑定評価による時価の把握が、遺産分割の公平性を確保するうえで実務的な意味を持ちます。なお相続税の申告における具体的な評価方法や、鑑定評価を申告に用いる場合の判断については、税理士にご確認ください。
第4章:所有者が取るべき実務対応
4-1. まず確認すべき4つのこと
「調整区域だから価値がない」という説明を受け入れる前に、次の4点を確認してください。いずれも役所で無料または低額で確認できます。
第一に、第34条第11号の条例指定区域に入っているか。 都市計画課または開発指導課で確認します。この一点で価格が倍以上変わります。
第二に、開発審査会の付議基準に該当する可能性があるか。 多くの自治体が基準を公表しています。線引き前から宅地であった土地は、ここで救済されている場合があります。
第三に、農地であれば農振農用地区域(青地)かどうか。 農業委員会または農政課で確認します。青地か白地かで評価は根本的に変わります。
第四に、上下水道の引込み状況。 前面道路に本管が来ているか、引込みに何百万円かかるかは、造成費として価格に直接反映されます。
4-2. 出口の選択肢を整理する
確認の結果に応じて、現実的な出口は次のように分かれます。
類型Aであれば、一般の売却市場で十分に流通します。 ただし買主も金融機関も「調整区域」という言葉に警戒するため、条例指定区域内であること、建築が可能であることを裏付ける資料を売主側で用意しておくことが、価格を守るうえで効果的です。
類型Bであれば、買主は限定されます。 分家住宅の要件を満たす近隣の農家、あるいは既存建物を活用したい事業者が主な相手になります。時間をかけた相手探しが必要です。
類型Cであれば、建築を前提としない用途で価値を出すことになります。 資材置場、トラック駐車場、太陽光発電用地、コンテナヤードなど、幹線道路沿いであれば一定の賃料収入が見込めます。収益が上がれば収益還元法(Income Approach。その不動産が生み出す純収益から価格を求める手法)で評価でき、投資家への売却も視野に入ります。
類型Dであれば、農地としての売却または貸付が基本です。 農地中間管理機構(農地バンク)を通じた貸付や、周辺農家への売却が現実的な選択肢になります。相続土地国庫帰属制度の対象となるかどうかも、あわせて検討する価値があります。
4-3. 鑑定評価が有効な場面
市街化調整区域の土地について、鑑定評価が特に力を発揮するのは次の場面です。
遺産分割協議で、複数の土地を相続人間で分ける場合。 調整区域の土地が複数あり、それぞれ建築可能性が異なるとき、一律の掛け目では公平な分割になりません。類型ごとの価格差を根拠とともに示すことで、協議が前に進みます。
買取業者の提示額を検証したい場合。 「調整区域なので」という理由で提示された金額が、類型Aの土地に対する類型Cの価格になっていないか。検証には制度の理解が不可欠です。
法人が保有する遊休地の帳簿価額を見直す場合。 長年保有してきた調整区域の土地が、帳簿価額と時価で大きく乖離していることがあります。
まとめ
市街化調整区域の土地は、一律に無価値なのではありません。都市計画法第34条のどの号に該当するかによって、価格は10倍以上の幅で変動します。
要点を振り返ります。
- 市街化調整区域は開発を禁止する区域ではなく「市街化を抑制すべき区域」であり、都市計画法第34条の立地基準に該当すれば建築は認められる。
- 第34条は土地の性質ではなく「誰が何のために建てるか」で判断するため、所有者は建てられても買主は建てられないという構造が流通を難しくしている。
- 実務上とりわけ重要なのは第11号の条例指定区域であり、この区域内かどうかで価格は倍以上変わる。ただし令和4年4月施行の改正により災害レッドゾーンは原則として指定区域から除外された。
- 建築可能性に応じた4類型では、市街化区域の宅地を100として50〜70から3〜10まで開きがあり、500平方メートルの土地で3,600万円もの差が生じ得る。
- 相続税評価額が実際の売却可能価格を上回る逆転現象が起こりやすいため、遺産分割の場面では時価の客観的な把握が公平性を左右する。
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