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温浴施設・サウナの価格はなぜ3倍も変わるのか?不動産鑑定士が解説する源泉・設備・オペレーターの3つの論点

公開日:執筆:不動産鑑定士 吉田健人
暖色の照明に照らされた木造サウナ室。サウナストーブに積まれた石から湯気が立ち、手前に木桶とひしゃくが置かれている

はじめに

サウナが日常語になりました。かつては「おじさんの施設」と見られていた温浴施設が、いまや若年層や女性を含む幅広い層を集める業態へと変わっています。既存の銭湯やスーパー銭湯にサウナ設備を増設する動き、廃業した温浴施設をリニューアルして再生する動きも各地で見られます。

こうした需要の高まりを受けて、温浴施設の売買や事業承継のご相談が増えています。しかし、いざ価格を検討する段になると、多くの当事者が壁にぶつかります。

「この施設はいくらなのか」を、誰も自信を持って言えないのです。

近隣の土地の相場から逆算しても意味がありません。建物の建築費から減価償却しても、実態からかけ離れた数字になります。かといって、売上高の何倍という業界の目安も、施設ごとの事情を無視した粗い目安に過ぎません。

温浴施設は、不動産の中でも評価が最も難しい部類に属します。この記事では、その難しさの正体を源泉・設備・オペレーターという3つの論点に分解して解説します。

第1章:温浴施設はオペレーショナルアセットである

1-1. 「箱」ではなく「事業」を評価する

温浴施設の評価が難しい根本の理由は、その価値が建物という物理的な器ではなく、そこで営まれる事業の収益力に由来する点にあります。

同じ建物でも、運営者が変われば売上が倍にも半分にもなります。逆に言えば、事業として成り立たなくなった瞬間、その建物は解体費用がかかるだけの負担に転じます。こうした不動産をオペレーショナルアセットと呼びます。

ホテル、老人ホーム、ゴルフ場、病院――評価が難しいとされる不動産の多くがこの分類に属します。それぞれの評価の考え方については、当事務所の過去記事「老人ホーム・介護施設の不動産評価はなぜ難しい?不動産鑑定士が解説するオペレーショナルアセットの考え方」や「ゴルフ場はいくらで売れるのか?50ヘクタール超の土地と事業を鑑定士が評価する方法」でも扱っています。

1-2. 原価法が機能しない

温浴施設の建物は、極めて特殊な構造をしています。

  • 大量の水を扱うための防水・排水設備
  • 高温多湿に耐える内装と換気・排気設備
  • ボイラー、熱交換器、ろ過循環装置といった大型機械設備
  • 大浴場という、柱の少ない大空間

これらは温浴施設としてしか使えません。建物としての再調達原価を求めて減価修正を行っても、その金額で買う人がいなければ、市場価値を表していないことになります。原価法による積算価格が市場の実態と乖離しやすいのは、このためです。

したがって評価の中心は収益還元法となり、事業から生じる収益のうち不動産に帰属する部分を切り出す作業が要となります。

1-3. 法規制の枠組みも押さえる

温浴施設は複数の法規制の下にあります。

公衆浴場法は、公衆浴場の経営について都道府県知事の許可を要するとし、構造設備の基準や衛生管理の基準を定めています。公衆浴場は一般公衆浴場(いわゆる銭湯)とその他の公衆浴場に区分され、スーパー銭湯やサウナ施設は通常、後者に該当します。

この区分は経済的にも重要です。一般公衆浴場の入浴料金は物価統制令に基づき都道府県が上限額を定めており、自由に価格を設定できません。一方、その他の公衆浴場にはこの規制が及ばず、価格設定は事業者の判断に委ねられます。近年のサウナ施設が高価格帯でも成立しているのは、この枠組みの違いが背景にあります。

温泉を使用する場合には、さらに温泉法の規律が加わります。土地を掘削して温泉を採取するには都道府県知事の許可が必要で、動力装置の設置や温泉の利用についても許可を要します。

第2章:3つの評価論点

2-1. 源泉――土地と別個に権利が動くことがある

温泉を利用する施設では、源泉の権利関係が土地とは別に存在していることがあります。

温泉を利用する権利は、古くから各地の慣習に根ざして形成されてきました。大審院昭和15年9月18日判決(鷹の湯温泉事件)は、温泉を利用する権利(湯口権)について、源泉地の土地所有権とは別個の、地方の慣習に基づく一種の物権的権利であることを認めました。実務上も、源泉の権利が土地とは別に売買・賃貸されることがあります。

このため、温浴施設の評価では次の確認が欠かせません。

  • 源泉は対象地内にあるのか、他所から引湯しているのか
  • 引湯の場合、引湯権の内容と対価、契約期間、更新条件はどうなっているか
  • 源泉が第三者所有の場合、その権利は施設の売買に伴って承継されるのか
  • 湧出量と泉温の推移はどうか、揚湯設備の更新時期はいつか

温泉は有限の資源です。湧出量の減衰や泉温の低下は、施設の商品力そのものを毀損します。過去の湧出量データの確認は、評価の前提として不可欠です。

2-2. 設備――更新負担が収益を食う

温浴施設の収益を語るうえで、避けて通れないのが設備更新の負担です。

ボイラー、給湯配管、ろ過循環装置、空調・換気設備――これらは常時、高温多湿と水にさらされ続けます。一般的なオフィスビルや商業施設に比べて、設備の劣化が速く、更新周期も短いのが温浴施設の特徴です。

評価においては、この更新費用(資本的支出)を将来のキャッシュフローから適切に控除しなければなりません。ところが、ここを軽視した収益価格が世の中には少なくありません。

具体例で考えてみましょう。

【前提】

  • 年間売上高:3億円
  • 不動産に帰属する純収益(賃料相当額):3,000万円(売上の10%)
  • 還元利回り(純収益を価格に換算する際に用いる利回り。数値が高いほど価格は低く算定される):8%

【資本的支出を考慮しない場合】

3,000万円 ÷ 0.08 = 3億7,500万円

【年平均2,000万円の資本的支出を控除する場合】

(3,000万円 - 2,000万円)÷ 0.08 = 1億2,500万円

同じ施設で、価格が3倍変わります。資本的支出の見立てが、温浴施設の評価における最大の変数であると言っても過言ではありません。

大規模設備を抱えた建物について、更新と建替えのどちらが経済的に有利かという判断枠組みは、過去記事「大規模修繕か、建替えか?不動産鑑定士が解説する築40年超オフィスビルの経済判断」の考え方が参考になります。

2-3. オペレーターと転用可能性

3つ目の論点が、運営主体への依存と、事業が終わったときの出口です。

温浴施設は、集客力・接客・清掃品質・イベント企画といった運営ノウハウが売上を左右します。運営者が交代すれば収益は変動します。評価にあたっては、現在の運営者の実績をそのまま将来に投影してよいのか、それとも市場の標準的な運営者を想定すべきなのかを判断する必要があります。

そして、事業が立ち行かなくなったときの出口が問題になります。

温浴施設の建物は他用途への転用が極めて困難です。浴槽の解体、防水層の撤去、大型機械設備の処分――これらには相応の費用がかかります。土地としての価値から解体費用を差し引いた金額が、事実上の下限価格になる構造です。

インバウンド需要を背景とした宿泊業との複合展開など、事業の広がりを検討するケースも増えています。宿泊施設の評価の考え方については、過去記事「インバウンド本格回復!『ホテル・旅館』の不動産評価はどう変わるのか?」もご参照ください。

第3章:評価を依頼する際の実務

3-1. 必要な資料

温浴施設の評価では、通常の不動産に加えて次の資料が重要になります。

  • 直近3〜5期分の損益計算書(部門別売上がわかるもの)
  • 入場者数の月次推移、客単価の推移
  • 設備台帳と、過去の設備更新の履歴・金額
  • 修繕計画、今後の更新予定
  • 公衆浴場法に基づく営業許可証
  • 温泉利用の場合:温泉分析書、掘削・動力装置・利用の各許可書、湧出量の測定記録、引湯契約書
  • 消防用設備等点検結果報告書

設備更新の履歴は、将来の資本的支出を見積もる唯一の手がかりです。断片的でも構いませんので、可能な限りご用意ください。

3-2. 評価の目的を明確にする

温浴施設の評価が必要になる場面は多岐にわたります。

場面評価の性質
事業譲渡・M&Aの価格検討不動産と事業を切り分けた評価
金融機関の担保評価保守的な前提での評価
相続・事業承継相続開始日を価格時点とする評価
賃貸借の賃料設定売上高に応じた歩合賃料の妥当性検証
会計上の減損判定決算日を価格時点とする評価

同じ施設でも、目的によって求める価格の種類や前提条件が変わります。ご依頼の際は、何のために価格が必要かをお知らせください。

3-3. 早い段階でご相談ください

温浴施設の売買や承継は、交渉が長期化しやすい取引です。売主は自ら育てた事業への思い入れから高い価格を期待し、買主は設備更新の負担を織り込んで慎重な数字を出す。この隔たりは、感覚での議論では埋まりません。

資本的支出をいくらと見るか、還元利回りを何%とするか――こうした前提を第三者が数字で示すことで、初めて建設的な交渉が始まります。

当事務所では、特殊なアセットタイプの不動産評価にも精通しており、事業と不動産を切り分けた評価に対応しております。

まとめ

温浴施設の評価は、建物という器ではなく、そこで営まれる事業の収益力を評価する作業です。源泉・設備・オペレーターという3つの論点が、価格を大きく左右します。

要点を振り返ります。

  • 温浴施設はオペレーショナルアセットであり、建物が特殊構造で転用が困難なため、原価法による積算価格が市場の実態と乖離しやすい
  • 一般公衆浴場の入浴料金は物価統制令により都道府県が上限額を定めるが、スーパー銭湯やサウナ施設が該当するその他の公衆浴場にはこの規制が及ばない
  • 温泉を利用する権利は、大審院昭和15年9月18日判決が土地所有権とは別個の一種の物権的権利と認めており、源泉の帰属・引湯契約・湧出量の推移の確認が不可欠である
  • 資本的支出の見立てが最大の変数であり、年平均2,000万円を控除するかどうかで収益価格が3億7,500万円と1億2,500万円に分かれる試算例もある
  • 事業終了時の転用が困難なため、土地価格から解体費用を控除した水準が事実上の下限価格となる

温浴施設の売却・承継・取得を検討されている事業者様、担保評価や事業性評価に取り組まれている金融機関のご担当者様、そして温浴施設への投資を検討されている投資家の方へ。

事業と不動産を切り分けた評価が必要な場面では、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。

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